2023/10/31

 音楽堂ヘリテージ・コンサート Ongakudo Heritage Concert

ジョルディ・サヴァール&エスペリオンXXI

2023年10月28日14:00  神奈川県立音楽堂


主催:合同会社オフィス山根

共催:公益財団法人 神奈川芸術文化財団


ジョルディ・サヴァール&エスペリオンXXI


 ヴィオラ・ダ・ガンバ&ディレクション/ジョルディ・サヴァール

 ビウエラ&バロックギター/シャビエル・ディアス=ラトレ

 スペイン式バロックハープ/アンドルー・ローレンス=キング

 打楽器/ダビド・マヨラル


 

ルイス・デ・ミラン:ファンタジアおよび舞曲集「エル・マエストロ」

  ファンタジア第8番、第38番、パバーヌ第1番、ガイヤルド第4番
トバイアス・ヒューム:「音楽によるユーモア」
  ヒューム大尉のパヴァーヌ~ガイヤルド、
  たったひとりで行軍する兵士(無伴奏バス・ガンバ)
カタルーニャ民謡(サヴァール編):作者不詳
  アメリアの遺言、糸を紡ぐ女
フランセスク・ゲラウ:「音楽で綴った詩」
  エスパニョレータとフォリア(バロックギター)

「ムーサたちの涙」

  ジョン・ダウランド:いにしえの涙
  アントニー・ホルボーン:ムーサたちの涙、妖精の円舞
 
 アントニオ・デ・カベソン:パバーヌと変奏
 ジュアン・カバニリェス:序曲~イタリアのコレンテ
 マラン・マレ:フォリアによる変奏
 ルイス・ベネガス・デエネストローサ:カベソンのファンタジア

 アンリ・ル・バイイ:パッサカリア「わたしは狂気」
 新大陸に伝わったバグパイプ:摂政殿のラント~モイラの君主

              ~ホーンパイプ

サンティアーゴ・デ・ムルシア:「サルディバル写本」より 

             ガリシアのフォリア~イタリアのフォリア~
             舞踏曲「狂気の蜜」



 サヴァールも80代、ステージに登場する様子はちょっと歳をとった印象を受けたが、熱い情熱のこもった演奏で、まだまだ達者。

 今回はエスペリオンXXIのメンバーとの演奏会でソールドアウト(立ち見席が当日販売)。2013年9月に来札し、札幌コンサートホールでサヴァールのソロリサイタルを開催している。これもソールドアウトだった。ステージ上のサヴァールだけを照明で浮かび上がらせた幽玄な雰囲気の演奏会で、彼ならではの独自の世界を繰り広げた秀演だった。このときの演奏曲目が今日も演奏されていた。


 今回は総勢4名によるアンサンブルで、通常照明の演奏会。前半は16〜7世紀の作品集で、基本的には一般にパヴァーヌとガイヤルドと言われる緩急の対比する舞曲を中心に構成されたプログラム。本来踊るための姿から次第に様式化されて演奏会用ピースへと変遷していく過程を様々な演奏スタイルで聞かせてくれた。

 プログラム後半はフォリアがテーマとなり、盛大なフィナーレを迎える、というよく考えられた構成。

 それぞれの作品は短く聴きやすく、しかも編成を変え、アンサンブルとソロを交互に演奏するなど、聴衆を飽きさせないよう、かつ興味が持続するよう周到に組み立てられており、さすがサヴァールだ。


 サヴァールはディスカント・ガンバ(高音用のガンバ。小型のヴィオラ・ダ・ガンバ)とバス・ガンバ(通常目にするヴィオラ・ダ・ガンバ)の2つの楽器を演奏。ディスカント・ガンバも足に挟んで演奏するが、これがとても素晴らしくコントロールされており、美しい音色で音がホールの隅々まで通る優れもの。


 前半はバロック以前の時代の作品で、遠く遥かな時代の民衆の伸び伸びした姿が眼前に浮かんでくるような演奏。通り一遍の、楽譜通り演奏したアンサンブルではなく、即興性豊かで、生き生きとした生命力を感じさせ、聴き手に想像力を掻き立てさせる演奏だ。

 YouTubeでこのアンサンブルの映像が数多くアップされており、彼らの妙技を楽しむことができるが、こうして実際に聴いてみると、実に魅力的な音色だ。

 後半のさすがにマレーのフォリアになると、時代は一転して、名技を発揮するマレーとそれを楽しむ宮廷人の姿が浮かんでくる。サヴァールは前半でヴィオラ・ダ・ガンバソロが今ひとつ調子に乗り切れなかっただけに、一抹の不安があったが、ここでは絶好調。

 後半はフォリアによる名人芸大会、次々メンバーそれぞれが名技を披露して楽しませてくれた。

 ローレンス=キングのハープは常に安定していて、通奏低音の役割はもちろん、即興性豊かでソリスティックなパッセージで全体の雰囲気を作り上げていた功労者。

 ディアス=ラトレ(ビウエラ&ギター)はリュート族のビウエラとバロックギターを弾きわけ、特にゲラウの「エスパニョレータとフォリア」は鮮やか。

 打楽器のダビド・マヨラルは冷静に、地味にアンサンブルを支える役割だったが、様々な打楽器を多彩に弾きわけ、特に微細な音量での表現がとても魅力的で、視覚的にも楽しませてくれた。


 今回のような古楽アンサンブルの面白さは映像でも楽しめるが、各楽器の音量、響きはやはりライヴならでは。ジャンルを超えたエンターティメントとしても存分に楽しめた演奏会だった。欲を言えば、歌手を一人加えてくれると華やかさが増しただろう。


 古楽アンサンブルの常として、各曲ごとに演奏前にチューニングを繰り返し行う。これはそれなりに観ていると興味深くはあるが、何度も続くとさすがに飽きてしまう。全体の演奏時間の10分の1はこれに費やしていたのでは? チューニングのための即興曲など演奏する方法を考えてくれたら面白そうだが。

 そのためでもないが、終演はアンコール2曲を含め、16時30分。


 神奈川県立音楽堂は久しぶり。由緒ある歴史的建造物でホワイエ等の構造はさすがに古さを感じさせるが、音響はとても自然で美しくいいホールだった。

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