2022/01/25

 Kitaraランチタイムコンサート>

金子 三勇士のきがるにクラシック

202212313:00開演  札幌コンサートホールKitara大ホール


ピアノ/金子 三勇士


ショパン:12の練習曲 ハ短調「革命」作品10-12

     24の前奏曲より変ニ長調「雨だれ」作品28-15

     ワルツ第6番 変ニ長調「子犬」作品64-1
ドビュッシー:ベルガマスク組曲より 3曲「月の光」

バルトーク:ルーマニア民族舞曲 BB 68
リスト:パガニーニによる超絶技巧練習曲集より

     第3番「ラ・カンパネラ」S.141/3 

    ハンガリー狂詩曲第2番 嬰ハ短調 S.24


  お話付きの約一時間のコンサートFM放送番組の司会を担当しているだけに、話はよどみなく、聞きやすい。 

 話題は多種多彩だが、母親がハンガリー人で、アイヌ民族の子守唄とハンガリー民族の子守唄にとても多くの共通点があり、祖母が実際にうたって聞かせてくれた、という音楽に関するテーマがやはり興味深く、楽しい。

 全体的にはプロの音楽家ならではの話題がもっと多い方が、演奏会を聴く楽しみが増えるのではないか。

 

 演奏は第一線で活躍しているだけに安定しており、かつ楽譜にとらわれずに自由に弾いているところもかなりあり、聴き手を飽きさせない。


 最も優れていたのはバルトーク。舞曲のリズム感など、明確なオリジナリティが感じられ、バルトークならではの内に込められた情熱が熱く表現された重量感のある演奏。ハンガリーの血筋を感じさせた名演で、他の演奏家からは聴けない充実した内容だった。


 「雨だれ」、「月の光」、アンコールのショパンの「ノクターン嬰ハ短調遺作」など、静かな作品は、音色がよく磨かれていて美しい仕上がり。一方、技巧的な作品では、特に最後の「ハンガリー狂詩曲第2番」が良かった。次から次へと現れる様々なテーマが、リズミックで切れ味良く個性豊かに描かれ、それらを鮮やかな技巧でまとめ上げた、聴き応えのある演奏だった。

 お話にもあったように、本日の使用楽器はKitaraで数台所有している中で、最新のスタインウェイ。いい音が出ていた。


 ただ、作品の内容をよりわかりやすく伝えよう、というサービス精神旺盛のためか、技巧的な作品では力み過ぎ音が濁ったり、静かな作品では音楽の流れが停滞してしまうところもあった。優れた音楽性とテクニックを持っている有能な演奏家なので、力み過ぎずに普通の演奏をするだけでも、聴衆を魅了させるいい演奏になるのではと思う。


 オリジナリティのあるいいピアニストだ。今後の活躍が楽しみ。

 

2022/01/24

オルガンミュージアムへようこそ


202212214:00開演 札幌コンサートホールKitara大ホール


オルガン/吉村 怜子
ナビゲーター/山田 美穂


ヴィエルヌ:幻想的小品集より 太陽への賛歌 作品53-3

               水の精 作品55-4

               月の光 作品53-5

               鬼火 作品53-6
               ウェストミンスターの鐘 作品54-6 


    2018年から取り組んでいる子ども向けのエデュケーションプログラム。
 今年はコロナ禍のため「オルガンミュージアムへようこそ」として演奏会形式で開催したが、本来は「ひろがる、つたわる、オルガンのひびき」のタイトルで、大リハーサル室と大ホールの2台のオルガンを活用して行う事業。
 これは丁寧に作り上げたいいプログラムで、コロナ禍が落ち着いたら是非再開を期待したい。


 ステージ上に大きなスクリーンを設置し、演奏作品タイトルやオルガンの演奏の様子、ナビゲータの説明資料などを投影。

 今回は演奏の様子を写すメインのカメラ位置がいつもより上。そのため、4段鍵盤を弾きわける様子、カプラーが入って下鍵盤を弾くと同時に上の二つの鍵盤も連動して動く様子などが、見やすくクリアに捉えられていた。また、ペダルの演奏の様子や、やや下方から写すカメラも効果的で、映像がより工夫されている点が良かった。この視覚的効果は大きく、聴衆は皆引き込まれていたようだ。


 最初に「太陽への賛歌 」が演奏され、それからナビゲーターの山田美穂とオルガニストの吉村怜子によるお話があった。二人とも「ひろがる、つたわる、オルガンのひびき」の初回からの出演者で、オルガンや作品の紹介は手慣れており、明快でわかりやすい。


 演奏は安定しており、オルガン音楽の魅力をしっかり伝えてくれた。「水の精」、「鬼火」は細部までよく弾き込まれたクリアな演奏で、題名を想起させる雰囲気がよく出ていた。子供たちもイメージしやすかったのではないか。最後の「ウェストミンスターの鐘 」はスケールの大きな演奏で、映像と一緒に鑑賞するとその魅力が倍増し、とても楽しめた。

 

 ヴィエルネだけに絞った選曲は中々良かった。近代的な響きがする作品ばかりなので、子供達には新鮮に聴こえたと思う。親子連れが多く、小学校低学年の子供達が沢山いたが、皆静かに鑑賞をしていた。

 約50分のプログラム。子供向けオルガン入門コンサートとしては内容も長さもちょうどいい。大人が一人で来場していた例もいくつか見られ、ぶらりと気楽に来場する初心者向けコンサートとしても活用可能だ。

2022/01/16

 Kitaraランチタイムコンサート>

筑前琵琶で言祝ぐはつ春

〜人間国宝が紡ぎ出す音色と語りの至芸〜


202211513:00   札幌コンサートホールKitara小ホール


筑前琵琶/法和院 奥村 旭翠(人間国宝)
プレトーク/尾藤 弥生(北海道教育大学教授)


「平家物語」より 抜粋/初世  旭宗作曲:那須與市
大坪 草二郎作詞/初世  旭宗作曲:茨木




定例の小ホールでの邦楽ニューイヤーコンサート、今回は筑前琵琶で、ソールドアウト。

 琵琶の歴史は奈良時代から始まる。時代とともに改良発展し、主に現在5種類の楽器とジャンルが存在し、筑前琵琶が登場したのは明治時代中期頃。

 声楽はメリスマの多い装飾的な旋律で、琵琶は語り唱えながら演奏するための伴奏楽器(以上配布プログラム解説より)。


 Kitara主催で琵琶が登場する演奏会は過去にもあったが、人間国宝の演奏者によるソロの演奏会は初めて。


 琵琶はバチではじいて演奏するので、力強い音も出せ、表現の幅は広い。三味線と共通の音色も持っているので、庶民から貴族まで幅広い階級で愛好され続けたのに違いない。

 奥村旭翠の歌は、歌詞の明瞭さ(歌詞が添付)、表現力、声量、声の質、音程、リズム、メリスマの美しさなど、どれもハイレベルで、心に迫る感情表現が素晴らしい。琵琶は微妙なニュアンスからドラマティックな表現まで実に多彩に表現されており、申し分ない。凛とした美しさがあり、喜怒哀楽のドラマを一人で演じ切るこのジャンルならではの醍醐味を十分味わうことが出来た演奏だった。


「那須與市」は淡々と進む語りが魅力的。矢を射った瞬間とその後の喝采のドラマに至る過程が印象的でわかりやすい。その後、演奏者によるお話しがあり、楽器と人間国宝についてユーモアいっぱいに大阪弁で話してくれ、これは楽しかった。2曲目の「茨木」は演奏者が是非聴いていただきたい作品とのこと。鬼の腕を奪って逃げるシーンや、随所で登場した筑前琵琶の長い素晴らしいソロもあり、これは思わず惹き込まれるような素晴らしい演奏だった。

 アンコールに平家物語の有名な冒頭から一節。


 コンサートホールで演奏される邦楽は、例えば武満徹に代表される西洋と日本がコラボレーションした作品が中心だったが、今日のような純邦楽は日本人であるアイデンティティを感じさせ、心に響くものがあって、とてもいい。

 ステージは屏風と毛氈が設置されており、いつもの小ホールとはちょっと趣の違う雰囲気でこれもなかなかいい。 Kitara小ホールは今日のような邦楽ソリストだけの演奏会でも、とても良く響く雰囲気のある良質なホールであることを改めて認識した。


 このシリーズの前回に登場した(令和2年1月)邦楽四重奏団もクオリティの高い演奏家集団で、邦楽の世界の魅力をたっぷり紹介してくれた良質なコンサートだった。特に尺八のソロは、Kitara小ホール演奏史に残る名演だったと言える。

 このシリーズは新しい発見もある楽しいコンサートなので、今後も邦楽の優れた演奏家の招聘を期待している。

2022/01/09

Kitaraのニューイヤー


2022年1月8日15:00  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮/齋藤友香理 ソプラノ/冨平安希子 テノール/宮里直樹

管弦楽 札幌交響楽団


ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲

チャイコフスキー:バレエ組曲「白鳥の湖」作品20a より


レハール:喜歌劇「微笑みの国」より

     序曲

     私たちの心に愛を刻んだのは誰?/君こそ我が心のすべて

     今一度ふるさとを


レハール:喜歌劇「メリー・ウィドウ」より

     ワルツ(舞踏会の妖精たち)

     おお我が祖国よ/ヴィリアの歌/唇は語らずとも


シュトラウス2世:観光列車 作品281/常動曲 作品257

          美しく青きドナウ 作品314


    指揮者は札幌初登場の齋藤友香理。三十代の若手で、日本でオペラデビューするなどある程度活躍した後、2013年からドレスデンで研鑽を積んでいる。その成果なのか、ヨーロッパナイズされた雰囲気の、柔らかく、暖かい音楽を奏でる。しかもオーケストラを豊かに響かせるので、とても聴きやすい優しいサウンドが聴こえてくる。これは女性指揮者だから、ということではなく、この指揮者の優れた特質だ。


 オペラでデビューしただけに、後半のレハールがよかった。

「メリー・ウィドウ」からは絶好調で、特にワルツ「舞踏会の妖精たち」はオーケストラを伸びやかなサウンドでよく歌わせ、華やかさと繊細さがバランス良く表現された素敵な演奏で、今日一番の出来だ。

 テノールの宮里直樹とソプラノの冨平安希子を迎えてのソロ、デュエットは歌もオーケストラのバックアップも申し分なく、好演。テノールの宮里はさすがの歌唱で、声量も表現も一級品、冨平は中音域がオーケストラに埋もれて、ちょっと聴きにくかった他は、見事な歌唱。ともに聴衆を魅了した。

 「微笑みの国」は演奏される機会は少ないが、指揮者の思い出の曲らしく、序曲も歌もいずれも上質の演奏で、楽しめた。


 最後の「美しく青きドナウ」は、この指揮者らしく、丁寧に細部まできちんと仕上げた演奏。シンフォニックでしっかりとした響きと、柔らかいワルツのリズムがよかった。


 前半のプログラムでは、冒頭のウェーバーは少々緊張気味で、指揮者とオーケストラの探り合いのような雰囲気もあったが、ホルンの秀逸なソロなど、管楽器群の活躍もあって、伸びやかで、冒頭にふさわしい演奏だった。


 チャイコフスキーは、バレエ公演のために演奏しているような全体的に遅めのテンポ。コンサートでは組曲版は早めのテンポで演奏される場合が多いが、今日のようなバレエを想定させるテンポだと、じっくり作品を味わうことができ、同時にバレエの色々なシーンを想像しながら聴けるので、面白さが倍増する。

 ただし、今回は音楽だけを鑑賞する機会なので、そうするとダンサーのステップに合わせていくようなテンポ感だと、聴いていてやや物足りない。ベテラン指揮者のような、オーケストラを一気にドライブしていくようなスケール感があるともっと楽しめたのでは。


 全体的には、繰り返しが多い作品では単調になりがちなところもあったが、音楽性の豊かな指揮者で、共演者がいるジャンルでより力を発揮するタイプか。今ならオペラで一歩抜きん出たいい仕事をしそうだ。将来期待できる指揮者だと思う。


 今回のようにニューイヤーコンサートに若手指揮者が登場するのは楽しい。プログラミングが独創的だし、オーケストラからいつもとは違う新しいサウンドを引き出してくれるのが魅力だ。

 コンサートマスターは田島高宏。随所で聴かせたソロが良かったが、やはり彼がいると札響の音全体が締まっていい。そしてホルン、オーボエ、トランペット、フルートの女性奏者が大活躍。いいソロを聴かせてくれた。

2022/01/03

 

回想の名演奏

高関健指揮札幌交響楽団 第546回定期演奏会

メシアン:「トゥーランガリラ交響曲」


2012年2月11日15:00  札幌コンサートホールKitara大ホール

指揮:高関健  ピアノ:児玉桃  オンド・マルトノ:原田節

管弦楽:札幌交響楽団


 

 Kitaraの大ホールに、これ以上ない、と思わせるほど豊穣なサウンドを響かせた演奏会がメシアンの「トゥーランガリラ交響曲」。

 この作品の演奏会は過去Kitaraで2回あり、初回は(同時に北海道初演)、2008年7月12日、PMFオーケストラの演奏会で、このときの指揮者は準・メルクル、ピアノソロがピエール=ロラン・エマール、オンド・マルトノが原田節。今回紹介する札響定期は2回目。

 

 2回ともKitara演奏史上語り継がれるべき名演奏だ。まず北海道初演となったPMFオーケストラの演奏は、ステージ狭しと並んだPMFの学生達の若さいっぱいのサウンドが素晴らしく、ともかく華麗で鮮やかなメシアンだったと記憶している。

 準・メルクルは解釈云々よりも、まとめ上げる方に主眼を置いていたようだ。オンド・マルトノの不思議な音色も面白かったが、ピアノソロのエマールが全曲暗譜で演奏していたのには驚かされた。


 Kitara大ホールに開館以来初めてとも思われる豊かな響きが広がり、北海道初演にふさわしい見事な演奏だった。この作品の実演を聴いたのは初めてで、編成の大きな作品や現代音楽はライヴで聴かないと、その本質がわからないことを実感させられた演奏会でもあった。


 一方、札響の演奏は常設オーケストラとしてのまとまった響きとアンサンブルの安定度に、一日の長があった。PMFオーケストラは、オーケストラ・スタディを一つの目標として、世界中から集まった学生達で編成される。優秀な若手奏者達だが、短期間の臨時編成のオーケストラだけに、熟成度、オリジナリティを持てるようになる時間がないのは当然だ。


 もう一点は高関の指揮。札響とは長い年月交流があり、お互いに気心の知れた仲だ。この信頼関係が演奏に反映されたのでは、と思われる。彼の基本的姿勢である、決して派手ではないが、作品の姿をできるだけ忠実に、きちんと丁寧に仕上げていく姿勢はこのメシアンにも見られた。エネルギーではPMFオーケストラに譲るが、作品の全体像を俯瞰し、その本質に迫る、という点では札響の方がより説得力のある演奏だった。


 ピアノソロは児玉桃。PMFのエマールはオーケストラとの一体感が強かったように記憶しているが、児玉のソロは、ソリスティックで、オーケストラとの対話に重点を置いた演奏だった印象が強く残っている。どちらも甲乙つけ難い素晴らしい演奏だった。

 ホール中に広がった札響のダイナミックな響きは、PMFオーケストラとはまた違った魅力のあるサウンドだった。


 それにしてもこれだけの大曲を、札幌でわずか4年の間に2度も聴けるとは思ってもいなかった。PMFオーケストラはいつも大編成の作品を演奏するので、ある程度予想がつくが、札響がこれだけの大曲を定期で取り上げ、しかも作品に対して怯むこともなく、高い完成度で演奏したことに少々驚いた。札響が日本のトップクラスのオーケストラと肩を並べるレベルまで到達しつつあることを実感した演奏会でもあった。

 また、この定期は高関が札響正指揮者として最後の演奏会だった。

任期は2003年から12年まで。ちょうど過渡期でもあった札響のレベルを引き上げた功労者だと思う。高関の指揮は真面目で誠実。いつも安心して聴くことができた。


 一方でPMFオーケストラ演奏会は、大編成ゆえにこのオケでしか聴けない作品が数多く演奏され、Kitaraでの演奏史に大きな足跡を残している。それについてはまた改めて紹介したい。


2021/12/28

Kitaraのクリスマス


2021122515:00 札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮/原田 慶太楼 サクソフォン/上野 耕平 管弦楽/札幌交響楽団


ガーシュウィン:「ガール・クレイジー」序曲
           パリのアメリカ人
プロコフィエフ:交響組曲「キージェ中尉」作品60より Ⅳ.トロイカ
カプースチン:アルト・サクソフォンと管弦楽のための協奏曲 作品50              [日本初演]


バーンスタイン/メイソン編曲「ウェスト・サイド・ストーリー」

                セレクション

R.ロペス、K.A.=ロペス/クログスタッド編曲:「アナと雪の女王」

                        より
アンダーソン:クリスマス・フェスティバル
チャイコフスキー/エリントン編曲:組曲「くるみ割り人形」

                (特別版)



     

 昨年は工事休館中のため年ぶりの Kitaraのクリスマス。場内は盛況で約8割の来場者。指揮の原田慶太楼は三十代半ばの若手で、元気いっぱいだ。体全体でリズムをとりながらエネルギッシュに音楽を進める。エンターティメント的な要素を持ち合わせながらも、オーソドックスで、ポイントをしっかりつかまえた、きちんとした音楽造りをする指揮者だ。

 アルト・サクソフォンの上野耕平を迎えてのカプースチンが素晴らしかった。ソロは淀みなく、クラシカルな部分はもちろんのこと、ジャズセクションの表現も見事で、優れたリズム感と柔軟なテクニックを存分に発揮した、多彩で品の良い演奏を聴かせてくれた。作品は個性的で面白く、飽きさせないのはやはりこの作曲家のすごいところだ。日本初演ということで、これ以上ないベストの出来。この演奏だけマイクで音を増幅して場内に流していたが、もう少し抑えた方が、生音の素晴らしさを堪能できたように思う。


 ガーシュインは二曲ともきれいに整って落ち着いた演奏。「パリのアメリカ人」ではゲストソリストの上野耕平がオーケストラの一員として登壇していた。素晴らしいエネルギーだ。


 プロコフィエフの「トロイカ」はわずか3分ほどの作品だが、今日のプログラムでは唯一の本格的クラシック。オーケストラから今日最も充実したサウンドが出ていて、特に弦楽器の響きが良かった。やはりこの優れた作曲技法はプロコフィエフならではだ。


 後半のプログラムでは、アンダーソンの「クリスマスフェスティバル」がシンフォニックで立派な演奏。毎回必ず演奏される定番メニューだが、これだけ輪郭のしっかりしたきちんとした演奏は初めてだ。


 最後の「くるみ割り人形」はエリントンの編曲版にオリジナルのチャイコフスキー版を加え、特別版と称した組曲。オリジナルは「トレパーク」と「中国の踊り」だけ。あとは完全にジャズ用の編曲で、サックス、トランペット、トロンボーンのソロあり、アンサンブルありで、ビッグバンドの贅沢なオーケストラ仕様版。これは面白く、楽しかった。オリジナルのイメージを残しながら、念入りに編曲された版のようで、いいサウンドが出ていた。ソリストに照明があたり、これは良かった。Kitaraでは珍しい仕込みだ。


 当然のことながら、全体を通じて金管セクションが大活躍。ピッチはいつもきれいで、大きな音でただ吹くだけ、ということもなく(これが意外と本州のプロオケではある)音楽的によくコントロールされた演奏だ。よくありがちなミスもほとんどない。終始安定しており、今日の管楽器群は素晴らしかった。贅沢なシンフォニック・ジャズを堪能したコンサートだった。

 原田は全体のサウンドもうまくまとめており、長時間金管のサウンドを聴かされても疲れない。いい指揮者だ。シリアスなクラシックをどう振るのか聴いてみたいところだ。

 

他に「ウェストサイド・ストーリー」と「アナと雪の女王」より。これらも安定したいい演奏だった。







2021/12/26

回想の名演奏

グスタフレオンハルトチェンバロリサイタル


2009年5月1319:00  札幌コンサートホールKitara小ホール


ルイ・クープラン:パヴァーヌ、組曲 ニ短調

パッヘルベル:ファンタジーアト短調 3つのフーガ

J.S. バッハ:組曲 ヘ短調BWV823

        コラール・パルティータ

       「おお神よ、汝まことなる神よ」BWV767

アルマン=ルイ・クープラン:ラントレピッド/ラ・フランセーズ 

              ラフリジェ

デュフリ:アルマンドとクーラント ニ短調 

     ラ・ドゥブロムブル/ラ・フェリクス/レ・グラース



 古楽界の巨匠、グスタフ•レオンハルト(19282012)は Kitaraで標題のコンサート含め計3回のリサイタルを行なった。初回は991016日、今回紹介する2009年は2回目。3回目が2011年5月25日でこれが最後となった。
 この09年のリサイタルは、後で聞いたことだが、レオンハルト自身も大変満足した出来で、終演後のディナーの時は珍しく機嫌が良かったそうだ。

実際、チェンバロ音楽の豊かさ、美しさ、そしてKitara所有のチェンバロ(ブルースケネディ製作のジャーマン2段鍵盤チェンバロ/ミヒャエルミートケモデル)のサウンドの豊かさが、余すところなく伝わってきた素晴らしいリサイタルだった。   

 2006年に病で一時危篤となったそうだが奇跡的に復活し、その演奏により深みを増した時期での来札で、体調も良く、最後の絶頂期だったのかもしれない。


 プログラムはチェンバロ音楽の精華とも言える作品ばかりで、こういう選択はレオンハルト以外誰も出来ないだろう。チェンバロが最も美しく響く作品ばかりで、何という素敵なプログラムだろうか。

 特に素晴らしかったのは後半に演奏された2人のフランス人作曲家の作品だ。

 アルマン=ルイ・クープランとデュフリは共にフランス革命の年に世を去った作曲家で、フランスクラヴサン楽派の最後の世代だ。大胆な発想を持ち、どこかメランコリックで、世俗的な親しみやすさがある作風が特徴。この中にはチェンバロ以外では表現が難しい、中音域から低音域中心に書かれた独特の雰囲気を持った作品もある。親しみやすい作風ゆえに演奏によっては陳腐に聴こえてしまい、演奏家にとって意外と扱いにくい作品だ。


 レオンハルトの演奏は今ここで即興で生まれたばかりの作品のように新鮮で生命力に満ちており、しかもチェンバロの音が豊かにホール全体に響き渡り、それらが見事にマッチングして、心を惹きつけてやまない稀に見る名演奏となった。楽譜に忠実ながらも、そこから繊細かつ大胆なニュアンスを引き出し、想像も出来なかった多彩で表情豊かな演奏だった。レオンハルトの秩序とファンタジーが調和した感性は他の追随を許さず、またその感性は鍵盤音楽に限らない幅広い分野に精通していた教養に支えられた格調の高さをも感じさせた。チェンバロを本当に美しく演奏できた稀代な人であることも実感出来た。客席は満席で、このような演奏を聴けた400人以上の聴衆はこの上ない貴重な機会を得たのである。


 レオンハルト最後の札幌公演は2011年の東日本大震災後の5月。首都圏での演奏会は節電と余震対応でかなり中止になった。また、震災以後の数か月は、多くの海外アーティストが来日を中止したが、レオンハルトは予定通り来日し、札幌(5月25日)の他、すべてのスケジュールを消化し帰国した。この時は指先が開いた手袋をしながらの演奏で、体調は良くなかったのだろう。札幌最後のリサイタルプログラムは下記のとおり。


2011年5月2519:00  札幌コンサートホールKitara小ホール 


ルルー    組曲 ヘ長調 

..バッハ  プレリューディウム  ハ長調 

フィッシャー シャコンヌ  ト長調

デュフリ   ロンドー/ラ・ダマンズィ/純真無垢な娘(鳩)、

       ラ・ミレティーナ/メヌエット/レ・グラース

..バッハ  平均律クラヴィーア曲集 第2巻より

        プレリュードとフーガ第9番 ホ長調 BWV878

       組曲  ホ短調「ラウテンヴェルクのための」BWV996 

       アリアと変奏  イ短調 BWV989 


 帰国後、年末のパリのリサイタル後引退を表明し、翌2012年1月16日に亡くなった。死期を悟っており、葬儀でバッハのヨハネ受難曲の最終コラールを演奏することなど、全ての段取りを決めて他界した。この辺りの事情及びその生涯と活動の軌跡は、タワーレコード発行のフリーペーパー「intoxicate vol.98 」に掲載された渡邉順生氏の秀逸な小評伝「グスタフレオンハルトのレコード」に詳しい。


 初回と最後のリサイタルも、巨匠らしく、曖昧さがない一本筋の通った素晴らしい演奏だった。有名な作品は弾かず、陰に隠れた名品や作曲家の作品を好んで演奏した。今では古楽界にも優秀な第三世代が登場しているが、レオンハルトの格調高い演奏は、Kitaraを彩った忘れられない名演奏家として今後も語り継がれていくのに違いない。