新日本フィルハーモニー交響楽団
第650回定期演奏会
〈トリフォニーホールシリーズ〉
2023年6月24日14:00 すみだトリフォニーホール大ホール
指揮/シャルル・デュトワ
管弦楽/新日本フィルハーモニー交響楽団
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ストラヴィンスキー:バレエ音楽『火の鳥』組曲(1919年版)
ベルリオーズ:幻想交響曲
主催:公益財団法人 新日本フィルハーモニー交響楽団
共催:すみだトリフォニーホール
デュトワは1936年生まれ。今年87歳だが、指揮振りは力感あふれ、元気いっぱいだ。遠目には明らかに50代の動き。
札幌のPMFの音楽監督を務めたのは2000年から2002年までの3年間。もう20年も前のことだが、その時よりも音楽の造型は明確で力強く、出てくる音は当時より充実している。円熟の境地だ。老化という言葉は彼には全く関係ないようだ。同じ世代の指揮者と比較すると、なんという違いか。
以前同様、全体的に音楽作りは実にわかりやすく、特に今日のようにストーリー性のある作品には絶大な効果を発揮する。極端なことを言えば、聴衆は基礎知識だけあれば、あとは演奏を聴くと作品の全てを理解できる、というタイプの演奏だ。それを作為的にならずに、その境界線ギリギリのところで、作品から多彩な表情を引き出し、全体をまとめ上げている。これはわかりやすく作品の内容を伝えるという彼の基本的な姿勢で、教育活動にも熱心な彼ならではの考え方なのだろう。
その点から、後半のベルリオーズが見事だった。無機質なフレーズは一切なく、一つ一つのフレーズに表情があって、柔らかく歌ったり、鋭いリズム感とメリハリのある切れ味の良い表情をつけたり、一刀両断に和音を響かせてみたりと、オーケストラを自由自在に操る。
全ての箇所でここはこのように表現する、という明確で強い意志が感じられる。弱音から最強音まで表現の幅が広く、それがベルリオーズには相応しい。オーケストラは16型の大編成だったが、単に物理的に大きな音ではなく、心理的に聴き手に迫ってくる強い説得力のある音だ。時には極端過ぎる表情もあったかもしれないが、オーケストラはよくデュトワの要求に応えて、その能力をほぼ全て発揮していたのでないか。
デュトワのイメージからすると、弦楽器グループは、ヴァイオリンは構想通りで、おそらくヴィオラ以下の中低音がもっと力強く、明瞭に響いてほしかったのではないか。当然、第2楽章、第3楽章など比較的大人しい楽章よりは、ダイナミックな楽想を持つ楽章の方がより面白く聴けた。それにしても、これだけのスケール感を感じさせる「幻想」は滅多に聴けないだろう。
終演後、オーケストラが退場した後も、指揮者だけのカーテンコールが2回。
ベルリオーズに圧倒され、影が薄くなった感があるが、前半の演奏も良かった。冒頭のドビュッシーは繊細さよりは豊かさ、暖かさを表していて、かつ意外とロマンティックな演奏。透明感を求めるよりは比較的厚めのハーモニーでロマン派とストラヴィンスキーに繋がる20世紀音楽の橋渡し的存在として描いていたようだ。
続くストラヴィンスキーはストーリーを追って行けるほどの明確で、妥協のない表現。情景描写がわかりやすく、情感豊かであり、どちらかというとハッピーエンドで終わらない暗さを感じさせた火の鳥だ。金管楽器の扱い方など、もう少し細かくコントロールしてもいいのでは、という箇所もあったが、全体的に陰影感があり、物語が聴き手にわかるように、入念に仕上げていた演奏だった。
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