2023/10/09

 岡山 潔 メモリアルコンサート Vol.3

葵トリオ

ピアノ三重奏の調べ

2023年10月6日19:00  ふきのとうホール

        (札幌市中央区北4条西6丁目3-3六花亭札幌本店6階)

主催:ふきのとうホール


葵トリオ

   ピアノ/秋元孝介 ヴァイオリン/小川響子 チェロ/伊東裕


モーツァルト:ピアノ三重奏曲(ディヴェルティメント)変ロ長調 K.254

シューマン:ピアノ三重奏曲 第3番 ト短調 Op.110

ドヴォルザーク:ピアノ三重奏曲 第3番 ヘ短調 Op.65




 人ともソリスト級の演奏家で、かつアンサンブルに対する鋭い感性を備えている。

 ソリスティックな華やかさとアンサンブルの妙を同時に堪能できるトリオだ。何よりも演奏への集中力が素晴らしい。これほど真摯にアンサンブルを追求しているトリオは久しぶりだ。

 世界の第一級ソリストがよくトリオを演奏するが、そういう人達のアンサンブルよりよほど室内楽としての完成度は高い。 


 今日のピアニストはスタインウェイを使用。やや硬質の音色ながらも、芯があり、音の指向性がいつも同じ方向を向いていて、音が散らずにまっすぐ通るので、聴きやすく、アンサンブルの邪魔にならない。これは室内楽奏者として最強の才能だ。

 ヴァイオリンは太めの音色でスケールの大きさを感じさせ、アクティブだ。豊かな音量を誇り、もちろん技術的にも申し分ない。

 チェロは鋭敏な感覚の持ち主のようで、音色はきれい。音程はピアノと全く違和感なく揃っており、そのコントロールは実に見事だ。

 3人ともアンサンブル奏者として優れたバランス感覚を備えている。他声部を支えるところ、自己主張するところ、全体で調和するところがなど、これらが恣意的ではなく、自然に流れるように表現されていてとても心地よい。


 シューマンは、このトリオの性格を最もよく表していた演奏ではないだろうか。アクティヴで、挑戦的で、表情は多彩。シューマンの気まぐれで、突然変化する表情や、普通の人間だと鬱陶しくなるような絶え間ない情熱も余すところなく表現し、力感あふれる情熱的な演奏で、シューマンの魅力を聴衆に伝えてくれた。キャリアを重ねたからできる演奏ではなく、純粋に彼らの優れた音楽的能力による見事な手仕事の結果だと思う。


 ドヴォルザークでは、意識的かどうかはわからないが、ピアニストが明らかに音色を変え、シューマンとは異なる音の世界を表現していた。この作品では作曲家の書法にもよるが、基本的にはピアニストがリーダーとなって音楽の基盤を設計していたようだ。 

 作品へのアプローチの仕方は基本的にはシューマンと変わらないが、ドヴォルザークのスラブ的要素よりは、西欧化された、すっきりとした世界を聴かせてくれた。


 冒頭のモーツァルトは全体的に線の太い大柄な表現が印象的。エネルギーをちょっと持て余しているところもあったが、古楽器風の時代考証された演奏ではなく、生き生きとした現代に甦るモーツァルトだった。


 ここのホールは座席数221席の室内楽専用ホール。かなり豊かな響きがする。座る席によっても異なるだろうが(今日はH列)、今日の演奏はこのホールにはちょっとスケールが大きすぎて、響きが充満しすぎていたところもあったようだ。

 今日の演奏を聴く限り、かなり上質のアンサンブルなので、もう少し肩の力を抜いて、ホールのスケールに合わせた演奏をすれば、聴衆にその卓越した魅力がもっと伝わったのではないだろうか。

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