2021/11/16

 

第22代札幌コンサートホール専属オルガニスト

ニコラ・プロカッチーニ  デビューリサイタル



2021111219:00   札幌コンサートホールKitara 大ホール


J.S.バッハ:トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564
クープラン:「修道院のためのミサ」より
       聖体奉挙(ティエルス・アン・タイユ)
ヴィヴァルディ/J.S.バッハ編曲:オルガン協奏曲 二短調 BWV596
フランク:大オルガンのための6つの小品より
     前奏曲、フーガと変奏曲 ロ短調 作品18
J.
アラン:3つの舞曲 JA120A/120bis
デュリュフレ:アランの名による前奏曲とフーガ 作品7



 Kitaraでは専属オルガニストを海外から一年の任期で招聘している。今年は22代目で26才のイタリア人。コロナ禍の中、よくぞ来日が実現した。いつもよりひと月ほど遅れてのデビューだったが、場内は盛況。期待の高さが窺われた。


 今回のもう一つの注目点は休館中にオルガンのオーバーホールが終了し、オルガンのサウンドが生き返ったこと。四千本以上のパイプを全て外し、清掃、調整と機構等の大規模補修、オリジナルサウンドを忠実に保持しながらの表現力拡大、全体調律などを約ヶ月かけ実施したという。

 その結果、個々のパイプの発声発音がきれいになり、当然それらを積み重ねてできるハーモニーが柔らかく、美しく調和するようになり、不愉快な唸りがなくなった。パワフルな箇所でも威圧感がなくなり、サウンドのクオリティは飛躍的に向上した。

 オーバーホールを担当した技術者の能力の高さも特筆すべきだろう。演奏者にとっても大きな手助けになり、音楽的なところは楽器が助けてくれ、演奏にゆとりが出てくることになる。


 演奏はアンコールを除き暗譜で、完成度の高い演奏。歴代の専属オルガニストデビューリサイタルでは、多少荒削りだが今後の成長が楽しみ、という感想を持つことが多い。だが、ニコラは、すでに完成したプロフェッショナルの演奏家だ。今後の成長の楽しみよりは、どのような作品を紹介してくれるのだろうか、という期待の方が大きい。


 冒頭のバッハは即興的なトッカータの第一楽章、じっくり歌い込まれたアダージョ、構築的なフーガ、それぞれの対比が鮮やか。フーガはさすがに緊張感のためかもう少し落ち着きがあればとも感じた。だが、オルガンのサウンドのクオリティが上がったことで、各声部がしっかり聴こえてきたのは驚かされた。このような明快に響いた気持ちのいいサウンドは久しぶりだ。今まで霧の中にあった曖昧なバッハ像が鮮やかに蘇ったような印象を与えてくれた。そのほかではトッカータでのペダルの演奏技術が見事で、その重低音の響きもまた素晴らしかった。


 クープランは丁寧によく歌い込まれた演奏。全ての装飾音がほぼ完璧に表現され、しかも音色が実に美しい。伴奏の音色とハーモニーの美しさは格別だ。ただし、今までフランス人専属が醸し出していた微妙なニュアンス溢れる演奏を聴き慣れていたので、それに比べるとちょっと生真面目。もう少し柔軟な動きがあるといい雰囲気になりそうだ。


 ヴィヴァルディ/バッハは名演だ。リズムの切れや、各楽章の表情の対比など申し分ない。一音一音のタッチがしっかりしているので、オルガンの発音が明瞭となり、音色も全体のまとまった響きも美しかった。


 後半はガラリと雰囲気が変わり、ロマン派から近現代の音楽。

 フランクは先日のブレハッチがピアノ編曲版を演奏し、今日はオリジナル。同じ会場で間をおかずに同じ作品を違う楽器で聴けるのはこのホールならではの醍醐味。きれいに整った演奏で、パイプで歌われる管楽器風の柔らかい音色と豊かなハーモニーの美しさは、オルガンでなければ聴くことのできない響き。フランクの上品さがよく表現されていたいい演奏だった。


 アランは正確無比、細部まで完璧に整えられた演奏。作品像を徹底的に洗い出し、精密画像のように全てを鮮やかに再現していて、まるでダビンチの素描を見ているようだ。このようなイメージで聴こえてきたのは初めて。名演だが、あまりにもディテールがはっきりしすぎ、様々なモティーフが聴こえすぎて戸惑うほどだ。特に三曲目の「戦い」でのバランス良い響きが見事だった。


 デュリュフレでは、演奏はもっと洗練され、ディテールも完璧、それが積み重なってできる全体像も見事で、申し分ない。これほど整った演奏は歴代専属の中でも初めてだ。

 アンコールにバッハの「オルガンのためのトリオソナタ第四番ホ短調」より「アンダンテ」。


 特筆すべき事項がもう一つ。Kitaraのオルガンとホールの響きの一体感は全国一だと思う。今まで全国の色々なホールでオルガンを聴いてきたが、Kitaraで聴くオルガンの響きが最も素晴らしいことは断言できる。

 楽器のクオリティの高さとホールの豊かな響き、この両者の一体感、マッチングは札幌の貴重な財産だ。このホールで上質のオルガン演奏を楽しむのは他では味わえない最高の贅沢である。

2021/11/09

 Kitaraランチタイムコンサート>

Kitaraバロック・アンサンブル・シリーズ

トリオ・ソナタで彩る午後


202111614:00  札幌コンサートホールKitara 小ホール


バロック・ヴァイオリン/長岡 聡季

フラウト・トラヴェルソ/北川 森央

チェンバロ/平野 智美

ヴィオラ・ダ・ガンバ/櫻井 


J.S.バッハ:トリオ・ソナタ ト長調 BWV1038

ルクレール:フルート・ソナタ ニ長調 作品2-8

マレ:聖ジュヌヴィエーヴデュモン教会の鐘の音

ビーバー:15のロザリオのためのソナタ「マリアの生涯の15の秘跡  

     の礼賛のために」よりパッサカリア ト短調

J.S.バッハ:「音楽の捧げもの」BWV1079より 

      3声のリチェルカーレ ハ短調  

        「音楽の捧げもの」BWV1079より

        トリオ・ソナタ ハ短調  


 
    本日のアンサンブルはオリジナル楽器によるもの。音量増大などのための改造が加えられる以前のバロック時代の楽器が主。機能的に楽器の音を出すのに大きな肉体的エネルギーを必要としないため、音色はより自然体に近く美しい。
 その分演奏が難しいのかも知れないが、本日の演奏者は力が抜けたしなやかな音を出す演奏者ばかり。個々の楽器のサウンドが良質なのだろう、四人のアンサンブルが自然で柔らかい響きになる。ふわっとした響きがホールに広がり、オリジナル楽器同士ならではの美しい、調和した響きだ。これはライブでなければ味わえない醍醐味である。


 プログラムの中ではバッハが別格。最後の「音楽の捧げ物」からのトリオソナタは、各楽器の動きが鮮明であると同時に、それらが調和し、大きな一つの音響となってホールに響く。これはバッハの卓越した空間認識とそれを反映した書法の素晴らしさで、晩年のバッハが到達したレベルの高さと凄みに感嘆させられる。もちろんそれを見事に再現した演奏があったこそ。一瞬の油断も許されない作品に対しての高い集中力と緊張感を感じさせるいい演奏だった。録音ではわからないライブならではの世界だ。

 冒頭のトリオソナタは未だバッハの真作かどうか議論のある作品。「捧げ物」と比較すると、職人的なこだわりが少ないが、生命力に満ちた名曲だ。伸びやかで厚みのある演奏で、冒頭に相応しく、楽しませてくれた。


 シャコンヌ風の変奏曲が二曲、ビーバーとマレー。両方ともバロック時代の作品としては有名だが、実演に接する機会は少ない。本日はとても貴重な機会だ。


 無伴奏ヴァイオリンの作品、ビーバーはまさしくヴァイオリン演奏技法の見本市。わずか4つの下降音型の上によくこれだけの変奏を書いたものだ。この見本市を見事に再現した長岡の安定したテクニックと多彩な表現、そしてノンヴィブラートでの力の抜けた自然な表情が素晴らしかった。作品の真価がしっかりと伝わってきた演奏。


 マレーは、ヴァイオリンとヴィオラ•ダ•ガンバとチェンバロ。チェンバロの豊穣な響きの中で、ガンバが大活躍、名技を披露して得意げな作曲者マレーの顔が想像できるような熱演。ヴァイオリンは要所で喝を入れるように鋭いリズムで引き締める役割。ビーバーもそうだが、執拗な繰り返しが続くにもかかわらず、単調にならずに高いクオリティのアンサンブルを聴かせてくれた演奏者に拍手。

 この作品に限らず、櫻井のガンバは安定した技巧でアンサンブルをしっかり支えていた。柔らかい音色の楽器で、全体のサウンドの色合いを決めていたのではないだろうか。


 そのほかにルクレールとチェンバロソロで3声のリチェルカーレ。

 北川のルクレールでのフラウトトラヴェルソの明るい表現が魅力的。彼の演奏は低音から高音までむらが全くなく、しかもいつも安定している。絶対音量こそ現代のフルートには負けるが、この落ち着いた柔らかい音色は、この楽器ならではの魅力だ。全体のアンサンブルの中でも存在感を示していた。


 チェンバロの平野は、通奏低音でしっかりとアンサンブルを支え、この日の立役者。雄弁で即興的なアルペジオやパッセージは魅力的で、しかもタイミングがよいのでソロを邪魔することなくアンサンブル全体の表情をより豊かにしている。一方でガンバと共に核になるビートをしっかり決め、音も綺麗で、素敵な通奏低音奏者だ。ソロでは細部の仕上げが少し落ちたのが惜しまれる。


 長岡、北川両氏によるお話が間に挟まり楽しかったが、楽器の話しをもう少し聞きたかった。

 アンコールに「ルベル:舞曲さまざま」。全員バッハから解放され、生き生きとした楽しい演奏。

 オリジナル楽器はライブがいい。それをあらためて実感した演奏会だった。

 




2021/11/04

ラファウ・ブレハッチ ピアノ・リサイタル


2021103113:30  札幌コンサートホールKitara 大ホール

主催 オフィスワン


J.S.バッハ:パルティータ第2番 ハ短調 BWV826

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第5番 ハ短調 作品10-1

ベートーヴェン:創作主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO.80

フランク(バウアー編):前奏曲、フーガと変奏曲 ロ短調

ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 作品58



 緊急事態宣言が解除になったが、厳しい入国制限が続く中での来日。1023日の大阪が初日で、札幌が最終日。

 2005年ショパン国際コンクールの覇者で、全ての賞を総なめにした完全優勝。札幌には複数回来札しているはずだ。若い世代の来場者が多く、彼の人気度が窺える。


 洗練されたピアニスト。丁寧な楷書体で、どの曲、どの箇所を取ってもきちんと全てバランスよく仕上げられており、弾く姿勢も背筋が伸び美しい。ピアノを学ぶ人達の最高のお手本とも言えるピアニストだ。


 前半のプログラムはすべてハ短調の作品で統一。

バッハのパルティータ第2番は管弦楽曲風の楽想を持ち、しかも共通のモティーフでそれぞれの楽曲が統一された組曲で、楽曲構成も含め、ほかのパルティータと性格を異にしている。冒頭と終曲が管弦楽のトゥッティ、室内楽風のクーラントのほかは様々な楽器による二重奏の楽曲。ブレハッチの演奏はまさしくこのイメージで、実によく考えられた様式感だ。各曲のテンポ、表現の幅広さ・強弱の幅も自然で、現代におけるバッハの解釈とは?の問いに対する模範解答の演奏だ。 


 ベートーヴェンがこのパルティータ第2番の影響を明らかに受けて、作曲したのが悲愴ソナタだが、同じハ短調でもブレハッチが演奏したのは作品10-1。  

 短い時間枠の中に、様々なモティーフとリズムパターンによって見事な統一感を与えた初期の傑作。ピアニスティックな要素もあるが、発想は弦楽四重奏や管弦楽からだ。第一楽章の鋭く引き締まった表現、第二楽章の美しい節度ある歌い方、第三楽章のドラマティックな表現など、申し分なく素晴らしい。作品の本質を把握した名演だ。


 32の変奏曲は、当時のピアノ演奏技法のカタログとも言える。わずか8小節の短いテーマに32の変奏が展開される。多様な音型による凝縮された変奏が、両手に均等に与えられる。ブレハッチはそれまでの二曲で、管弦楽や室内楽風の様々なスタイルを紹介し、ここで初めて純粋にピアニスティックな世界に到達、プログラム前半の頂点とした。盛り上がりは計算通りの効果。ベートーヴェン独特の上下行の繰り返しによる密度の濃い音響的世界を、完璧な技巧で表現。しかも、鋭く、一切弛緩することなく前進する音楽は前半のフィナーレにふさわしく、聴き応えがあった。


 休憩後は二曲ともロ短調。まず時代が約一世紀下り、フランクのオルガン曲のピアノ編曲版から開始。ここで一気に聴衆をロマン派の世界に引き込む。冒頭の前奏曲の旋律は実にロマン派的で、古典派には無い世界だ。この演出も中々のセンス。Kitaraでは専属オルガニストがよく演奏し馴染みがあるが、この日はH.バウアー編曲によるもので聴くのは初めて。上品に歌い込まれた、とてもきれいな演奏。フランクの音楽自体もそういう性格の作品なので申し分ない出来。ただ、編曲も演奏も低音域やハーモニーがやや薄いような気がしたが、それは次のショパンのために控えたのかもしれない。


 秀逸はやはりショパン。豊かな感情表現は素晴らしく、フランクでロマン派に誘い込み、このショパンで音量的にも音楽的にも一気にクライマックスに到達するように設計した選曲は効果抜群。音も深く厚くなったような気がする。第一楽章の二つの主題の鮮やかなコントラスト、第二楽章の見事な速いパッセージ、第三楽章の深く歌い込まれたノクターン、そして第四楽章でエンジン全開。一切乱れるところはなく、そのバランス感覚は恐ろしいほど。数え切れないほど演奏してきた作品なのだろうが、それにしてもこの安定感はすごい。


 ポーランド生まれだが、音楽にはその出自がほとんど聴こえてこない。完全にインターナショナルの標準語だ。演奏は全てが整い、羽目を外さず、何か彼ならではの強いオリジナリティは感じられない。おそらくそう思わせるのが狙いで、それが彼のオリジナリティかも知れないが。

 もっと芯のある爆発的な音も出せそうだし、濃厚な音楽も表現できるのに違いないが、あえてバランスのよい中庸な感覚を大切にしているのだろう。ヨーロッパの知的教養人とはこういう人のことを言うのだろうか。

 

 アンコールはショパンのワルツ(嬰ハ短調作品64-2)。これは絶品で、テンポ・ルバートなど絶妙なタイミングと美しい音色で聴衆を魅了した。

2021/11/02


<Kitara ランチタイムコンサート>
ワーヘリ
ユーフォニュームとテューバの魅力


20211030(土曜日)13:00 札幌コンサートホールKitara小ホール


出演:ワーヘリ

(ユーフォニアム/外囿 祥一郎 テューバ/次田 心平 ピアノ/松本 望)


モンティ/金井 信編曲:チャールダーシュ

ブラームス/松本 望編曲:ハンガリー舞曲 5

加羽沢 美濃:やさしい風

中橋 愛生:アロハ・オエ・ディエス・イレ

松本 望:空への階段

ビゼー/西下 航平編曲:「カルメン」の主題による幻想的組曲  

リスト/松本 望編曲:ハンガリー狂詩曲 第2番



 コロナ禍で昨年6月
13日開催予定が延期になったトークイベント付きコンサート。

この一風変わった「ワーヘリ」(ワールド・ヘリテージの略)という名前の由来は、日本ジャズ界の巨匠、前田憲男が「世界的に珍しいデュオであると共に彼らが遺す音もまた世界遺産」という意味を込めて命名したとのこと。確かにこの組み合わせは他に聞いたことがない。




 


 快晴で中島公園のイチョウが美しく、公園は散策を楽しむ人々でいっぱい。緊急事態宣言解除で、会場は様々な年齢層でほぼ満席。親子連れや、楽器愛好者の若者が多く、珍しい組み合わせのアンサンブルへの期待と、久しぶりの快晴に恵まれたお昼のコンサートのためか。


 演奏はお話しをはさみながら約1時間。低音でビートを刻む役割だけではなく、旋律楽器として活躍できる能力と、低音域ゆえの豊かな表現力を持つ楽器であることを伝えてくれ、3人によるお話しも面白く、楽しい演奏会だった。

 特に楽しかったのが2台の金管楽器のみによる中橋の「アロハ・オエ・ディエス・イレ」とビゼーの「カルメン」からの4曲。幅広くよく歌い込まれた感性豊かな演奏で、低音楽器の魅力を余すところなく伝えてたのではないか。


 ただ、一級のプロでも長時間吹き続けるのはかなり辛い楽器のようだ。また、低音楽器特有なのか、時々ディテールが甘くなりがちなところもあったが、そこをしっかりと締めていたのがピアノの松本。切れ味よく、鋭いリズムで一切妥協がない。管楽器のブレスに合わせるなどの細かい配慮よりは、隙の無い密度の高い音楽を作り上げるほうを優先、アンサンブルを弛緩することがないように、リーダー役として、しっかりとまとめ上げていたのが素晴らしい。


 その松本の作曲による「空への階段」が、同音反復のリズムから始まり、フランス風のフワッとした雰囲気を見せながら次第に盛り上がり、プロコフィエフのトッカータ風の激しい動きをしながら、エンディングに向かうなかなか面白い発想の作品で、金管楽器の新たな可能性を示してくれ、これは楽しめた。

 同じ松本の編曲で、フィナーレの「リストのハンガリー狂詩曲第2番」では金管楽器にここまで難しいフレーズを吹かせるのか!とびっくりさせる場面も登場するなど、3つの楽器がそれぞれ最も美しくかつ効果的に響くように書かれた見事な編曲。彼らの信頼関係の深さが感じられる素晴らしい演奏だった。

 その他、北海道の味噌ラーメンの話題から誘導されたミ、ソ、ラのモティーフによる松本の即興演奏が素敵だった。ラヴェルを思わせるフランス印象派的な雰囲気から始まり、シャンソン風の洒落たメロディーが現れる展開となり、最後はミソラを弾いて終わる機知に飛んだ演奏で、これは実に見事。プログラムにはなく、金管組の休憩の時間を作るための即興的アイディアだったらしいが、これに応えた松本も素晴らしい。なお彼女は北海道出身で東京芸大の作曲科卒業。


 終演後、金管両氏によるトークイベントが一時間ほど行われた。事前に質問を募集しての実施。半数以上の来場者が残り、このグループに対する期待度が高いことが窺われた。


 このコンサートはコンサートホール企画連絡会議(Kitaraのほか、新潟市民芸術文化会館りゅーとぴあ、所沢市民文化センターミューズ、すみだトリフォニーホール、京都コンサートホール、アクロス福岡(福岡シンフォニーホール)の全6館により構成)連携事業。これまでにプラジャークカルテット、ダネルカルテット、ハイドン・フィルなど素晴らしい演奏家達が登場している。

 今回は福岡シンフォニーホールとの連携。ここのホールはシューボックス型のクラシックなホールで、ゴージャスな雰囲気のいい響きのするホール。これらについてはまたあらためて紹介したい。


2021/10/18

若い芽の音楽会〜北国を翔ける新星


北海道教育大学・札幌大谷大学の卒業生・在校生12組が出演


20211016日14:00 札幌コンサートホールKitara小ホール


プログラム

<サクソフォン四重奏>

 ソプラノサクソフォン/大石 涼 アルトサクソフォン/近本 歩実

 テナーサクソフォン/岩城 光大 バリトンサクソフォン/城 史花

  マスランカ:レシテーション・ブック 5楽章

  村松 崇継/浅利 真編曲:生命の奇跡 for SAXOPHONE QUARTET


<木管五重奏>

 フルート/中島 由衣 オーボエ/大堀 祐香 クラリネット/井上 

 ホルン/金崎 紗奈 ファゴット/山田 陽未

  ツェムリンスキー:ユーモレスク

  ダンツィ:木管五重奏曲 ヘ長調 作品68-2より 1楽章


<フルート・デュオとピアノ>

 フルート/類家 千裕、越中 萌々香 ピアノ/泉 そよか

  真島 俊夫:紅~2本のフルートとピアノの為の

      第1 「秋風」、第2 「黄昏色」、第3 「紅燃ゆる」


<ピアノ・ソロ>

 ピアノ/畠山 桃子

  ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 2 変ロ短調 作品36より 

      第2楽章、第3楽章


<サクソフォン四重奏>

 ソプラノサクソフォン/鈴木 ゆりあ アルトサクソフォン/中村 寿

 テナーサクソフォン/渡邉 丈留 バリトンサクソフォン/伊藤 拓朗

  伊藤 康英:木星のファンタジー

  長生 淳:彗星 トルヴェールの「惑星」より  

                   サクソフォン四重奏のための


<クラリネット三重奏>

 クラリネット/鈴木 聖来 ヴィオラ/垣原 慰吹 ピアノ/沼田 唯花

  ライネッケ:クラリネット、ヴィオラとピアノのための三重奏曲 

        イ長調 作品264より 1楽章


<ソプラノ・ソロ>

 ソプラノ/櫻井 彩乃(ピアノ伴奏/石井 ルカ)

  ドニゼッティ:歌劇 「アンナ・ボレーナ」

        “あなたたちは泣いているの?私の生まれたあのお城


<ピアノ・ソロ>

 ピアノ/仲鉢 莉奈

  ブラームス:3つの間奏曲 作品117より 1曲、第2


<オーボエ・ソロ>

 オーボエ/大堀 祐香(ピアノ伴奏/田中 望未)

  ポンキエッリ:カプリッチョ


<トロンボーン四重奏>

 トロンボーン/山田 颯音、金子 奈央、井深 瑞希、和田 圭吾

  ブルジョワ:トロンボーン四重奏曲 作品117


<ヴァイオリン・ソロ>

 ヴァイオリン/垣原 遥愛(ピアノ伴奏/中村 和音)

  サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン 作品20


<ピアノ・ソロ>

 ピアノ/信濃 りかこ

  リスト:メフィスト・ワルツ 1 「村の居酒屋での踊り」 S.514



    緊急事態宣言解除後の最初のKitara主催事業が北海道で学んだ若手の演奏会だったのは未来への希望が持て、縁起がいい。通常通りの開催となり賑やかさがやっと戻ってきた。

 標題の演奏会は音楽コースを有する北海道教育大学と札幌大谷大学から推薦された在校生、卒業生が出演するコンサート。おそらくホール開館7年目の2003年から開催されているシリーズなのでもうすぐ20回だ。


 コロナ禍で昨年中止になり、今回久々の復活公演。いつもは5月の連休開催なので、1年半ぶりの開催。昨年の出演予定者6組も出演したので、いつもの倍の 12組の出演となった。アンサンブルメンバーの変更、曲目変更があったり、大学を卒業し社会に出て活躍あるいは留学予定の出演者もいる。


 全員満を持しての出演で、特に管楽器アンサンブルのレベルの高さに感心した。

 サクソフォーン四重奏は二組、いずれも現代の作品を演奏。演奏テクニックは安定していて、楽器のサウンドもきれい。

 両組ともとても音楽的で、クラシックの枠にとらわれない自由で伸び伸びした感性で、技術的な難曲も、静かで落ち着いた曲も申し分なく表現されており、なかなか聞きごたえのある演奏だった。中でも長生淳作品の多彩な表現が特に良かった。このジャンルは、一般にはなかなか馴染みがない分野だが、作品と楽器の魅力を充分伝えてくれたのではないか。


 トロンボーン四重奏は全員安定したテクニックの持ち主で、よく歌い込まれたアダージョが印象的。各楽章の対比が鮮やかで、楽しめた。

 木管五重奏は今回の管楽器アンサンブルの中では唯一クラシックな作品を演奏。落ち着きある演奏で、ダンツィの明るく伸びやかな音楽が若々しく表現されていた。

 フルートデュオとピアノは紅葉を迎える今の季節にピッタリの作品。衣装もお揃いで素敵。色々なフルートが登場し、楽器の音色も楽しめたが、このアンサンブルは、3人のサウンドがばらばらになることがなく、しっかりと大きな一つの響きとなってまとまって聴こえてきたのが素晴らしい。アンサンブルとしての深みを感じさせたとてもいい演奏だった。

 

 オーボエソロは技術的に高度な箇所も難なくこなした名演だ。オーボエにとっては超絶技巧の作品なのだろう、細部まで吹きこなしており、作品の価値をしっかりと伝えてくれた。伴奏はゆとりがあり、オーボエをよく支えていた。

 クラリネット三重奏はヴィオラが入った珍しい編成。古典のライネッケの、当時の色々な作曲家の影響を受けている多様な顔が見えて楽しかった。

 ヴァイオリンソロは、原曲の熱いエネルギーが伝わり、ピアノともども熱演。

 

 ソプラノソロは、テューバ専攻から2年前に声楽専攻に転向したそう。声量があり表現力豊か。わずか2年でこれだけ歌えるのは、将来が楽しみ。ピアノがドニゼッティの軽快な音楽をよく表現し、いい音が出ていた。


 ピアノソロでは、ラフマニノフはピアノが良く鳴っていたし、表現力もあり楽しみなピアニストだ。大男が弾くような大曲をよくまとめていた。

 ブラームスはよく歌い込んだ音楽的な演奏。しみじみとした秋の風景にふさわしい。

 リストは技術的にも音楽的にもスケールの大きさが感じられた演奏。これから留学するとのこと、将来に期待しよう。


 今回のピアノは今までKitaraで聴いたことのない音色。新しいスタインウェイだと思われるが、個性的なサウンドで、興味深い音がしていた。このピアノの音が今後どのように変化していくかも楽しみだ。

 

 この演奏会シリーズでは、本番にありがちなトラブルやミス、もっと技術を身につけなければならない者など課題はいつもたくさんあるが、若いエネルギーが感じられ、毎回心地よい印象を受ける。

 2003年のプログラムと比較すると、その内容は大きく変化している。管楽器のアンサンブルが増え、それに伴いプログラムに20世紀の作品が増え、演奏様式も多様化してきている。芸術文化の様式や流行の変化が最も端的に現れてくる演奏会かも知れない。その点でもっと注目されていい。

 また来年、どのような新人がデビューするか、とても楽しみである。

2021/10/09

 園田高弘ピアノリサイタル


2003121319:00   札幌コンサートホールKitara 小ホール

ベートーヴェンピアノ作品連続演奏会第5回


ベートーヴェン 幻想曲 ト短調 作品77

       ピアノソナタ 第32番 ハ短調 作品111

       ディアベルリのワルツによる33の変奏曲 

                      作品120


 オープンから20数年経過すると、札幌コンサートホールで名演を聴かせてくれた演奏家の中には、他界した演奏家も少なからずいる。日本人では園田高弘。公式HPによると1928年生まれで200410月逝去。演奏家としてはこれから円熟の極みに到達する年齢だっただけに惜しまれてならない。

 

 園田はKitara主催事業には2回出演しており、標題のコンサートが第2回目。初登場はベートヴェンピアノ作品連続演奏会のシリーズ第1回で、2001103日。ピアノソナタ第2729番の後期ソナタ三曲を演奏し、巨匠らしい堂々とした見事な演奏だったが、園田の名音楽家としての素晴らしい存在感を示してくれたのはむしろこの第2回目だと思っている。プログラムがとても魅力的でベートーヴェンの晩年を色濃く物語る作品ばかりだ。


 次々と色々な楽想が登場する一風変わった作風である幻想曲は、意外と聴く機会が少ない。園田の演奏は細部を精密に整えるというよりは即興的要素を反映させたスケールの大きな演奏で、幸いこの演奏はKitara 開館10周年記念CDに収録されており、今でもその名演を聴くことができる(2007年7月4日の10周年バースデイコンサートの来場者にプレゼントされた非売品)。

 ソナタ第32番とディアベルリ変奏曲はまるで一つの大きな作品のようだった。技術的にも音楽的にも日本人演奏家としては最高のレベルで、やや硬質だが決して芯がぶれない気骨のある演奏。語り口はスマートではないが、真摯で、嘘偽りのないベートーヴェンの音楽世界を見事に表現した名演だった。


 当時は開館4年目で、新しいスタインウェイにいいサウンドが出てきた頃だ。園田のサウンドは必ずしも美しい音ではなかったにせよ、言葉では表現できない深い味わいのある魅力的な音だった。

 手元に詳細なデーターがないので断言は出来ないが、Kitara で大曲のピアノソナタ第29番とディアベルリ変奏曲の両方を演奏したのは園田ただ一人だ。

 戦後すぐにデビューし、ヨーロッパで活躍した数少ない選び抜かれたエリート達の世代の演奏を聴けたのはとても貴重な機会でもあった。2004年12月9日の札響定期でブラームスのピアノ協奏曲第2番を演奏する予定だったが、果たせなかった。



写真は園田高弘帰朝演奏会

札幌公演予告パンフレット

(M•N氏提供、年代不明)