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2022/06/07

 ダネル弦楽四重奏団 


202264日、5日 両日とも15:00  

 札幌コンサートホールKitara小ホール


ダネル弦楽四重奏団
 ヴァイオリン/マルク・ダネル、ジル・ミレ
 ヴィオラ/ヴラッド・ボグダナス
 チェロ/ヨヴァン・マルコヴィッチ


プログラム

4

First and Foremost~何よりも先ずは】
ハイドン:弦楽四重奏曲 1 変ロ長調    

    「狩」 作品1-1 Hob.III:1
ブラームス:弦楽四重奏曲 1 ハ短調 

      作品51-1
チャイコフスキー:弦楽四重奏曲 1 

         ニ長調 作品11

プレトーク お話/千葉 潤

        (札幌大谷大学学長)


65

【ロシアの作曲家たち】

ショスタコーヴィチ:弦楽四重奏曲 4    

          ニ長調 作品83

アウエルバッハ:弦楽四重奏曲 5 

「アルコノストの歌(Songs of  Alkonost)」   《アジア初演》

ヴァインベルク:弦楽四重奏曲 7 ハ長調 

        作品59

プレトーク マルク・ダネル、千葉 潤


 2005年札幌コンサートホールが初めて招聘し、来札。今回は2019年以来、年ぶりの公演で、9回目の来札。古典から現代まで幅広いレパートリーを持ち、札幌でも数多い名演を披露してきた。それだけではなく、小学校や大学などへのアウトリーチ活動も積極的に行ってきた。


 マルク・ダネルのアクティブで、しかも表情豊かに歌い込まれた演奏が中心に展開されるカルテットだが、内声を担当するセカンド・ヴァイオリンのジル・ミレ、ヴィオラのヴラッド・ボグダナスの安定感が素晴らしい。オーケストラでもそうだが、内声部が充実していると、音が厚く、音楽的にも充実して聴こえてくる。チェロのヨヴァン・マルコヴィッチはいつもバランスの良い演奏をし、飛び出ることもなく、隠れて聴こえなくなることもなく、中庸の演奏で、主張がないようである、というカルテット奏者としては理想的存在だ。

 今回は、4人それぞれの個性が以前より一層強く明確に主張されるようになり、それらが内面的調和を保ちながら大きな一つの音楽を生み出すように変貌してきたように思う。

 

 5日の公演が秀演。Kitara小ホールでの25年の歴史の中でも語り継がれるべき名演だ。特にアウエルバッハが素晴らしかった。作品はアジア初演。

「アルコノスト」とは女性の顔をした鳥で、その歌声を耳にした者は全てを忘れ、魂が体から抜けていくという(当日配布プログラム解説より)。手元にスコアがないので想像でしかないが、おそらくこれに関する何かストーリーを持った作品なのだろう、鳥が羽ばたく様子など色々な情景描写の表現などがあったように思う。

 無調だが、このような何か想像力を働きかけるロマン性があり、けっして無機質にならず、ある民族が持つ悲惨な歴史を感じさせ、長いヨーロッパ音楽の伝統上に立脚した感性が感じられる魅力的な作品だ。

 これほど作品を身近に感じさせたダネルカルテットの演奏が凄い。

各パートの高い表現能力、深い音楽性、緻密で求心的なアンサンブルと表現、緊張感に満ちていながらも、情緒豊かな歌に満ちており、最後まで聴き手を惹きつけてやまなかった。この演奏でなければ、これほど魅せられた作品にはならなかったであろう。なお、アウエルバッハは2009年にPMFのコンポーザ・イン・レジデンスを務めている。


 同じ5日に演奏されたショスタコーヴィッチとヴァインベルクも名演。やはり彼らのレパートリーの中心でもあり、かなり弾き込まれていて、熟成した音楽だ。2人がお互いに影響しあって作曲を続けていたことが伝わってきたし、特にヴァインベルクでの繊細で透き通った表情や、心を深く抉られるような悲痛な表現、ヴィオラの見事なソロなどからは、今までのダネルカルテットからは聴かれなかった精神的な深さを感じさせ、このカルテットが音楽的にも技術的にも常に進歩していることを示してくれた。


 ショスタコーヴィッチは一瞬たりとも停滞することのない隙のない演奏で、特に続けて演奏された後半の二つの楽章でのチェロの力強い表現が秀逸。この日のプログラムは、ショスタコーヴィッチと2人の現代ロシア楽派の作品、それとユダヤ音楽という重いテーマだったが、音楽芸術の存在の在り方を優れた演奏で示してくれた意義深いコンサートでもあった。(アンコールにショスタコーヴィッチの弦楽四重奏曲より第6番第2楽章、第1番より第2楽章)


 4日のハイドンは室内楽というよりは室内オーケストラを想せるスケール感ある演奏。千葉氏の事前レクチャーにあったように、まだ弦楽四重奏という形式が完成する前の作品で、バロック時代からの室内オーケストラを継承しているような演奏で、歴史の背景が見えてきた演奏だった。マルクのアダージョの歌い方など、以前に増してより深く豊かになってきたが、それを他の三人が冷静に支えているのはいつもの風景。この対照もまたこのカルテットを聴く楽しみだ。終楽章のアクティブな楽章など推進力とダイナミックさのある演奏はこのカルテットならでは。


 ブラームスは濃厚で、若き作曲家の熱い想いがこれでもか、と伝わってきた演奏。これだけのスケール感を感じさせる演奏はそうあるものではない。メンバー全員がドイツ系ではない、という彼等の持つ血の濃さが強烈に伝わって来て(逆に言えば、彼等の出自がダイレクトに感じられるのがまた彼等の魅力でもあるが)、違和感を感じるところもあったが、豊穣な響きで伝わってくる熱いメッセージは圧倒的で、素晴らしかった。

 チャイコフスキーはすっきりしていて、チャイコフスキーらしい情緒性が良質の響きで聴こえてきて良かった。特に第2楽章のマルクの静かで、淡々と、しかし、繊細で情緒豊かな表現と、それらを支えていく他の名の絶妙なバランスと作り上げていく透明なハーモニーは、このカルテットならではの魅力だ。


 アンコールのショスタコーヴィッチ(弦楽四重奏曲第1番より、第4楽章と第1楽章)が素敵だった。作曲家の迸る才能がよく表現されていた名演で、翌日の演奏会への期待度が高まる演奏だった。


 なお、両日とも千葉潤氏のプレトークがあり、初日のトークは演奏会への興味と期待を高めるとてもいい内容のもの。2日目のマルクの話は、ロシアとウクライナの戦争と芸術の関係を、演奏家としてこの問題をどう捉えているかを過去の例を挙げながら明確に語っていたのが印象的だった。

2024/08/03

 札幌交響楽団hitaruシリーズ定期演奏会 第18回

2024年8月 1日19:00 札幌文化芸術劇場 hitaru


指揮 /下野 竜也(首席客演指揮者:2024年4月就任)

管弦楽/札幌交響楽団


早坂文雄:二つの讃歌への前奏曲

スメタナ:連作交響詩「わが祖国」


 下野竜也の札響首席客演指揮者就任記念コンサート。下野はここ数年に絞ると、hitaru定期第10回(2022年8月4日、バーメルトの代役)札響名曲(22年9月 3日三大名曲)札響定期657回(23年11月12日 、マーラー交響曲第7番ほか)に登場し、それぞれ異なるレパートリーを披露し好評を得ている。札響ファンにはすでにお馴染みの指揮者である。

 就任記念で下野が選択したのはスメタナ連作交響詩「わが祖国」全曲。

 演奏にあたり、下野は配布プログラムに、「偉大な指揮者の演奏に挑むのではなく、そのスコアにどれだけ近づくことができるか、ということを胸に今日の舞台に臨みたい」と抱負を書いている。

 今日の演奏は、就任記念という意気込みがあったのか、細部まで周到に気配りをした完成度の高い演奏。今まで時として感じられたディテールの甘さや迷いが一切なく、聴衆を魅了する名作として自信を持って紹介してくれた演奏で、「スメタナのスコアに限りなく近づいた」名演だったと言えよう。


 連作交響詩としての物語性よりも優れたオーケストラ作品としての「我が祖国」全曲を聴かせてくれた、という印象を強く受けた。

 スコアに忠実な多彩で生き生きとした表情、そこにはもちろんボヘミヤの栄光を称えるための様々な情景描写があるが、その表現の的確さ、弦楽器と管楽器のバランス、全体的響きのまとめ方と全体の音楽設計、これら全てがバランス良く整っていた演奏だと言える。

 冒頭の「ヴィシェフラド」では、通常2台並べて設置するハープを今日は下手と上手に分散しての設置。ステレオ効果で面白い音響効果だったが、その後にハープが奏したモティーフを木管楽器が展開し、それが発展してトゥッティに至る流れが悠然と、かつ堂々としており、これが実に素晴らしかった。この悠然とした表現が、その後の演奏を決定づけたような気がする。

 その他では、第2曲「モルダウ」での月の光と妖精のシーン。響きに厚みがありながらも美しい情景描写の見事さ、続く第3曲「シャールカ」での歯切れの良い表現、第4曲「ボヘミヤの森と草原から」の穏やかだが重厚で広がりのある響き、第5・6曲での引き締まった壮大でドラマティックな表現など、取り上げればきりがないが、実に充実したスメタナだった。


 過去、札響で「我が祖国全曲」を演奏した指揮者たちはKitaraを舞台をしていたが、今回はhitaru。ここのホールの響きをこれほどうまく捉えた演奏は恐らく今回が初めてだ。Kitaraでは聴けない重厚な響きが実に心地よく感じられた。

  7月に堪能したPMFオーケストラの若さあるエネルギーに満ちた演奏もいいが、やはり長い歴史を誇るプロ・オーケストラの見事な仕事ぶりは比較にならない魅力がある。それを見事に引き出した下野の、今後の首席客演指揮者としての活躍を大いに期待しよう。


 今日は冒頭に恒例の邦人作曲家の作品が一曲、早坂文雄の「二つの讃歌への前奏曲」。下野がプレトークで、通常この作品は、2006年に再演する際にオーケストラ・ニッポカが編纂した校訂版を使うが、下野自身が早坂の自筆譜コピーと校訂版を東京音楽大学の図書館で約4時間比較検討した結果、アーティキュレーションの違いを発見、今日はそれを反映させる、とのメッセージがあり、確かに全く違う印象で聴こえてきたのが面白かった。タイトルにある「二つの讃歌」の意味はよくわからないそうだ。

 早坂最初期の作品で、第1曲の邦楽的響きと第2曲の西洋的響きの対比と変容がテーマのようだ。習作の枠を遥かに超えた意外と逞しい作風で、おそらく本人が想定したよりもいい音がしていた演奏ではなかったか。

 コンサートマスターは会田莉凡。


 今日のプログラム解説は藤野俊介氏。いつもながらの楽しく、読み応えのある文章だが、特に早坂文雄の解説が良かった。


2024/07/09

 Kitaraのバースデイ


まずはここから公演

2024年7月6日11:00 札幌コンサートホールKitara大ホール


オルガン/吉村 怜子
司会/北川 久仁子
ピアノ(ゲスト)/ウィリアム・フィールディング

        (第24代札幌コンサートホール専属オルガニスト)


ヘンデル:水上の音楽より 第2曲 ホーンパイプ
サン=サーンス:動物の謝肉祭より 第7番 水族館
近藤 岳:「きらきら星」の主題による変奏曲
チャイコフスキー:バレエ音楽「くるみ割り人形」組曲 作品71aより

            第8曲 花のワルツ(オルガン&ピアノ)


もっとじっくり公演

2024年7月6日 14:00 札幌コンサートホールKitara大ホール


オルガン/ウィリアム・フィールディング

     (第24代札幌コンサートホール専属オルガニスト)


J.S.バッハ/イゾワール編曲:カンタータ 「神よ、われら汝に感謝す」BWV29

                より シンフォニア
フォーレ:ドリー組曲 作品56より 

     第1曲 子守歌、第2曲 ミ・ア・ウ、第6曲 スペインの踊り
ヴィドール:オルガン交響曲 第5番 ヘ短調 作品42-1より 

      第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ
ボエルマン:ゴシック風組曲 作品25より 第3曲 聖母への祈り
デュリュフレ:アランの名による前奏曲とフーガ 作品7



 今年のKitaraのバースデイはオルガンコンサート。二本立てで、前半は0歳児から入場可能のいわゆる入門編、後半が本格的コンサートで、共に約45分のプログラムというコンパクトな内容。

 前半はお話し付きで、オルガンは札幌コンサートホールのオルガンスクール出身者、吉村怜子。東京芸大とリヨン国立高等音楽院でオルガンを学び、卒業後は札幌を中心に演奏活動を行っている。この欄でも出演したコンサートをいくつか紹介している(代表的なコンサートでは、2022年1月22日 「オルガンミュージアムへようこそ」)。

 ホール内は幼児の泣き声などでオルガンの音が充分聴こえてこなかったものの、演奏は音色がきれいで、作品の姿をきちんと伝えてくれる考え抜かれた冷静な演奏だ。今まで数多く聴いてきたこの世代の日本人オルガニストの中では、より優れた安定感とセンスの良さを誇る。地道に安定した演奏活動を行っており、今後により一層期待しよう。

 ヘンデル、サン=サーンスは落ち着いた雰囲気があって好演。近藤の変奏曲はそれぞれの変奏ごとの性格を司会者が紹介しながらの演奏。子供だけではなく、大人にもわかりやすく、これは面白かった。

 最後のチャイコフスキーではフィールディングがピアノで共演するなど、多彩なプログラムで楽しめた。アンコールは2人のオルガン連弾で、エルガーの威風堂々。

 全体的によく設計された良質のプログラムだった。


 

 後半のフィールディングは、今日はフランスの作曲家を中心に、色彩感ある演奏を聴かせてくれた。

 冒頭のイゾワール編曲のバッハは、いつものフィールディングならもう少し快活に演奏するのだろうが、今日は比較的落ち着いた演奏。オルガンの機能を活かし、音色の対比等で多声部に聴こえるように編曲しているが、演奏しにくい箇所があるのだろうか、まとめるのに多少苦労していたように聴こえた。

 その他ではフォーレが美しい音色で好演だったが、ボエルマンとデュリュフレがKitaraオルガンの魅力を存分に楽しませてくれた名演。これらの作品はやはりここのオルガンでなければ出せない洗練された音色があるようで、特にデュリュフレは、歴代専属オルガニストが何度も取り上げてきた名作だが、全体的な雰囲気のまとめ方では、とても見事な仕上がりだったとも言えよう。

 アンコールに「Happy Birthday to You」による即興演奏を披露。即興の基本はフランス近代の作曲技法に基づくもので、今日のプログラムにふさわしい統一感があって、センスの良さを示してくれた。

 オルガンの状態は良好。いい音色だった。

2022/07/14

 オルガン プロムナード コンサート


2022年7月7日12:15 サントリーホール


オルガン/ニコラ・プロカッチーニ 


J. S. バッハ:前奏曲とフーガ ト長調 BWV 541

モーツァルト:「ああお母さん、あなたに申しましょう」による

         12の変奏曲(きらきら星変奏曲)K. 265 (300e)

プロカッチーニ:「たなばたさま」の歌による即興演奏

ヴィエルヌ:24の幻想曲集 組曲第3 作品54 より

        6曲「ウェストミンスターの鐘」


 Kitara専属オルガニストのサントリーホール公演。

 ビジター公演の場合、当地のオルガンに慣れるためにかなりの練習時間が必要。そのハンディを考慮すると、今日のニコラは好演だったのでは。

 サントリーホールのオルガンはリーガー社(オーストリア)の制作。4段鍵盤で、パイプ(5898本)やストップ(74)の数ではKitaraより一回り大きい。

 音色は渋めで、個々の音色の美しさよりは、レジストレーションの妙、ミックスした音色を味わうオルガンだろう。

 札幌と比較すると湿度が高い東京だけに、エアコンが効いているとは言え、やはりサウンドにやや湿気の多い感覚・空気感があるのは否定できない。


 バッハはディテールがやや甘い感じがする演奏だったが、オルガンの響きと聴衆(約6割ほどの来場者か)の入ったホールのマッチングに、ニコラの戸惑いがあったのかもしれない。

 モーツァルトは調子に乗り切れなかったところもあったが、時間の制約のためか、札幌(7月2日、Kitaraのバースデイでも演奏)と違い繰り返しを省略した箇所が多く、あっという間に終了。折角の名曲なので、もう少し楽しみたかったが、残念。

 今日、最も印象に残ったのは、即興演奏。3曲目からステージ上のコンソール(演奏台)で演奏。流麗で、レジストレーションの選択もよく、キラキラ輝く雰囲気も出ていて、とてもきれい。作風もモダン過ぎず、クラシック過ぎず、と中々いい。このオルガニストの抜群のセンスがよく現れた演奏。オルガンの響きも良かった。

 ヴィエルヌは作品全体を見通したスケール感がよく出ており、オルガンの響きも充実していて、いい演奏だった。


 コンソールは、当然、オルガンとコネクトしており、ステージ上で弾いて音は上のオルガンから出る。多少違和感があるが、演奏者の様子をステージ上で見ることができるという利点がある。


 このプロムナードコンサートは入場無料だが、コロナ禍以降は座席指定制。当日券は当日、携帯で申し込み、座席を指定、紙での発券はせずに受付済のメールを見せて入場可。自由に入場できるまでにはまだ時間がかかりそうだ。

2022/09/25

 <Kitaraアフタヌーンコンサート>

野平一郎レクチャーコンサート

202292314:00  札幌コンサートホールKitara小ホール

ピアノ、チェンバロ、ポジティブオルガン、お話/野平一郎

J.S.バッハ:

ゴルトベルク変奏曲 BWV988より アリア ◆


平均律クラヴィーア曲集 1巻より

1 前奏曲とフーガ ハ長調 BWV846 

2 前奏曲とフーガ ハ短調 BWV847 

4 前奏曲とフーガ 嬰ハ短調 BWV849 

5 前奏曲とフーガ ニ長調 BWV850 ●

6 前奏曲とフーガ ニ短調 BWV851 

7 前奏曲とフーガ 変ホ長調 BWV852 ●

8 前奏曲とフーガ 変ホ短調 BWV853 

9 前奏曲とフーガ ホ長調 BWV854 

10 前奏曲とフーガ ホ短調 BWV855 

13 前奏曲とフーガ 嬰ヘ長調 BWV858 ●

16 前奏曲とフーガ ト短調 BWV861 

◇ピアノ、◆チェンバロ、ポジティフオルガン


    野平一郎は過去 kitara主催事業に2度出演しており、2003年3月にベートーヴェンシリーズでピアノソナタを、2008年9月に藤井一興とのデュオで、メシアンのアーメンの幻影、モーツァルト、シューマンなどを演奏している。共に素晴らしい演奏だった。

 今回はピアノ、チェンバロ、ポジティブオルガンでバッハの作品を弾きわけるお話し付きコンサート。楽器はそれぞれ、平均律、ヴェルクマイスター第3、キルンベルガー第3の違う調律法で調律されていて、その違いを同時に聴くことができる。各楽器は全てKitaraの所有のもの。

 

 3種類の楽器を弾きわけることは、実はとても大変なことだ。鍵盤のサイズ、タッチ、音を出す機構、音が出るタイミング、音量など、コントロールしなければならない情報量がかなり多く、普通の音楽家では難しい。それを、どの楽器で演奏しても違和感を感じさせなかったのは、野平の作曲家ならではの明晰な演奏と、同時にバッハの凄さでもある。しかも、どの楽器もいい響きがしており、これは3人のベテラン調律師による優れた調律・調整の成果でもあろう。今日の演奏会の陰の立役者でもある。


 ゴルドベルク変奏曲や平均律クラヴィーア曲集をいろいろな楽器で演奏する例は多いが(今年6月の第646回札響定期でオーケストラ版ゴルドベルク変奏曲が演奏されたばかり)、こうして一つのステージの中で様々な楽器を鑑賞できる演奏会はほとんど無い。今日はとても貴重な機会だ。

 

 冒頭のゴルドベルク変奏曲のテーマは全ての楽器で演奏。繰り返しの際にはレジストレーションを変えて演奏するなど、楽器の特徴、オリジナリティを紹介しながらの進行は,興味深かった。また、楽器の鍵盤の奥行きの違いで指使いが代わってくる話、バッハのBACH (2138)の数値を作品に込めるマニアックな作曲へのこだわり、20世紀のチェンバロ復興の歴史、調律の話など、さりげなく重要なことを語るところは豊富な知識量を誇る彼ならではのもの。

 

 比較して聴いてみると、特にポジティフオルガンによる演奏が面白かった。例えば、第5番の前奏曲は,ピアニストだと必要以上に速いテンポで演奏しがちだが、オルガンの音が出る機構上、速く演奏しても音が充分響く前に次の音を弾いてしまうために、全く意味をなさない。比較的ゆったりとしたテンポで演奏する必然性があり、楽器の違いによって演奏法が変わることが明確に示され、これは説得力があった。

 また変ホ長調の前奏曲では、この作品の持つ柔和でかつ華やかな性格がよく伝わってきて、楽器の特質と調性と作品の性格が見事に一致した三位一体の好例。後のベートーヴェンの英雄交響曲や皇帝ピアノ協奏曲などに通じるものを感じさせてくれた。


 全体的には、レクチャーの中でも話していたが、基本的に野平自身は、メインはピアニストで、古楽奏法によるチェンバロやオルガン演奏は行わない、ということで、やはりピアノによる演奏が最も手に馴染んでいる感覚があった。特に嬰ハ短調のフーガの立体的でスケール感ある表現が素晴らしかった。


 欲を言うと、今回は第一番の前奏曲を演奏したので、調律法の違いをここで紹介してくれると聴衆にとってはより有意義だったのでは。

 また,作曲家ならではの視点から、なぜこの作品をこの楽器で演奏するか、という説明がもう少しあるとよかった。


 アンコールでフランス組曲第6番のアルマンドをピアノ、サラバンドをオルガン、ガヴォットをチェンバロで続けて演奏。これは本日ならではの優れたアイディアで、とても面白かった。

 最後に、Kitaraのチェンバロがドイツのミートケモデルであることにちなみ、ブランデンブルグ協奏曲第5番の第1楽章のカデンツァを演奏、これが実に鮮やか。専門のチェンバロ奏者でも中々到達出来ない優れた演奏だった。

 アンコールを含めて、よく全体が考え抜かれたプログラムで、聞き応えのある良質な演奏会だった。

2022/04/01

 Kitaraアーティスト・サポートプログラム

ショパン・トークリーディング劇コンサート

ショパンの生涯と作品を朗読とピアノで紐解く新感覚の音楽会


2022年3月30日19:00  札幌コンサートホールKitara小ホール

ピアノ/鈴木 椋太

朗読/下司 貴大(しもつか たかひろ)


3つのエコセーズ 作品72-3.4.5    

ワルツ 第15番ホ長調

ノクターン 第20番 嬰ハ短調

エチュード 第12番ハ短調「革命」 作品10

エチュード 第11番イ短調「木枯らし」 作品25

バラード 第3番変イ長調 作品47

ポロネーズ 第6番変イ長調「英雄」 作品53

プレリュード 第15番変ニ長調「雨だれ」 作品28

幻想曲 へ短調 作品28

3つのマズルカ 作品56-1.2.3

ポロネーズ 第7番変イ長調「幻想」作品61


2022330日(水)開催「<Kitaraアーティスト・サポートプログラム>ショパン・トークリーディング劇コンサート」に出演を予定しておりました高井 ヒロシ(朗読)は、都合により出演ができなくなりました。つきましては、下記のとおり出演者を変更して開催いたします。何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。


【出演者変更】
高井 ヒロシ  下司 貴大(しもつか たかひろ)

(主催者発表)


 札幌コンサートホールが支援するアーティストサポートプログラムの一環で、今回は、朗読とピアノ演奏によるコンサート。

 朗読者がショパンに扮し、その生涯を自ら簡潔に述べる形式で、この種のコンサートによくありがちな長い喋りがなく、短くすっきりとしている。聴衆は演奏に集中でき、とてもいい時間配分だ。


 当日は配布プログラムにショパンの生涯と、演奏される作品がいつ作曲されたかが、併せて記載されており、これを事前にきちんと読んでおくと、朗読の内容がさらによく理解できる仕組みになっていたようだ。


 プログラム解説はA3紙面一枚分を縦いっぱいに使って、字体も大きく(年配者にはとても優しい配慮)、読みやすく、わかりやすく簡潔にまとめられて、いい内容だと思う。

 プログラムを読まずに、朗読だけ聞いた聴衆はセリフが短いので、ショパンの生涯がよく伝わらなかったかもしれないが、不明な所は配布プログラムでおさらいをすればいい。

 この頃は資料がびっしり掲載された分厚いプログラムが配布される例が多いが、かえって煩わしい場合もあり、あまり親切にしすぎないことも実は大切な要素ではないか。

 朗読を担当した下司はオペラ歌手としても経験豊かなので、演技も含め、安定していた。


 ピアニストの鈴木は、ともかく、よく弾ける。これだけ盛り沢山のプログラムにも関わらず、破綻も弾きこぼしもほとんどないし、疲れを知らずに最後まで弾き切るタフなピアニストだ。

 おそらく抜群のリズム感の持ち主なのだろう、難しい箇所でも流れに乗って一気呵成に弾き切ってしまうのはすごい。革命のエチュードや英雄ポロネーズは、その凄さが伝わってきた名演だ。


 一方で叙情的な表現にも優れ、ノクターンや雨だれの前奏曲、幻想曲と幻想ポロネーズでの冒頭のゆっくりした箇所での美しい表現などは、ほかの誰からも聴くことのできない演奏だった。


 ただし、それ以外では、ショパンにはもっと素敵で美しい箇所が数多くあるにもかかわらず、疾走するが如くどんどん先に進んでしまうところがあったのがとても残念。豊かな才能の持ち主だけに、作品の持つ繊細な美しさをもっと丁寧に紹介して欲しかった。


 当日のピアノは通常あまり使用されていない楽器のようで、比較的地味な響き。もう少しすっきりした明るい音色で聴きたかったが、これは演奏者の好みだったのかも知れない。