ボリス・ゴドゥノフ
2022年11月26日14:00 新国立劇場
指 揮/大野和士
演 出/マリウシュ・トレリンスキ
美 術/ボリス・クドルチカ
衣 裳/ヴォイチェフ・ジエジッツ
照 明/マルク・ハインツ
映 像/バルテック・マシス
ドラマトゥルク/マルチン・チェコ
振 付/マチコ・プルサク
ヘアメイクデザイン/ヴァルデマル・ポクロムスキ
舞台監督/髙橋尚史
ボリス・ゴドゥノフ/ギド・イェンティンス
フョードル/小泉詠子
クセニア/九嶋香奈枝
乳母/金子美香
ヴァシリー・シュイスキー公/アーノルド・ベズイエン
アンドレイ・シチェルカーロフ/秋谷直之
ピーメン/ゴデルジ・ジャネリーゼ
グリゴリー・オトレピエフ(偽ドミトリー)/工藤和真
ヴァルラーム/河野鉄平
ミサイール/青地英幸
女主人/清水華澄
聖愚者の声/清水徹太郎
ニキーティチ、役人/駒田敏章
ミチューハ/大塚博章
侍従/濱松孝行
フョードル-聖愚者(黙役)/ユスティナ・ヴァシレフスカ
合唱指揮/冨平恭平
合 唱/新国立劇場合唱団
児童合唱/TOKYO FM 少年合唱団
管弦楽/東京都交響楽団
共同制作/ポーランド国立歌劇場
演出はマリウシュ・トレリンスキ。ムソルグスキーの原作自体そもそも色々な版、変更などがあるが、今回はそれらともかなりかけ離れたドラマ構成となっている。
ゴドゥノフは暴君という設定で、最後に僭称皇子に誘導され暴徒と化した民衆により殺害される。逆さ吊りにされ、晒し者にされる悲惨な最後を遂げる。
息子フョードルは介護が必要な障がい者で、聖愚者を兼ねた黙役として登場し、ゴドゥノフに殺される設定。
貴族の娘、マリーナは残念ながら登場しない。したがって血の気の荒い男ども中心のドラマとなっている。
グリゴーリイは僭称皇子(偽)ディミトリーを騙るが、エストニアではなくモスクワのゴドゥノフ殺害に向かう。最後に勝利を得て、凱旋する。
だが、聖愚者が、不適切な人物が権力を握ったことで、ロシアの未来の決定的不幸を予言し、幕を閉じる。今の世界情勢を暗示するようなストーリーだ。
ステージには透明なキューブがいくつも登場し、それがフョードルの居室になったりと、移動しながら様々な場面を形成する。衣装は現代で、スーツとネクタイ姿の貴族が会議を行う。
ステージ奥のスクリーンにはおそらく中心人物のピックアップ画像が投影されていたようだが、今回観た4階最上段席では、上部の約4分の3は死角で何が投影されていたのか全くわからない。これは、理由がどうであれ、もう少し工夫と配慮が必要だろう。
ということで、詳細なストーリーは一度観ただけではすっきりと理解できず(これは私だけかも知れない)、もう一度観ると隅々までわかりそうだが、演奏はともかく、このような暗い結末の設定だと、気が重くなり、個人的には二度と観たいとは思わない。ただ、現況の世界情勢を考えると、今回このオペラ公演が実現したこと自体素晴らしいことなのかも知れない。
演奏は指揮の大野和士が素晴らしかった。手兵のオーケストラのためか、表現も響きも極めて充実しており、聞き応えがあった。最上段の席では、天井まで上がってきた響きがうまい具合にまとまり、舞台とは裏腹に、重厚なロシアの音楽世界が見事に展開されていた。
観ていて胃の痛くなるような、不愉快なシーンであっても、場面ごとの音楽は、その心理的描写が見事に描かれていて、目を瞑って音楽だけ聴いていると、文句無しに素晴らしい。
歌手陣は、ビーメンを演じたゴデルジ・ジャネリーゼの存在感と、偽ディミトリーの工藤和真の憎々しげな表現力が特に印象に残ったが、他の歌手達も声がよく出ていて、それぞれ素晴らしい出来だった。
全編通じての合唱の迫力もいつになく見事。今日の公演が最終日ということもあり、出演者全員力を出し切っていたのかも知れない。
音楽的観点だけで言うと、これは大野の指揮したオペラの中でも極めて良質で、最高の仕上がりだったのではないか。
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