札幌交響楽団hitaruシリーズ定期演奏会 第17回
~童話と絵と音楽と
2024年4月25日19:00 札幌文化芸術劇場 hitaru
指揮 / 広上 淳一
ヴァイオリン /ボリス・ベルキン
管弦楽/札幌交響楽団
尾高 惇忠:音の旅 オーケストラ版(2020)
1. 小さなコラール 8. 雪国の教会
2. 森の動物たち 9. なめとこ山の熊
3. おもいで 10. 注文の多い料理店
4. 優雅なワルツ 11. 種山ヶ原
5. シチリアのお姫さま 12. どんぐりと山猫
6. エレジー 13. 古い旋法によるフガート
7. 前奏曲 14. バレリーナ
15. フィナーレ~青い鳥の住む国へ~
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
ムソルグスキー(ラヴェル編) :組曲「展覧会の絵」
尾高の作品は、オリジナルは宮沢賢治の童話に基づく全14曲からなるピアノ連弾曲。2020年、これに第11曲を加え全15曲としてオーケストラ版が編集された。今日はオーケストラ版全曲の初演。
配布プログラムの解説にあった、尾高がパリ音楽院で精妙なエクリチュールを究めた、とあれば、ここで学んだ邦人作曲家達のあの難解極まる作品群が思い浮かんだが、さにあらず、題名を想起させるとてもおしゃれで気の利いた素敵な名品集だ。
ここには気難しい無調の現代音楽の姿は全くない。聴きやすいばかりではなく、聴き手の心を健やかに落ち着かせ、どこか憧れに満ちた夢のある世界をイメージさせる作品集だ。各曲は個性的で多彩、単なる情景描写に留まらず、郷愁を誘う懐かしさがある。特に前奏曲以降フィナーレまでが傑作。各曲数分程度の長さで全15曲を演奏しても約30分程度とちょうどいい長さ。
広上はおそらくこの作品をとても大切にしているのだろう。各曲の個性をよく生かし、オーケストラをよく歌わせ、まろやかな響きと表現でまとめ上げ、決して陳腐にもならず、作品がよりいっそう優れた内容に聴こえてくる秀演だった。今日の演奏を聴く限り、大人から子供まで幅広い世代が楽しむことができる作品だ。童話とのコラボレーションした演奏も面白そう。
ブルッフのソロを弾いたベルキンは美音の持ち主。若いヴァイオリニストだったらもっとテクニックを強調し、アタックの強い演奏をするのだろうが、今日は作品に込められた豊かな音楽性に主眼を置いた演奏。もちろん技術的にもこの作品を表現するのに全く過不足ない。
特に第1、2楽章がことのほか表情豊か。美しい音色で深く歌い込んだとても柔らかい音楽を聴かせてくれた。第3楽章はもっとテクニカルな要素を強調しても良かったような気がするが、終始大人の音楽を聴かせてくれた。
全体的に若手にはない味わいがあって、尾高の「音の旅」と並べて聴くには最適の演奏。広上の指揮は素晴らしく、オーケストラが雄弁で、この作品で、これほどオーケストラが表情豊かだったのは初めての経験。
「展覧会の絵」は、オーケストラを中央寄りに密集させ座らせての濃密な音作り。全体的にやや硬めの響きではあったが、広上らしいおおらかでスケール感ある演奏だった。ただ、ここの劇場は、札幌コンサートホールKitaraとは違って、なぜか低弦がよく響かない。これはどこの席に座っても同じのようだ。特に「バーバ・ヤガーの小屋」や「キーウの大門」ではもっとたくましい低音が聴きたかったが、Kitaraのようにグイグイ前に響いてこなかったのが残念。
それを除けば、今日は弦楽器と管楽器とのバランスがとても良く、前半も含め、この劇場でこれだけまとまりのあるいい響きがしたのは久しぶりだ。
トランペットの福田を筆頭に、管楽器群が大活躍。単によく演奏しただけではなく、全体的にアンサンブルとしてまとまりのある響きがしていたのが素晴らしい。響きがあちこち散らばることもなく、統一感があり、聴いていてとても安心感があった。
コンサートマスターは田島高弘。
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