2025/07/11

 鈴木 雅明 チェンバロリサイタル

2025年7月10日19:00  札幌コンサートホールKitara小ホール


チェンバロ/鈴木雅明



J.S.バッハ:ソナタ ニ短調 BWV964
       シンフォニア 第11番 ト短調 BWV797
J.S.バッハ/レオンハルト編曲:シャコンヌ ト短調

 (無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 BWV1004による編曲)
J.S.バッハ:「平均律クラヴィーア曲集 第1巻」より

        プレリュードとフーガ 第8番 変ホ/嬰ニ短調 BWV853
       「6つのパルティータ」より 第6番 ホ短調 BWV830



 

 鈴木雅明を、指揮者としてはバッハ・コレギウム・ジャパンと札幌交響楽団で、ソリストとしてはオルガンを演奏するコンサートを何度も聴いて来たが、意外にもチェンバロソロを聴くのは初めて。しかもオールバッハということで期待度が高かったためか、ソールドアウトの盛況だった。

 彼のチェンバロソロは、CDで多種多様の魅力的なバッハ演奏を聴くことが出来るが、こうしてライブであらためてじっくり聴いてみると、さすがに世界で活躍するだけあって、スケール感があり、華やかで個性豊かな演奏だ。


 今日のプログラムはコンセプトが明確で、前半はヴァイオリン作品からの編曲を、後半はオリジナルのチェンバロ作品を演奏。どちらのパターンでも楷書体で輪郭をクリアにする、というよりは即興性を重んじ、概して全体的に早めのテンポで、自由闊達にバッハの世界を再現する演奏だ。

 随所に即興的な走句が加わり、聴き手を飽きさせない。一方で、演奏の前には作品をユーモアを交えながらわかりやすく紹介してくれ、演奏にもお話にも長年の豊かな演奏活動の蓄積を感じさせる蘊蓄のある内容だった。


 冒頭のソナタニ短調では、最終楽章に向かって盛り上げていくエネルギーと即興性豊かなスケールの大きな表現が素晴らしい。第2楽章の長大なフーガはやや早めのテンポで、もう少しじっくりと原曲のヴァイオリン作品の違いを味わいたかったのが正直な印象だが、これも含め、まさしく鈴木雅明の世界。


 シャコンヌは大きく一筆書きのように演奏し、作品のスケール感を見事に再現してくれた秀演。もっと色彩豊かに各変奏を描いてもいいと思ったが、このファンタジックな世界観は彼ならではのものだろう。


 後半のパルティータ第6番は、大きなキャンバスに描いた大家の名画のように、奥行きのある聞き応えのある演奏で、この自由で豊かな筆使いの見事さは、他の誰からも聴けないものだ。

 例えば、第1曲目のトッカータでの即興的な箇所と堂々としたフーガの歩みのコントラストの見事さなど、例を挙げればきりがない。各舞曲ごとの性格の違いや、レジストレーションによる音色の対比を味わう隙がないほど、次々と先に進んでしまうので、ややせっかちすぎる印象も受けたが、これも彼の個性なのかもしれない。


 ホール所有のドイツタイプのチェンバロは音色がきれいで、ややフレンチタイプの香りがしたにせよ、とても良く整調されていて素晴らしかった。

 アンコールに、(鈴木雅明のお話によるとバッハばかり続いたので、お口直しに)ウイリアム・クロフトの魅力的な小品、グラウンド ハ短調を演奏。

 楽譜通りに演奏か、と思いきや最後に半音階的な即興パッセージを加え、バッハへのオマージュを忘れないところはさすが。

 貫禄充分の見事なリサイタルだった。

2025/07/10

 PMF2025 オープニング・ナイト

2025年7月9日18:30  札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮/カリーナ・カネラキス
PMFオーケストラ


PMFベルリン(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団メンバー) 

 アンドレアス・ブラウ(フルート)

 アレクサンダー・バーダー(クラリネット)

 サラ・ウィリス(ホルン)

 フランツ・シンドルベック(パーカッション) 


PMFウィーン(ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団メンバー)

 ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン I)

 ダニエル・フロシャウアー(ヴァイオリン II)

 ハインツ・コル(ヴィオラ)

 ペーテル・ソモダリ(チェロ)

 ミヒャエル・ブラーデラー(コントラバス)


⚫️バーンスタイン:「キャンディード」序曲


 カリーナ・カネラキス/PMFベルリン・PMFオーケストラ
 

⚫️ヨハン・シュトラウスII:オペレッタ「ウィーンのカリオストロ」序曲

              ウィーンのボンボン作品307


 PMFウィーン/PMFベルリン


⚫️シューマン:4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック 

       ヘ長調作品86


 カリーナ・カネラキス/PMFウィーン・PMFオーケストラ


 アンドリュー・ベイン(ホルン)
 シュテファン・ドール(ホルン)
 福川伸陽(ホルン)
 サラ・ウィリス(ホルン)



カリーナ・カネラキス

 2023年から始まったPMFオープニング・ナイト、過去2回と比べると来場者が多く、このコンサートが浸透して来たようだ。

 今回のPMF前半のゲストコンダクターは2012年PMF修了生のカリーナ・カネラキス。

 颯爽とした鮮やかな指揮ぶりで、動作がキビキビしていて、音楽は伸びやかな生命力を感じさせる。とてもわかりやすい音楽作りをする指揮者だ。


 オープニング・ナイト毎回恒例の「キャンディード」序曲は今までの歴代指揮者の中でも、と言ってもカネラキスで3人目だが、ひときわ切れ味の良さを感じさせる指揮者。歯切れ良く、エッジの効いた鮮やかな演奏だ。

 今日聴いた限りでは、オーケストラが奏でる音色は必ずしも美しいとは言えないが、それはこれからじっくり磨き上げていくのだろう、という期待感を感じさせた。その前半の総仕上げが12、13日のPMFオーケストラ演奏会で、これは大いに楽しみだ。


 ソリスト群はいつものウィーン・フィル、ベルリン・フィルを中心をした教授陣で、彼らが一緒に演奏したヨハン・シュトラウス2世の2曲はさすがの仕上がり。ひょっとしてこの豪華な組み合わせはPMFでしか聴けないのかもしれない。

 演奏が未熟だと聴いていられない作品だが、バランスの良さ、さりげない微妙なテンポの揺れとかニュアンスなど、さすが、と思わせた演奏。室内楽版による小編成にもかかわらず、音の薄さは全く気にさせず、聴衆を存分に楽しませてくれた。

 ライナー・キュッヒルはPMFでの勤続年数と年齢は教授陣の中ではトップクラスだろう。今日のプログラムでは、さすがの貫禄で、お見事だった。

 

 シューマンの「4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック」 は有名な作品だが、4人の粒が揃わないと演奏出来ないため、意外に聴く機会は少ない。

 今日は4人ともトッププレイヤーで、これだけのソリストが揃う例も珍しいのでは。なるほどこういう作品なのだ、と思わせた達者な演奏だったが、シューマンらしいロマンティックな世界を味わう、というよりはホルンの名技を余すところなく聴かせてくれた演奏。

 多少のフェスティバル的な雰囲気を漂わせていた演奏で、カネラキスの指揮もアンサンブルとしては申し分なく見事。アンコールに第3楽章をもう一度。


 いよいよ11日からはフェスティバルが本格的始動。今年はどのような演奏を聴かせてくれるのだろうか。

(写真はいずれもPMFホームページから引用)