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2024/06/11

 ダネル弦楽四重奏団 

 2024年6月9日 15:00 札幌コンサートホールKitara小ホール


ダネル弦楽四重奏団
 ヴァイオリン/マルク・ダネル、ジル・ミレ
 ヴィオラ/ヴラッド・ボグダナス
 チェロ/ヨヴァン・マルコヴィッチ
ピアノ/外山 啓介*


プロコフィエフ:弦楽四重奏曲 第2番 ヘ長調 作品92
ヴァインベルク:弦楽四重奏曲 第6番 ホ短調 作品35
ショスタコーヴィチ:ピアノ五重奏曲 ト短調 作品57*



 2年おきの来札がほぼ定番になってきたようで、前回の2022年(2022年6月4、5日)に続いて2年ぶりのダネル弦楽四重奏団公演。今回はオールロシアプログラムで、かなり渋めな内容にも関わらず、場内はほぼ満席。

 

 前回公演時よりも一層スケール感を増したようで、ちょっとした室内オーケストラよりも豊かな響きがするのではないか、と思わせるほど。4人とも音楽的にも技術的にも技量が揃っているのが強みだ。


 プロコフィエフは、民謡を題材したなかなか気の利いた1941年の作品。第1楽章の途中で、マルクの弦が切れるハプニングがあり、数分の中断後、もう一度最初から演奏。2回めは力が抜けたのか、一転柔らかい音色になって、印象が大きく変わった。

 演奏は、ことさら民族色を強調することもなく、また戦時の暗い雰囲気や土俗性もあまり感じさせず、どちらかというと室内楽作品としての高い完成度を感じさせた。

 もちろん随所に見られるプロコフィエフ独特の剛腕な音楽進行ぶりなども過不足なく見事に表現されており、力強さと、皮肉っぽい抒情性を鮮やかに表現した好演だった。

 

 ヴァインベルクは、1946年の作品。今日の作品の中では最も情緒的で繊細な作風を持ち、外向きの顔を持つプロコフィエフとは違う内に秘めた激しい情念を感じさせる。

 ダネルはそんな作品の姿を見事な集中力で余すところなく伝えてくれた。

 彼等はこの作品の初演者でもあり、すでにCDも発売されているが、それとはまた違った印象を受けた演奏。ライヴならではの録音には収まりきらないスケール感があり、各楽章の解釈もより繊細に、かつよりドラマティックになってきたようで、少しづつ表現の幅が広がっているようだ。

 それにしてもプロコフィエフとショスタコーヴィッチというロシア音楽の大王達に挟まれても、なんら遜色ないオリジナリティを持つ音楽的にとても充実した作品だ。これはもちろんダネルカルテットの追従を許さない見事な演奏の成果によるものだろう。


 続くショスタコーヴィッチは、1940年の作品。前半2曲と比較すると、より明確でシンプルな楽想と形式を持ち、ショスタコーヴィッチの作品の中では屈折した暗い感情が比較的少なく、その分聴きやすい。

 前半とは違って、各パートのソロやソロ的な動きが多く、4人の力量が如実にわかる作品だ。4人とも個性的なモティーフが現れる各楽章ごとの性格を、繊細かつ音楽的に、均整感のとれた音色で見事に表現。一切弛緩することなく緊張感を保ちながら全曲を演奏し、これは聞き応えのある素晴らしい演奏だった。

 彼等に負けず劣らず、この緊張感ある世界をダネルと一体となって表現した外山も素晴らしかった。特にフーガ風のユニークな楽想が展開していく第2楽章が、ピアノとカルテットが一体となった名演。

 アンコールにこの作品の第3楽章スケルツォ。明快な演奏で本編よりも、こちらの方がその性格をよく表現していたようだ。

2026/06/22

 ダネル弦楽四重奏団


2026年6月20・21日各15:00開演 札幌コンサートホールKitara小ホール


ヴァイオリン/マルク・ダネル、ジル・ミレ
ヴィオラ/ヴラッド・ボグダナス
チェロ/ヨヴァン・マルコヴィッチ


ポジティフオルガン/赤枝 サンテソン 留果

 (第26代札幌コンサートコンサートホール専属オルガニスト)※21日のみ


プログラム

DAY 1  

6月20日

メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 作品13
ラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調
チャイコフスキー:弦楽四重奏曲 第1番 ニ長調 作品11


DAY 2 

6月21日

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第16番 ヘ長調 作品135

グレンジ:弦楽四重奏とオルガンのための新作
[ポジティフオルガン/赤枝 サンテソン 留果]
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第6番 ヘ短調 作品80



 ダネルカルテットは2005年札幌コンサートホールが初めて招聘し初来日。今回は2024年6月9日以来、2年ぶりの公演で、11回目の来札となる。古典から現代までレパートリーは広い。

 前々回の来札時にも書いたが、このカルテットの印象は当時と大きく変わらないので再掲しておこう。


 ーマルク・ダネルのアクティブで、しかも表情豊かに歌い込まれた演奏が中心に展開されるカルテットだが、内声を担当するセカンド・ヴァイオリンのジル・ミレ、ヴィオラのヴラッド・ボグダナスの安定感が素晴らしい。オーケストラでもそうだが、内声部が充実していると、音が厚く、音楽的にも充実して聴こえてくる。チェロのヨヴァン・マルコヴィッチはいつもバランスの良い演奏をし、飛び出ることもなく、隠れて聴こえなくなることもなく、中庸の演奏で、主張がないようである、というカルテット奏者としては理想的存在だ。ー(2022年6月4日、5日


 DAY 1(第一日目)は作曲家の第一作目の弦楽四重奏曲を特集したもの。なかなか魅力的な構成だ。

 メンデルスゾーンは1827年18歳の作品。明らかにベートーヴェンをお手本としているが、早熟の天才ゆえ、すでにメンデルスゾーン特有の流麗な作風が確立されている。

 冒頭はややマルクが突っ走り気味でどうなることか、と思ったが、第2楽章以降は安定し、特にマルクがノンヴィブラートで弾いてみたり、素朴で民謡風に表現したり、ダイナミックに切り込み激しく弾いてみたりと、その多彩ぶりが素晴らしい。以前よりもより表現の幅が広がったような気がする。もちろん、4人が一体となってメンデルスゾーンらしい覇気のある才気走った、駆け抜けるような鮮やかさが見事に表現されており、2年ぶりのダネル、ますますの充実ぶりが伝わってきて嬉しかった。


 続くラヴェルは2007年10月の札幌公演以来2度目の演奏。メンデルスゾーンとは音色やバランスをガラリと変えて、抑制されよくコンロールされた美しい音色による演奏。強烈なオリジナリティをすでに確立していた若きラヴェル(当時27歳)の様式観が見事に表現されており、聞き応えがあった。

 2007年時の彼らの演奏はもう記憶にないが、以前より一層緻密になったような気がする。


 チャイコフスキーは、2022年にも演奏されている。ベートーヴェンの影響が如実に感じられる作品だが、このカルテットの良く歌い込まれた演奏で聴くとチャイコフスキー独特の情緒豊かな世界が広がり、特に有名な第二楽章、アンダンテ・カンタービレが唯一無二の静謐な世界が展開され、素晴らしかった。

全体的にはロシア的というよりもむしろラテン的な明るさを感じさせた演奏。


 アンコールにショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第1番(!)ハ長調作品49より第4楽章とチャイコフスキーの第1番より第4楽章をもう一度演奏。



 DAY 2(第二日目)は作曲家最後の作品を特集したプログラム。

ベートーヴェンはこの2日間で演奏された作品の中ではやはり別格の傑作であることを再認識。他の作品とは違い、何か特定の感情を表現したり想起させることはなく、優れたバランス感覚による、大きな普遍性を感じさせた演奏。

 一方で、ことさら晩年の崇高な作品だ、という堅苦しいイメージを全く感じさせない。楽しみながら作曲したのであろうベートーヴェンをより身近な存在にし、親しみやすい、新しい作品像を紹介してくれた名演だった。


 フィリップ・グレンジの弦楽四重奏とオルガンのための新作、「Bobok」は饒舌で良く話しかけてくる作品。

 グレンジは初めて聴く作曲家で、プログラム解説によると、この作品は「衰退」と「消滅」を表現しているようで、ドストエフスキーの同名の作品から着想を得たそうだ。日本人の現代作品であれば、静と動の対比、沈黙の重要さを意識させる作品が多いが、この作品では冒頭の静かなオルガンソロはともかく、カルテットが加わってくると、次第に饒舌になり何かおしゃべりに夢中になっているような雰囲気がある。やや鬱陶しさを感じさせる瞬間もあったが、ダネルの集中力のある演奏が終始格調の高さを崩さず、作品の価値をより高めたのではないだろうか。同時に、ダネルを良く知っている作曲家ならではの語り口だったことは確かだ。

 一方で、オルガンは、導入と衰退というこの作品の本質に関わる重要な役割を担っているとも言えるが、欲を言えば、オルガニストの活躍をもう少し聴きたかったところだ。

 この作品は、アンコールにもう一度演奏。細部の印象はずいぶん違って聴こえてきて、一度聴いただけでは本質が理解出来ないことを認識させられた。


 最後のメンデルスゾーンは、同じ調性のベートーヴェンの熱情ソナタを彷彿とさせる爆発する激しい感情の発露をダネルが見事に表現。今、このカルテットでなければ聴けない気迫のこもった激しい感情の爆発のようなものを感じさせた名演だった。日本人であればここまで徹底した表現は出来ないだろう、と思わせるダイナミックで劇的な演奏で、これは実に素晴らしかった。