2023/03/04

hitaruオペラプロジェクト 

モーツァルト「フィガロの結婚」


20232 2814:00  札幌文化芸術劇場 hitaru


【公演日程】

2023226()28() 各日 14:00


【指 揮】奥村哲也


【キャスト】(ダブルキャストは26日/28)

アルマヴィーヴァ伯爵:岡元敦司/門間信樹

伯爵夫人:倉岡陽都美/石岡幸恵

スザンナ:三浦由美子/倉本絵里

フィガロ:大塚博章/三輪主恭

ケルビーノ:川島沙耶/吉田叶倫

マルチェッリーナ:小平明子

バルトロ:葛西智一

バジーリオ:岡崎正治/川村春貴

ドン・クルツィオ:長倉駿

バルバリーナ:西海綾香/矢野愛実

アントーニオ:小野寺陸

花娘:水上千聖、小林愛果/中陳寿枝、尾﨑あかり


【管弦楽】札幌交響楽団

【合 唱】hitaruオペラプロジェクト「フィガロの結婚」合唱団


演出:三浦安浩

美術:松生紘子

照明:成瀬一裕

衣裳:坂井田操

振付:桝谷まい子

舞台監督:齋藤玲(札幌文化芸術劇場hitaru)

技術監督:尾崎要

副指揮:江川佳郎、塚田馨一

演出助手:山田かおり

コレペティトール:伊藤千尋、鎌倉亮太、松岡亜弥子



 札幌文化芸術劇場hitaruが初めて自主制作した公演。北海道在住またはゆかりのあることを条件に出演者を募集、キャスト・合唱ともオール北海道だそうだ。

 初日26日は完売で、今回鑑賞した28日は2日目の公演。平日昼ということで空席があったにせよ、2公演が滞りなく終了、まずは大きな拍手を贈りたい。


 配布プログラムに掲載された演出の三浦の解説によると、舞台は19世紀末ロシア革命前夜に設定。北海道を意識した北国らしさも取り入れたそうだ。

 セットは舞台中央にアルマヴィーマ伯爵の館が配置されている。比較的コンパクトで天井のない、オープンスタジオ風のスタイルで、出演者はここで演技をする。 

 北国らしさでは、伯爵家の庭園にポプラが、そして第4幕での設定が吹雪の中の庭になっていたことか。

 正直言って、半年近くも雪の中で暮らす北海道人にとって、この設定は大して魅力を感じない。北国らしさは他にもあるのでは。


 序曲では、黄金の馬車が登場、これは三浦の解説によると、伯爵夫人とスザンナにしか見えない愛の象徴だそう。これは以後も登場し、人だけにしか見えない設定にしては、存在感が抜群。さらにバレエも登場するなど、幕が開いた後も、全体的にかなり饒舌な語り口の舞台だ。 

 少々下品なスーツ姿の謎めいた女性人組や、伯爵夫人とスザンナを見守る先代伯爵の亡霊?が登場し、目まぐるしい。この作品であれば、オリジナルにない人物をわざわざ登場させなくとも、音楽が心理状況を充分表現していると思うが。

 第1幕は登場人物が多過ぎて、煩わしかった。比較的オリジナルに近い最小限の登場人物だけの第2幕が音楽的にも安定していたのでは。

 第3幕、4幕は続けて上演。歌手も場内の雰囲気に慣れてきたのか、声もよく響くようになり、このオペラの醍醐味が伝わるようになってきた。第4幕は頻繁に場面転換し、次の舞台はどうなるのか、と楽しみはあったが、正直言って音楽に集中できず、ちょっと落ち着かなかった。

  

 指揮の奥村は初めて聴く指揮者。おそらく札幌初登場か。全体的に無理のない無難な仕上げ。札響の響きはきれいで良かったが、ところどころ、リハーサル不足の感があるのは否めない。前半では、歌手との呼吸が今一つ揃っていない箇所が多いのが少し気になったことと、オーケストラからどのような表現を引き出したいのか、よく伝わってこなかったのが残念だったが、3幕以降、やっと調子に乗ってきたようだ。

 演出が人物の個性を明確に描いていたのに対して、音楽の表現は多少物足りなさを感じさせ、場面ごとの音楽描写がもう少し明確であれば、聴衆にもっとこの作品の面白さが伝わったのではないか。

 レチタティーフを受け持ったチェンバロの鎌倉が大活躍。歌手をよく聞き、きめ細かい配慮がある表情豊かな演奏。もっと強引にリードしても良い箇所もあったにせよ、とても良かった。


 歌手陣は、フィガロの三輪、スザンナの倉本とも大活躍。ケルビーノの吉田も熱演。伯爵の門間、同夫人の石岡の2人は歌のスケール感、存在感があり、演出にもよるのだろうが、伯爵夫妻が中心にドラマが展開した公演だった。

 貴重なアリアを歌ったマルチェッリーナの小平、バジーリオの川村は大健闘。バルバリーナの矢野は、第4幕の唯一のアリア含め貴重な脇役を演じ、印象に残った。その他の歌手陣も演技含め好演。合唱は、引き締まっていて良かった。

 カット無しの全曲上演で、公演時間は休憩入れて4時間。


 この作品に限らず、モーツァルトのオペラは音楽そのものを語らせた方が、いい上演になることは間違いない。舞台や演出に色々な意味を持たせるのはもちろん鑑賞に幅が広がり、意義があるが、全体的に演出に負けないだけの音楽の表現力をもっと高めると、今後もっと素晴らしい上演となるのでは。

 本格的オペラを一本制作することは時間と経費とマンパワーが限りなく必要だ。制作スタッフの気が遠くなるほどの努力に敬意を表しつつ、次回をまた期待したい。

2023/02/27

  25  リスト音楽院セミナー 

受講生コンサート 


2023  2  26 15:30  札幌コンサートホール Kitara小ホール 


1.西田 梨乃

            リスト:バッハの名による幻想曲とフーガ S.529 

2.黒田 桃子

            シューベルト=リスト:「冬の旅」 S.561 より 7 菩提樹

3.松本愛絵里

            プーランク:ナゼールの夜会 FP.84 より

    前奏曲、第1変奏 分別の極み、第2変奏 手の上の心臓、 

    第3変奏 磊落と慎重と、フィナーレ

4.山本 健太郎(伴奏/中島幸治、第15回セミナー最優秀受講生)

   ラフマニノフ:ピアノとチェロのためのソナタ ト短調 作品 19 より

   第1楽章

5.渡辺 彩乃

   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ  27  ホ短調 作品 90

6.土田 裕利

   シューマン:ピアノ・ソナタ 3 ヘ短調 作品 14 より 1楽章

7.小野寺 拓真                                                                                                                  ワーグナー=リスト:歌劇「タンホイザー」より 序曲 S.442

8.古川 佳奈(第24回リスト音楽院セミナー最優秀受講生)

   シューマン:クライスレリアーナ 作品 16



 セミナー締めくくりの受講生コンサート。各コースの教授からの推薦で出演者を決定し、コンサートで最優秀受講生を選抜。翌年のブダペスト・スプリング・フェスティヴァル2024への出演資格が授与される。
 以下、特に記載のないのは大学在学中か、卒業した出演者。


 西田は高校生。音楽が生き生きと溌剌としていて、明確な自己主張があり、とても気持ちのいい演奏。今後の成長が楽しみだ。


 黒田のシューベルト=リストは、よく歌い込まれていて、原曲のイメージを大切にしながら、リストが加えた即興的装飾を美しく表現していた好演。


 松本のプーランクは、比較的このセミナーでは演奏される機会の少ない作品。会場の雰囲気が明るくなって、緊張感の多いこの演奏会に彩を添えるような、いい感覚の演奏だった。


 山本は、このコンサート唯一のチェロ。美しい音色、きれいな音程、品のいい歌い方は師のペレーニを彷彿とさせ、とても印象に残る演奏だ。ピアノの中島がバランスの良い落ち着いた音楽を奏で、チェロと息のあったアンサンブルで、好演。


 渡辺のベートーヴェンは細部まで音楽的に細やかに表現され、かつ全体的にとてもよくまとまっていた、高水準の演奏。


 土田は高校生。シューマンの作品のスケール感に負けずに真摯に立ち向かった、たくましさを感じさせる見事な演奏で、将来が楽しみ。


 小野寺も高校生だが,ワーグナー=リストの「タンホイザー」序曲を堂々と演奏。技術的にも音楽的にも高校生とは思えないスケール感があり、こちらも将来が大いに楽しみな逸材。


 古川は昨年の最優秀受講生。これほど音楽的に、見事に完成されたクライスレリアーナは滅多に聴けないのでは。特に弱音で繊細に歌われた旋律の美しさは素晴らしい。フォルテよりも魅力的なピアニッシモの方が訴えかける力が強いことを示してくれた。受講生はこの演奏を大いに参考にすべきだ。なお、古川はブダペスト・スプリング・フェスティヴァル2023で、4月25日にリサイタルを開催予定。

2023/02/26

 25回リスト音楽院セミナー

特別レクチャー&公開レッスン


2023年2月2510:30 札幌コンサートホールKitara小ホール


講師/バラージュ・レーティ(リスト音楽院教授)

通訳/谷本聡子(札幌大谷大学教授)


【特別レクチャー】

テーマ/バルトーク〜ミクロコスモス 


【公開レッスン/ピアノ】

受講生/萩原 るうか(札幌大谷大学 3年)

    リスト:超絶技巧練習曲 より第11番 変ニ長調


受講生/遠山 寧音 (北海道教育大学岩見沢校 4年)

    バルトーク:戸外にて



 ミクロコスモスは、言うまでもなく、バルトークが自分の息子のために書いた全巻のピアノ教材。各巻から何曲か特徴的な作品を取り上げ、意義と目的、その価値を、実演を交えて説明。

 手慣れた見事な演奏、的確な説明とわかりやすい通訳で、一般の音楽ファンにも楽しめる内容だった。


 今日のレクチャーからは、初歩から始まり次第に難易度が高くなること、各曲が子供にとって取り組み易い短い作品であること、いかに少ない音で多くを語るかという方針が徹底していること、初期の段階から両手は独立した動きをするようになっていること、様々な音楽のスタイルのエッセンスが盛り込まれており、例えばベートーヴェンの作品を鑑賞したときに、その様式が理解できるような、ヒントが盛り込まれていること、など。

 第6巻はコンサートピースとして活用でき、バルトークの趣味は昆虫採集で、あちこちハエが飛び回るシーンを描いたユーモラスな作品(第6巻No.142,from the Diary of a Fly」日本語訳「蝿の日記から」)があること、これは実演付きで、本当にハエが飛んでいるような見事な演奏だった。

 その他、メロディーと伴奏という単純形がなく、調性にとらわれない、自由で伸び伸びとした感覚の、子供が興味を持ちそうな作品が多い。

 民俗音楽をテーマにした作品も多く、誰か優れた日本の作曲家がこのような作品集を書けないものだろうか?


 公開レッスンは札幌大谷大学と北海道教育大学岩見沢校から各一人ずつ受講。人ともとてもよく弾けている。

 レッスンは、もちろんプロの教育者だけあって、的確で、模範演奏はとても音楽的。バルトークの、無機的になりがちなパッセージでも歌を感じさせる演奏で、セミナー期間中の教授陣のレッスンを聴いても、この音楽性、特に歌うことに焦点を当てた指導、指摘がかなり多いのが特徴だ。

 リストのレッスン曲説明で、リストとドビュッシーの関連性については興味深く、また2人がローマで面会した事実があることは知らなかった。(Alan Walker Liszt , The Final Years 1861-1886」によると1886

月に面会している。リスト最後の年で、これについては有名な逸話があるようだ。色々な文献で紹介されているようで、これは当方の不案内。なお、グローブ音楽事典の日本版では1885年となっている。)


 この公開レッスンは,当初Kitaraで開催、その後札幌大谷大学の協力を得て、同大学に会場を移したが、前回(コロナ禍でオンライン開催)から再びKitaraに会場を戻した。

 一般市民の来場も増えてきたようで、セミナーが専門家以外により浸透していくきっかけになることを期待している。

 25回リスト音楽院セミナー

歴代最優秀受講生による

ランチタイムコンサート


2023年2月2312:15  札幌コンサートホールKitara小ホール


ピアノ、お話/水野魁政(第23回リスト音楽院セミナー最優秀受講生)

お話/ガーボル・ファルカシュ


ショパン:24の前奏曲 作品28より 第1番〜第12

コダーイ:マロシュセーク舞曲


 セミナー最優秀受講生には毎年、主催者の札幌コンサートホールから翌年のブダペスト・スプリング・フェスティバルに出演する資格が授与される。

 コロナ禍で日程変更はあったものの、水野は202255日に同フェスティバルでのソロリサイタルに出演した。その出演報告も含めての、いわば帰朝演奏会。


 水野は1997年生まれで、偶然にもKitaraと同じ世代。リスト音楽院ソリスト・ディプロマコースに在学中。絶え間ない研鑽を積んでいるようで、ショパンもコダーイも技術的にも音楽的にも優れており、安定したプロフェッショナルの演奏で申し分ない。まだ多少書生風の雰囲気が感じられはするが、これからの未来が大いに楽しみな骨太の演奏だ。

 配布プログラムには、自身による曲目解説とブダペストでの留学生生活の写真が掲載されており、また折り込みでフェスティバルでのソロリサイタルの感想と写真付きのレポートが添付されており、これは主催者の好企画。開演前のひとときを楽しませてくれた。


 お話は師のファルカシュ教授と通訳の谷本聡子氏を交えての3人の対談。明朗な性格の持ち主のようで、緊張を感じさせない伸び伸びとしたトーク。師のお話も弟子を大切にしている様子が伺われ、楽しい内容だった。

 本人によると、セミナー受講までは北海道に来たことがなかったそうで、雪に悩ませられながらも、こういう機会を持て、とてもよかった、とのこと。


 祝日のお昼ということで、来場者が多く、セミナーに関心を持つ音楽ファンが増えてきたようだ。その期待に充分沿う好演。今後の活躍に期待しよう。


2023/02/24

 Kitaraワールドソリストシリーズ〉

25回リスト音楽院セミナー 講師による特別コンサート


ミクローシュ・ペレーニ&

イシュトヴァーン・ラントシュ


202322219:00 札幌コンサートホールKitara小ホール


チェロ/ミクローシュ・ペレーニ
ピアノ/イシュトヴァーン・ラントシュ


J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 4 変ホ長調 BWV1010 (チェロ)

ハイドン:ピアノ・ソナタ 39 ニ長調 Hob.ⅩⅣ24 (ピアノ)

ヴェイネル:ロマンス 作品14 (チェロ&ピアノ)

カサド:無伴奏チェロ組曲 (チェロ)

ショパン:夜想曲 2 変ホ長調 作品9-2 (チェロ&ピアノ)

     練習曲集 7 嬰ハ短調 作品25-7 (チェロ&ピアノ)

ドビュッシー:前奏曲集 2巻より

       第2 枯葉、第3 ヴィーノの門、

       第4 妖精たちはあでやかな舞姫、

       第6 風変わりなラヴィーヌ将軍、

       第7 月の光がそそぐテラス     

       (ピアノ)


 イシュトヴァン・ラントシュは今回でセミナーを引退する予定。1997年にKitara開館と同時にリスト音楽院セミナーが開催され、今年で25回目。初回は当時リスト音楽院学長だったラントシュ、次期学長に就任予定だったシャーンドル・ファルヴァイ、そしてミクローシュ・ペレーニの3人がセミナーの教授陣だった。

 セミナー期間中の教授陣による演奏会で、それぞれ名演を聴かせてくれたが、ペレーニとのデュオはいつもラントシュが務めてきた。それも札幌では今回が最後となる。

 

 今回はラントシュのピアノソロも加わった多彩なプログラム。

 コロナ禍の中断を経て、ペレーニのチェロは2年ぶり。端正で、誇張がなく、音楽のみを語る、という今までの姿勢と全く変わらない。柔らかい見事なボーイングから生まれる、自然で豊かな響きのする音色は相変わらず魅力的だ。

 バッハは緊張感と集中力が途切れることがない。アルマンドの後半あたりから楽器がよく響くようになり、大袈裟な表現が一切なく、均整感のある、深く歌い込まれたバッハは、彼だけからしか聴くことのできない、見事な演奏だった。


 次のヴェイネルは、バッハの緊張感から解放されたように、ラントシュの柔らかく流麗な伴奏に乗り、息の長いフレーズを生き生きと美しい音色で聞かせてくれた。また、カサドでは隙のない鋭さも感じさせ、バッハとは違う一面を示してくれた、求心的でいい演奏だった。


 ショパンのチェロ編曲は、と言ってもほとんど原曲のまま旋律を演奏しているだけだが、名手が演奏すると、編曲版であっても本当に素敵な作品であることが実感させられた。ペレーニの淡々として誇張がなく、深い音楽性を感じさる表現は素晴らしく、これはとても贅沢な瞬間だった。


 今回がKitaraのステージが最後になるラントシュは、まずハイドンのソナタで驚くほど美しい音色の演奏を聴かせてくれた。まろやかで、すっきり抜けてくる響きからは、彼の音に対する優れた感性が見事に表れていた。特に第2楽章のアダージョの美しさは忘れることのできない名演。

 ドビュッシーはハイドンと音色が一転して変化し、全体が大きく溶け合ったハーモニックな音が聴こえてきて、このコントラストが実に見事。ピアニスティックな面よりは、印象派の絵画を想起させるような、そして何かを思索するような演奏で、彼の音楽家としての奥行きの深さを感じさせる演奏だった。


 彼が札幌の音楽界に残した功績は大きい。セミナーでの教授活動は勿論のこと、Kitara開館前には、市内教会等で、オルガン普及のための熱心な演奏活動とレクチャーを行い、それらを通じて札幌の音楽文化の発展に大きな役割を果たした。教育活動では、1986年から3年間北海道教育大学で教鞭をとったほか、最近まで札幌大谷大学で客員教授を務めた。優れた人格者ゆえ、多くの人々から慕われ、その教えを受けた学生は数えきれない。

 札幌の音楽史を語る上で、彼の名前は今後も永遠に消えることがないだろう。


 ラントシュはドビュッシーをKitaraでの過去のリサイタルでも演奏している。前奏曲集第2巻の「枯葉」はKitara開館5周年記念CD(非売品、5周年記念誌に添付)に収録されている。名演だが、現在では残念ながら入手不可。

 また、ご本人は過去の映像なので嫌がるかもしれないが、1970年2月収録のハンガリーのテレビ放送用の番組だと思われる映像で、若き日のラントシュがドビュッシーの「花火」を演奏する姿を見ることができる。

https://youtu.be/tKj2vJfafFM

 また,この映像にはファルヴァイ、ラーンキ、コチシュが登場し、それぞれが1曲ずつ演奏している。全員世界に飛躍する直前の演奏だと思われ、この4人が当時ハンガリーで傑出したピアニストだったことが証明されている映像だ。


 もう一点追加すると、ラントシュと、前回でセミナーを引退したシャーンドル・ファルヴァイは、他の数人の演奏家とともにハンガリーのフンガロトンレーベルにハイドンのピアノソナタ全集を録音している。それぞれが5曲前後を受け持ってのレコーディングだったようで、現在はCDで復刻され聴くことができる。Youtube上でも鑑賞可能だ。意外と知られていないが、これは端正で、素晴らしいハイドン演奏なので是非一聴を。 

2023/02/21

 札幌音楽家協議会・ハイメス 国際交流コンサート

REZONANCIA 共鳴 

~ハンガリーからお迎えして~


20232201900 札幌市生涯学習総合センター ちえりあホール 


共催/札幌音楽家協議会 NPO法人北海道国際音楽交流協会

特別協力/札幌コンサートホール


ピアノ/ガーボル・ファルカシュ

チェロ/ゲルゲイ・デヴィッチ


モーツアルト :ピアノと管楽のための五重奏曲 K.452
  ピアノ/ガーボル・ファルカシュ
  オーボエ/岡本 千里
  クラリネット/大橋 真紀
  ファゴット/石黒 
  ホルン/上田 博美


メンデルスゾーン :ピアノ三重奏曲  1  ニ短調 Op.49
  チェロ/ゲルゲイ・デヴィッチ
  ヴァイオリン
   第1楽章・第楽章 /長谷川 加奈
   第3楽章・第楽章 /岩渕 晴子
  ピアノ
   第1楽章・第楽章 /平野 雅子
   第3楽章・第楽章 /柴田 千賀子


ブラームス :ピアノ五重奏曲 ヘ短調 Op.34
  ピアノ/ガーボル・ファルカシュ
  第1ヴァイオリン/長岡 聡季
  第2ヴァイオリン/山本 聖子
  ヴィオラ/円山 真麗子
  チェロ/髙橋 勇輝


 222日から開催されるリスト音楽院セミナー(札幌コンサートホール主催)で来札しているハンガリーの音楽家2名と、札幌在住の音楽家が共演するコンサート。

 ガーボル・ファルカシュはリスト音楽院のピアノ科主任教授で、演奏家としても華々しい活動を展開中だ。22日からのリスト音楽院セミナーで講師を務める予定で、セミナーには2020年から参加している。


 一方のチェロのゲルゲイ・デヴィッチは札幌コンサートホールとリスト音楽院との交流事業の一つとして、ハンガリーの若手音楽家を紹介するシリーズの一環で今回来日し、今月18日にKitaraでリサイタルを開催している。まだ20代半ばだ。


 リスト音楽院の教授のレッスンや現在学生の演奏を聴くことは、数多いハンガリー出身の名音楽家達が育った教育の背景、音楽解釈を知る手がかりともなり、とても興味深い。今回2人の演奏に共通しているのは、基本的な演奏テクニックが完成されていることはもちろんのこと、端正で誇張がなく、誠実な演奏で、かつ音楽語法、演奏技法が自然で、洗練性もあり、バランス感覚にとても優れていることだ。


 ファルカシュの演奏は、室内楽奏者として技術的にも音楽的にも高い完成度に到達している、と言えるだろう。

 モーツァルトはそれぞれの管楽器奏者とのバランスやフレーズの繋がりを考慮しながらの演奏で、全員の、息のあったアンサンブルは素晴らしい。全体的に、管楽器奏者の柔らかく、自然な息づかいの中で空間に広がっていく旋律と、そこから形成されるハーモニーが美しく、またそれぞれの管楽器のピッチもきれいで、ファルカシュと一体となった上質の音楽を聴くことができた。


 一方、後半のブラームスでは、ファルカシュはこの作品の繊細さとスケールの大きさとの二元性を見事に表現し、技術的にも音楽的にも隙が一切なく、間違いなく彼が世界トップクラスの演奏家の一人であることを証明してくれた演奏だった。

 弦楽セクションは、大健闘だったが、やはり臨時編成のカルテットでは手に負えない凄みのある作品なので、もっと時間をかけたリハーサルが必要だったのではないか。


 メンデルスゾーンを弾いたゲルゲイ・デヴィッチは柔らかいボーイングと美しい音色、端正で豊かな音楽性が魅力的だ。18日のソロリサイタルは聴けなかったが、今日のメンデルスゾーンから想像するに、誇張のない、音楽のみを語る師のミクローシュ・ペレーニを彷彿とさせる才能を持っているようだ。

 ピアニストとヴァイオリニストは第1・2楽章と第3・4楽章で替わる変則的な演奏だったが、ともに熱演。

 ただ、デヴィッチの目指す音楽性とは多少の乖離があったようで、これもリハーサルの時間がもうすこしあると良かったのかもしれない。


 ファルカシュのアンサンブルでは、ピアノの音量的なバランスがとても良く、うるさくない。絶対音量はメンデルスゾーンのピアニストより大きいはずだが、アンサンブルに溶け込んで見事なバランスで聞こえてくるのは,さすがだ。これは室内楽の基本的で重要な演奏法なので、これをテーマにレクチャーしてくれると面白いのかもしれない。


 今日共演した札幌の音楽家達はともに札幌音楽家協議会

https://satsuonkyou.jp/とNPO法人北海道国際音楽交流協会(ハイメスhttps://www.himes.jp/に所属する演奏家。札幌の音楽活動の中心となっている団体で、詳細はそれぞれのHPでご確認いただきたい。

 札幌コンサートホール主催のリスト音楽院セミナーは22日から26日まで。詳細は同ホールのHP https://www.kitara-sapporo.or.jp/を参照のこと。