第649回札幌交響楽団定期演奏会
11月27日13:00 札幌コンサートホールKitara大ホール
指揮/エリアス・グランディ
ヴァイオリン/ヴィクトリア・ムローヴァ
管弦楽/札幌交響楽団
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死
ドビュッシー:「海」
指揮者のグランディはすでに「カルメン(札幌文化芸術劇場、 2020年1月)」で札幌交響楽団とは共演済。
グランディはオーケストラを豊かに響かせることが出来る指揮者だ。しかも無機的にならずによく歌えるし、音楽が若々しい。とても伸び伸びとしていて、陽性の明るい響きを引き出すので、今日はいつもより豊潤なオーケストラの響きが聴け、いい演奏会だった。
特に後半のプログラムは、必ずしも短期間で仕上げられる作品とは思えないが、良質の演奏を聴かせてくれた。自信のある作品だったのだろう。
ワーグナーがスケールの大きい、情感豊かな演奏。前奏曲では、細かい表情をとても丁寧に、微に入り細に入り描いていたし、また揺れ動く微妙な調性感覚が、美しい音色とハーモニーで表現されていて、心地良かった。愛と死でのロマンティックな表現も見事。よく歌い、響きにまとまりがあって、実にふくよかで、いい音がしていた。
ただ、全体的に健康的で明るい音楽だったので、妖艶さが少しでもあると良かったのかもしれないが、日曜日の昼に聴くワーグナーとしては最高だった。
ドビュッシーは、ワーグナーから一転して、すっきりとした響きがして鮮やか。もちろん、ワーグナーとは書法が全く違うので、異なる響きがするのは当然だとしても、この切り替えの感覚は、指揮者、オーケストラ共々実に見事だった。
各パートが緻密で繊細に書き込まれたこの作品をグランディがよく統率。札響から抒情的で美しい音を引き出し、多彩な表情を見せる海の様子を、色彩豊かに鮮やかに描き上げていた。大音響での爆発などもあるのだが、響きはけっして荒々しくなることはなく、この指揮者の優れたセンスが光った演奏だった。
全体を通じて、管楽器セクションの充実ぶりが素晴らしかった。弦楽器の爽やかな響きも聴きやすく、今日は他のオーケストラからは聴くことのできない札響ならではの音、響きが堪能できたのがうれしい。
ショスタコーヴィッチのソロを弾いたムローヴァは、ベテランらしい落ち着いた、安定感のある演奏で、以前と変わらない凛とした佇まいが全体的に感じられ、素敵だった。
楽章ごとに多彩な表情を聴かせ、深く歌い込んだ第1楽章、鮮やかな技巧で躍動的な表情の第2楽章、第4楽章の前の堂々としたカデンツァなど、この作品の魅力を余すところなく伝えてくれた。
作品そのものは、暗い陰鬱な音楽の中に、不屈の精神力を感じさせる、いかにもショスタコーヴィッチらしい音楽だが、ムローヴァの演奏からはロシアや作曲家に対する憧憬のような感情は一切感じさせない。
作品を極めて冷静客観的に見据えた厳しい演奏で、またそれがこの演奏家の魅力でもあろう。グランディは、オペラを得意とする指揮者らしく、良質のアンサンブルを作り上げていた。
ソリストアンコールにバッハの無伴奏パルティータ第2番からサラバンド。古楽器風の、語りかけるような、力がさっと抜けた表情豊かな演奏で、とても良かった。
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