2025/07/18

 五明佳廉&小菅優 デュオリサイタル

2025年7月16日19:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


ヴァイオリン/五明佳廉
ピアノ/小菅優


モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第35番 ト長調 K. 379
ショパン:舟歌 嬰へ長調 作品60

サミュエル・アダムズ:ヴァイオリン・ディプティク (2020)

ドヴォルザーク:ロマンス へ短調 作品11

 ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 作品108



 とても素晴らしいデュオだった。五明は一つ一つのフレーズを繊細かつ大切に歌い上げ、普通のヴァイオリニストなら、さっと流してしまうような小さなモティーフでも大切に表現していく。それが積み重ね一つの大きな作品に仕上げていく、というパターンだ。

 音程、重音など、とてもきれいで音楽的。ボーイングは柔らかく、音色は美しく、申し分ない。


 一方の小菅は、ソロでも室内楽でも抜群のセンスで演奏し、今日も柔らかく暖かい音楽とすきのない見事なアンサンブルで、五明と一体となって演奏。

 冷たい表現が一切なく、親しみやすい音楽性は相変わらず。五明のきめ細かい表現にピッタリと寄り添いながらも、自己主張のある音楽を奏でる。

 お互いに主張し合い、しかもその2人の感性が一体となって、作品をよりクリアに大きく表現していくので、聴いていてとても気持ちの良いデュオだった。


 名作、モーツァルトのソナタは、とても素敵なモーツァルト。微に入り細に入り繊細に音楽を語り、こんなに表情豊かな作品だったのか、とあらためて認識させてくれた演奏。きめ細やかに物語るように歌う五明と、繊細だが繰り返しの時は即興句を入れるなど、流麗で美しい歌を聞かせてくれた小菅と、息のあった見事なアンサンブルを聴かせてくれた。


 ショパンは豊かな響きで全体を柔らかく覆った小菅ならではの舟唄。技術的にも音楽的にもゆとりがあり、懐の深い、スケール感豊かな演奏だった。


 アダムスの作品は当日のプログラム解説によると、ロックダウン中のコロナ禍の際に書かれた作品。内向的でバッハへのオマージュのようなヴァイオリンソロの第1部とオスティナートリズム風の絶え間ない同型反復を繰り返し、緊張感を高めていくデュオの第2部からなる。五明はここで静から動への幅広い表現力とすきのない鮮やかなテクニックを披露。

 作風は、暗く、最後まで解決しない鬱積した感情を持っているようだが、五明の卓越した音楽性によって作品の価値はより高められたようだ。特に第2部で聴かせてくれた2人の集中力には感服。


 後半、ドヴォルジャークは静謐な感覚と大胆な感性が行き来し、全体を品よくまとめ上げた好演。


 最後のブラームスは、作曲者がこの作品に込めたあらゆる形のモティーフ、感情が全て丁寧に色々な表情で表現されており、実に多彩。時としてやや断片的になりがちなところもあったにせよ、重厚というよりは多彩さに力点を置いた演奏で、色々な顔を持ったブラームスが登場して実に聞き応えのある内容だった。特に五明をしっかりとサポートしつつ豊かでまろやかな音色で、陰影豊かに演奏していた小菅のピアノが出色の出来だった。

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