内田 光子 with
マーラー・チェンバー・オーケストラ
2023年10月29日15:00 札幌コンサートホールKitara大ホール
ピアノ・指揮/内田 光子
管弦楽/マーラー・チェンバー・オーケストラ
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第25番 ハ長調 K.503
シェーンベルク:室内交響曲 第1番 ホ長調 作品9
モーツァルト:ピアノ協奏曲 第27番 変ロ長調 K.595
この組み合わせでは2016年以来7年ぶりの札幌公演。以後来札の機会があったが、コロナ禍で実現しなかった。
Kitaraには2001年12月に初登場(北海道新聞社主催)。以後Kitara主催で2010年(クリーブランド管弦楽団)、2013年ソロリサイタル、2016年(マーラー・チェンバー・オーケストラ 、2回公演)と来札している。主催公演では、ソロリサイタル以外のプログラムはモーツァルトの協奏曲2曲とオーケストラだけの演奏と、今回と同じ構成の公演。
今回の曲目で、第25番は2016年に、第27番は2010年に演奏しており、いずれも札幌で2度目の演奏となる。ただし、演奏内容はかなり変化している。
以前のように、いわば常識的なセンスながら誰にも真似のできない素敵な均整感を持った演奏、から大きく変化してきていると思う。
まず、内田の指揮が前回よりもかなり深みを増し、オーケストラからより音楽的に充実した表現と響きを引き出していたこと。特に第25番でのオーケストラの引き締まった表情は、今までの内田から聞くことの出来なかった深みのある音楽だ。
テンポは以前より遅くなっており、その分微に入り細を穿つ表現で、音楽から立体感と豊かな表情を生み出している。間の取り方もかなり大胆で、より即興性豊かで自由な表現が主体となり、強いインパクトを与えてくれた。
また、ソロとオーケストラとの一体感が今まで以上に素晴らしく、内田とオーケストラとのより深い信頼関係が築かれているように感じられた。
第27番は前回よりもやはりテンポは遅くなり、音楽の表情もより自由になっている。静かに思索に耽るような表現の深さを感じさせるところもあり、年齢を重ねたこともあるのだろうが、この7年で何かが大きく変わったようだ。
ピアノの演奏そのものも以前より一層弱音志向になってきており、全体的にピアニッシモが音楽の表現の中心を占めるようになっている。バスはかなりコントロールされた響き。しかも神経のピリピリした音ではなく、暖かい音色で、すっと抜けてくるピアニッシモの美しさは以前より磨きがかかってきたようだ。特に27番の第2楽章とアンコールのピアノソナタの第2楽章が思わず息を呑むほどの素晴らしさだった。
毎回ピアノは持ち込みで、その都度違う楽器を弾く。今回はご自分の楽器のようだ。これがとてもまろやかで柔らかい音色。オーケストラと素晴らしく溶け込み、全体で大きな一つのまとまりある響きが生まれきて、実に素敵だった。おそらく今表現したい音楽を100パーセント再現してくれる楽器なのだろう。
これも実は内田のコンサートを聴く楽しみの一つで、例えば、2013年のリサイタルの時は、もう少し暴れん坊的な楽器だったように記憶している。
いつもながら、ピアノの整調、整音、調律は見事な仕事ぶりだが、今回はより内田の要求に応えての完璧とも言える完成度。
忘れてはならないのがオーケストラ。すでに述べたように協奏曲での一体感は素晴らしい。チェンバー・オーケストラらしく、ほぼ全員のメンバーがよくお互いに聴きあって良質の響きを生み出している。
一方、彼らだけでのシェーンベルクはわずか14名での演奏にも関わらずアクティヴで大胆かつスケールの大きな演奏。指揮者無しなので、どのように作品の性格を示すかは曖昧なところもあったにせよ、これはこのオーケストラの優れた能力を余すところなく伝えてくれた。
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