Kitaraのバースデイ
オリヴィエ•ラトリー オルガンリサイタル
2023年7月1日15:00 札幌コンサートホールKitara 大ホール
オルガン/オリヴィエ•ラトリー
F.クープラン:教区のためのミサ曲より グラン•ジュによる奉献唱
J . S .バッハ:パストラーレ へ長調 BWV 590
サン=サーンス/シン=ヤン•リー編曲:組曲「動物の謝肉祭」より
第7曲 水族館
第10曲 大きな鳥籠
第13曲 白鳥
フランク:オルガンのための3つの小品より
第3曲 英雄的小品 ロ短調
ヴィドール:オルガン交響曲 第5番 へ短調 作品42-1
ラトリー:即興演奏
2012年以来、久しぶりの来札。
過去1998年、2004年と来札しており、今回は4度目の登場となる。Kitaraの歴代専属オルガニストの師でもある。
今までKitara の大オルガンから、最もバランスの良い素晴らしい音色を聴かせてくれたのがラトリーだ。その印象は今回も同じで、専属オルガニスト不在の中、久しぶりにすっきりと抜けてくる鮮やかな音色を聴かせてくれた。
今回は、細部まで徹底的に磨き上げた落ち着いた安定感のある演奏で、 しかもKitaraオルガンから今までに聴けなかった繊細かつ多彩な響きを生み出し、技術的にも音楽的にも他の追従を許さない見事な演奏だったと言える。以前のラトリーはもっと悪魔的な迫力があって、それが大きな魅力の一つだったが、それは影を潜めたようだ。若いと思っていた彼も60歳を越え、円熟の時期を迎えたのでは。
今回のプログラムはF•クープランから始まるフランスオルガン音楽の系図を辿る内容で、モダンの作風の作品は、最後の即興演奏で披露するというよく考えられたもの。
冒頭のクープランは、今日の演奏の傾向を示す、細かい表情と、落ち着いた語り口、まとまりのある響きで、音楽的にとても慎重かつ大切に丁寧に仕上げられていた演奏。この基本姿勢は最後まで一貫していた。
2曲目のバッハだけがドイツ系の作品で、名作「パストラーレ」を演奏。今日のプログラム全体のフレンチ的傾向を邪魔することなく、滑らかなアーティキュレーションと柔らかい音色で統一したレジストレーションで、全体的にまろやかな雰囲気を醸し出した演奏。田園風景が想起される写実的な演奏で、これはとても印象的だった。
サン=サーンスの編曲では「水族館」がレジストレーションの選択により、水中の風景が目に浮かぶほどの見事な情景を再現して、これは鮮やかな描写音楽。編曲はもちろんのこと、Kitaraオルガンで初めて聴く個性的で美しい演奏でこれは見事だった。有名な「白鳥」は伴奏型が主張の強い個性的な編曲で、旋律と伴奏が比較的対等に聴こえてきて面白かった。
続くフランクは、音色が引き締まって、明らかにバロック時代とは明確に区分された世界で、19世紀以降の新しいオルガンの機能が反映された、強い主張を感じさせる音だ。
深く歌い込まれ、フランクならではのバランス感覚の良い知的な作品構造が見事に再現された演奏で、やはりこの時代の作品になると、ラトリーの優れた演奏技術がより一層光り、Kitaraオルガンの性能が存分に発揮された名演だった。
後半のヴィドールが素晴らしかった。全体の骨格、輪郭が立体的に見えてくる演奏で、以前より全体的にテンポがやや遅くなったようだが、その分ディテールをかなり入念に仕上げて繊細な表現が多くなったようだ。
オルガン交響曲は、19世紀のカヴァイエ-コルのオルガンからインスピレーションを得て成立した作品だが、その交響的響きをこれほど多彩に鮮やかに表現した演奏は初めて。楽章毎のコントラストが素晴らしく、特に第3、4楽章での弱音での繊細な表情はKitaraのオルガンから今まで聴いたことのないもの。終楽章の華麗なフィナーレは迫力こそ前回来札公演に譲るものの、ディテールの明確さは今回の方が豊かだ。オルガンから考えうるほとんど全ての多彩な音色と表情を生み出し、Kitaraのバースデイに相応しい、名演奏だったと言えよう。
続く即興演奏のテーマは、山田耕筰の「この道」。言うまでもなく、札幌ゆかりの情緒豊かな名歌だ。ラトリーの即興は明らかに今日のプログラムを音楽的に完結させるために、20世紀の世界大戦以降のモダン思考に基づくもの。原曲のイメージとは全く異なるにせよ、ここでオルガンから近現代の響きを聴かせるのはおそらく計画通りだったのだろう。「この道」の冒頭ソドレミの4音のモティーフが展開部やフィナーレへ向かうモティーフとして多用されていて、聴衆にもわかりやすい即興演奏だった。
アンコールにヴィエルヌの有名な「ウェストミンスターの鐘」。これも骨格がしっかりとした、細部まで磨き上げられた、お手本のような素晴らしい演奏だった。
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