札幌北光教会創立127周年記念
第48回パイプオルガン定期演奏会
演奏者 渡邊 孝
2023年9月29日19:00 札幌北光教会 4階礼拝堂
(札幌市中央区大通西1丁目14)
主催 札幌北光教会
オルガン/渡邊 孝
M.A. カヴァッツォーニ:リチェルカーダ
ジョスカン・デ・プレ:「多くの後悔」
M.A. カヴァッツォーニ:「もう悔いはない」
作曲者不詳:ラ・ミ・レの上で
G.フレスコヴァルディ:カッコウによるカプリッチョ
聖体奉挙のためのトッカータ
トッカータ第5番
J.J.フローベルガー:ウト・レ・ミ・ファ・ソ・ラによるファンタジア
作曲者不詳:コラール「暁の星はいと美しきかな」
(レニングラード写本)
作曲者不詳:変奏曲「暁の星はいと美しきかな」
J.P.スヴェーリンク:へクサコード・ファンタジア
A.スカルラッティ:オルガンとチェンバロのためのトッカータ
J.S.バッハ:協奏曲へ長調BVW978
(ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲による編曲)
J.S.バッハ:コラール・パルティータ「おお神よ、汝義なる神よ」
BWV767
ここのオルガンは1969年設置のボッシュ社製2段鍵盤14ストップで、札幌ではかなり古い歴史を持つオルガン。礼拝堂の広さと程よくマッチングをしたスケールで、きれいなバランスで響く楽器である。
渡邊孝はイタリア、パヴィア在住のオルガニスト、チェンバリストで、北海道初登場。コロナ禍で4年間の延長を経ての開催だそうだ。
今日のプログラムは初期イタリアからバッハまでおおよそ200年の鍵盤音楽を辿る内容。
前半は最初期のイタリア鍵盤音楽、カヴァッツォーニから始まる約1世紀に及ぶ鍵盤音楽の紹介。音型の一つ一つに微妙なニュアンスがあり、全体的に雄弁で、品よくバランスの取れた豊かな表情が特徴だ。特に初期イタリアの作品は、その完成度よりは即興性を楽しむ作品のようで、弾くよりは語るという感覚がよく伝わってきて、聴いていて飽きない。
フレスコヴァルディになると、さすがに音楽的な完成度が高い。特に「カッコウ〜」は対位法的にも音楽的にも魅力的な作品。カヴァッツォーニからの鍵盤音楽の発展が手に取るようにわかり、面白かった。
作曲者不詳で、スヴェーリンクの息子の作品と言われる変奏曲「暁の星はいと美しきかな」は、当時の鍵盤音楽の技巧的な走句の見本市のような作品で、これは当時のスヴェーリンク楽派の圧倒的な存在感の強さを示してくれた演奏だ。
父の「へクサコード・ファンタジー」は、息子の作品(想定)と比較すると意外に地味な作風に聴こえたのが面白かった。
前半の中では、やはりフローベルガーの作品の成熟度が群を抜いており、これはむしろ前半の最後に演奏した方が、プログラミングの意図がより生き生きと伝わってきたのではないだろうか。
前半はこの礼拝堂のオルガンで演奏するに相応しいスケールの作品で、選択された作品の内容が魅力的で統一感があり、この演奏者の優れた感性を物語っている。多彩なレジストレーションで、作品ごとに色彩感を変えて演奏、おそらくここのオルガンの機能を全て使い切ったのではないか。ただし、もちろん古楽器ではなく、音色、ハーモニーが近代的な響きがするため、その点で多少の違和感を感じたのは致し方ないところだ。
後半はアレッサンドロ・スカルラッティとバッハ。音色が18世紀仕様に見事に切り替わったのは素晴らしい。
A. スカルラッティはその音響効果が見事。バッハの協奏曲は、すっきりとした軽やかさを感じさせ、いかにもヴィヴァルディ風のイタリアンの雰囲気が伝わって来た好演。
最後のコラール・パルティータは重量感ある演奏。冒頭のコラールは、やや断片的に聴こえたが、力強さを感じさせ、次に展開する各変奏の性格がかなりクリアに表現されていて好演。全体を貫く大きな流れがあれば、もっと聴衆は理解しやすかったのではないか。
アンコールにバッハのヴァイオリンソナタからアンダンテ楽章。これはチェンバロ編曲版による演奏だと思われるが、すっきりと力の抜けた美しい音色、繰り返し後の即興的なパッセージがとても魅力的。ここの楽器の特性を見事に活かした演奏で、最後を締めくくるのにふさわしかった。
配布プログラムには演奏者本人による読み応えのある解説が掲載されており、これは保存する価値のある力作。特に文末に記載されていた、スヴェーリンクがアントワープへ当時の名工ルッカースのチェンバロを買出しに出かけた話は恥ずかしながら今日まで知らなかった。ルッカースの工房でどのような即興演奏をしたのだろうか、想像するだけでも楽しい。
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