2022/11/21

 教文オペラプログラム 北海道二期会令和4年度オペラ公演 

W.A.モーツァルト

皇帝ティトの慈悲

2022111918:00112013:30  札幌市教育文化会館 大ホール


主催/一般社団法人北海道二期会


指揮/園田 隆一郎

演出/岩田 達宗

管弦楽/札幌交響楽団

合唱/北海道二期会合唱団


皇帝ティト:岡崎 正治(19日)/荏原 孝弥 *客演(20日)

ヴィテッリア:土谷 香織(19日)/千田 三千世(20日)

セスト:東 園己(19日)/岩村 悠子(20日)⇒東 園己

プブリオ:岡元 敦司(19日)/清水 邦典(20日)⇒岡元 敦司

アンニオ:桑島 昌子(19日)/相原 智佳(20日)

セルヴィーリア:新井田 美香(19日)/月下 愛実(20日)⇒新井田 美香


1120日公演に出演を予定しておりました、岩村悠子、清水邦典、月下愛実は、 諸般の事情により出演ができなくなりました。これに伴い出演者を変更させていただきます。

1119日主催者発表)


 

      指揮者の園田がレチタティーヴォのチェンバロも弾きながらの一人二役。指揮はもちろんだが、このチェンバロが実に見事だった。
 レチタティーヴォが単調なこの作品に多彩な彩りを添え、単なる物語を語る役割だけではなく、アリア、重唱とを結ぶ橋渡し役として、音楽ドラマを構成する重要な役割を与え、オペラ全体をより充実した作品に仕上げていた。 
 このレチタティーヴォ・チェンバロは実に手慣れているので、かなりの豊富な演奏経験があるのではないかと思われる。
 その時々での歌詞の内容をたくみに暗示しながら、歌手が歌いやすいように様々な表情、和声を付け誘導したり、あるいはここで絶対入らざるを得ないタイミングを作ってあげたり、と歌手をリードする有能な職人のような鮮やかな演奏だ。様々な即興句を入れたり、場繋ぎのために単純なアルペジオを演奏したりと、幅広い音域を自由に動きながら実に多彩な表情を聞かせてくれ、絶対的な安心感があった。

 またレチタティーヴォとアリアの繋ぎが自然で、これは一人二役ならでは。オーケストラのアンサンブル、歌手との絶妙な呼吸感、タイミングは実に見事で、これほどの一体感は首都圏での公演でも滅多に経験しない、素晴らしいものだった。


 札幌交響楽団が、美しい弦楽器の音色、クラリネット、オーボエの見事なソロなど、これも出色の仕上がりで、指揮者の統率力によるのはもちろんのことだが、オーケストラの自発的な表現能力がないと、ここまでの素敵な演奏は出来なかっただろう。何よりピッチがとてもきれいだったのが強く印象に残った。


 今回の演出は岩田。ここのステージを最大限生かして活用しており、舞台の中心に大きな宮殿と思われる、西洋風あずまやの雰囲気も感じさせる建物があり、オペラ階段で囲まれ、そこを歌手が登り降りする。

 その周囲、主に背景だが、戦乱の跡を示すセットが配置してある。宮殿は基本的な色彩はホワイト系でピックアップされ、それが、場面ごとに照明でふさわしい色に転換される。例えば反乱が起きて火災が起きたシーンではレッド系中心になるなど。

 歌手はこの中で基本的に正面を向いて歌うため、ステージ上で最も音響的に優れた場所で歌うことになり、場内にしっかりと声が届き、聴衆にとって、とても聴きやすい。また表情、仕草もはっきりと明確に伝わり、かつ物語の進行に沿った工夫ある演出となっているので、作品を理解しやすい。

 この作品だと今風にいくらでも読替えができる演出が可能だし、最近は音楽よりも演出を優先した舞台が多い中、今回は音楽性と物語のオリジナリティを優先、大切にした演出だ。クラシックで落ち着いた、しかも衣装、照明含め色彩的にも品のある舞台を披露してくれたので、聴衆にとっては嬉しい限りだ。


 歌手では、初日の、皇帝ティトの威厳さとスケールの大きさを見事に演じた岡崎と、2日目の、皇帝でありながらも揺れ動く心理状態を繊細にかつ表情豊かに表現した荏原が、ともに出色の出来。

 ヴィッテリアは、初日の、ややあばずれ風の、活発な激情タイプを演じた土谷、2日目の、まだ迷いのある純真な心が残っている雰囲気を出していた千田がそれぞれ好演。

 2日連続での出演だったセストの東は、2日目の第2幕でのティトとの対話でのお互いの心理状況を絶妙に表現した見事なシーンは、このオペラ公演の一つの頂点だったのではないか。その他のキャストも好演。合唱はコンパクトな編成ではあったが、この規模のホールでは全く問題なく充実した声量。

 

 教育文化会館の大ホールは 1,100席が基本で,今回のようにオケピットを使用すると約1,000席という比較的コンパクトな会場となる。元々響きの良いホールでもあり、この程度の広さだと、何よりも舞台装置の詳細と歌手の演技が近くで見え、しかも歌手もオーケストラもよく聞こえるという利点があり、聴衆にとってとても心地良い。2,000席前後のホールだとこの心地良さを味わうことは難しい。

 予算面では大変なのかも知れないが、このシリーズを今後とも是非この会場で継続してほしい。今回の北海道初演は、細かい技術的な問題のある箇所もあったにせよ、作品の魅力を余すところなく伝えてくれたことで大成功ではないか。特に指揮者・チェンバロの園田に大きな拍手を贈りたい。

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