2025/03/11

 hitaruオペラプロジェクト

モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」

(全2幕・イタリア語上演)


2025年3月9日14:00  札幌文化芸術劇場 hitaru


指揮・フォルテピアノ / 園田 隆一郎
演出 / 粟國 淳
管弦楽 / 札幌交響楽団
合唱 / hitaruオペラプロジェクト「ドン・ジョヴァンニ」合唱団


ドン・ジョバンニ/栗原峻希

騎士長/大塚博章

ドンナ•アンナ/針生美智子

ドン・オッターヴィオ/荏原孝弥

ドンナ•エルヴィーラ/倉岡 陽都美

レポレッロ/岡元敦司

マゼット/粟野伶惟

ツェルリーナ/髙橋茉椰




 hitaruオペラプロジェクトは今回が2回目。
初回(2023年2月26、28日、「フィガロの結婚」と比較すると全てが飛躍的に向上しており、順調にプロジェクトの成果が上演内容に反映されているようだ。

  オーディションで選ばれた歌手は、声量などの個人差が多少あるにせよ、発音、発声などの音楽的訓練が徹底されて行き届いているようで、それぞれの完成度が高く、曖昧さがないのが素晴らしい。ほどよく適当に仕上げれば、といういい加減さが全くない


 舞台はステージ上に大きな階段状のセットを組み、登場人物はそれを上り下りしながら、幅広いアクティングエリアを形成し演技をしていくので、変化があって面白い。

 レチタティーフでは幕を下ろしてその前で歌い、その間に舞台転換をするなど工夫があって次は何が登場するのだろうかという期待感を持たせる。シーンによって背景や照明が様々に変化して行き、ドン・ジョバンニの地獄落ちのシーンなど、階段状のセットが割れてそこに落ちていくなど、空間の使い方が上手く、観衆を飽きさせない。

 舞台設定は原作に沿ったクラシックなもので、変に現代風にデフォルメする独りよがりの演出ではない。登場人物像が明確に描かれており、観衆にとって分かりやすく理解しやすい。

 なお、第1幕終了後に館長より演出にトラブルがあって、急遽変更して行った旨謝罪があったが、正直どこのシーンだったのかは全くわからなかった。


 音楽面では指揮の園田隆一郎が素晴らしかった。前回北海道二期会公演(2022111920 「皇帝ティトの慈悲」でもチェンバロの弾き振りの名技を披露してくれたが、今回も自分でフォルテピアノ(以下FP)を弾きながらの指揮で、相変わらずの達者ぶりを披露。全体的な音楽的進行をとても大切にした演奏で、札響もなかなかの好演。もっと場面ごとの表情の変化、コントラストが欲しいところもあったにせよ、これは国内第一級の演奏だった。

 最近はモーツァルトのオペラではほぼ全てFPを使用するようだが、チェンバロと違ってFPは響きがまろやかなので、もっと自由気ままでソリスティックなところがあってもいいと思った。今日は指揮を兼ねてのFP演奏だったので、ギリギリの表現だったかもしれない。


 歌手では、ドン・ジョバンニの栗原が出色の出来。レポレッロの岡元ともども歌も演技も抜群。ドンナ•アンナの針生は声量豊かで表現力があり、ベテランの味わいと落ち着きで存在感がありさすがの貫禄。その婚約者、ドン•オッターヴィオは第2幕に実力を発揮し、熱い拍手を浴びていた。

 騎士長の大塚は底力のある歌で、ドン・ジョバンニを地獄に落とすシーンでは迫力満点。

 ドンナ•エルヴィーラの倉岡は安定した演技と歌で前回のフィガロに引き続きの出演で好演。マゼットの粟野、ツェルリーナの髙橋は共に個性的で重要な役柄をしっかりと演じており、今日のオペラの隠れた主役。彼らと田舎娘達が音楽的にも演出的にも、とても新鮮に描かれていて、その登場シーンはとても爽やかで気持ちが良かった。

 1箇所、1幕の前半で、ドン・ジョバンニがツェルリーナを誘惑する有名な二重唱で何処にツェルリーナを連れ込むのか等々、この辺だけが演出が曖昧。音楽的にも抜群に素晴らしい箇所ゆえにちょっと残念だった。

 

 今日の席は当日券のみ販売のA席パーシャルビューという聞き慣れない2階席だったが、オケピットを上手上から見ることができ、ステージはほぼ全貌が把握できた面白い席。マニア向けのようで、熱心なファンが多かった。


 全体的に音楽、舞台共々丁寧に作り上げた上演で好感の持てる内容。配布プログラムによると今回の公演は約9か月の稽古を重ねたそうだが、このような息の長い自主制作がいつまで続くかが心配。次の公演まで、また2年待つのか、と思うと少々残念。質の高いオペラ公演を市民が鑑賞出来る機会をもう少し増やして欲しいところだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。