2023/02/24

 Kitaraワールドソリストシリーズ〉

25回リスト音楽院セミナー 講師による特別コンサート


ミクローシュ・ペレーニ&

イシュトヴァーン・ラントシュ


202322219:00 札幌コンサートホールKitara小ホール


チェロ/ミクローシュ・ペレーニ
ピアノ/イシュトヴァーン・ラントシュ


J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 4 変ホ長調 BWV1010 (チェロ)

ハイドン:ピアノ・ソナタ 39 ニ長調 Hob.ⅩⅣ24 (ピアノ)

ヴェイネル:ロマンス 作品14 (チェロ&ピアノ)

カサド:無伴奏チェロ組曲 (チェロ)

ショパン:夜想曲 2 変ホ長調 作品9-2 (チェロ&ピアノ)

     練習曲集 7 嬰ハ短調 作品25-7 (チェロ&ピアノ)

ドビュッシー:前奏曲集 2巻より

       第2 枯葉、第3 ヴィーノの門、

       第4 妖精たちはあでやかな舞姫、

       第6 風変わりなラヴィーヌ将軍、

       第7 月の光がそそぐテラス     

       (ピアノ)


 イシュトヴァン・ラントシュは今回でセミナーを引退する予定。1997年にKitara開館と同時にリスト音楽院セミナーが開催され、今年で25回目。初回は当時リスト音楽院学長だったラントシュ、次期学長に就任予定だったシャーンドル・ファルヴァイ、そしてミクローシュ・ペレーニの3人がセミナーの教授陣だった。

 セミナー期間中の教授陣による演奏会で、それぞれ名演を聴かせてくれたが、ペレーニとのデュオはいつもラントシュが務めてきた。それも札幌では今回が最後となる。

 

 今回はラントシュのピアノソロも加わった多彩なプログラム。

 コロナ禍の中断を経て、ペレーニのチェロは2年ぶり。端正で、誇張がなく、音楽のみを語る、という今までの姿勢と全く変わらない。柔らかい見事なボーイングから生まれる、自然で豊かな響きのする音色は相変わらず魅力的だ。

 バッハは緊張感と集中力が途切れることがない。アルマンドの後半あたりから楽器がよく響くようになり、大袈裟な表現が一切なく、均整感のある、深く歌い込まれたバッハは、彼だけからしか聴くことのできない、見事な演奏だった。


 次のヴェイネルは、バッハの緊張感から解放されたように、ラントシュの柔らかく流麗な伴奏に乗り、息の長いフレーズを生き生きと美しい音色で聞かせてくれた。また、カサドでは隙のない鋭さも感じさせ、バッハとは違う一面を示してくれた、求心的でいい演奏だった。


 ショパンのチェロ編曲は、と言ってもほとんど原曲のまま旋律を演奏しているだけだが、名手が演奏すると、編曲版であっても本当に素敵な作品であることが実感させられた。ペレーニの淡々として誇張がなく、深い音楽性を感じさる表現は素晴らしく、これはとても贅沢な瞬間だった。


 今回がKitaraのステージが最後になるラントシュは、まずハイドンのソナタで驚くほど美しい音色の演奏を聴かせてくれた。まろやかで、すっきり抜けてくる響きからは、彼の音に対する優れた感性が見事に表れていた。特に第2楽章のアダージョの美しさは忘れることのできない名演。

 ドビュッシーはハイドンと音色が一転して変化し、全体が大きく溶け合ったハーモニックな音が聴こえてきて、このコントラストが実に見事。ピアニスティックな面よりは、印象派の絵画を想起させるような、そして何かを思索するような演奏で、彼の音楽家としての奥行きの深さを感じさせる演奏だった。


 彼が札幌の音楽界に残した功績は大きい。セミナーでの教授活動は勿論のこと、Kitara開館前には、市内教会等で、オルガン普及のための熱心な演奏活動とレクチャーを行い、それらを通じて札幌の音楽文化の発展に大きな役割を果たした。教育活動では、1986年から3年間北海道教育大学で教鞭をとったほか、最近まで札幌大谷大学で客員教授を務めた。優れた人格者ゆえ、多くの人々から慕われ、その教えを受けた学生は数えきれない。

 札幌の音楽史を語る上で、彼の名前は今後も永遠に消えることがないだろう。


 ラントシュはドビュッシーをKitaraでの過去のリサイタルでも演奏している。前奏曲集第2巻の「枯葉」はKitara開館5周年記念CD(非売品、5周年記念誌に添付)に収録されている。名演だが、現在では残念ながら入手不可。

 また、ご本人は過去の映像なので嫌がるかもしれないが、1970年2月収録のハンガリーのテレビ放送用の番組だと思われる映像で、若き日のラントシュがドビュッシーの「花火」を演奏する姿を見ることができる。

https://youtu.be/tKj2vJfafFM

 また,この映像にはファルヴァイ、ラーンキ、コチシュが登場し、それぞれが1曲ずつ演奏している。全員世界に飛躍する直前の演奏だと思われ、この4人が当時ハンガリーで傑出したピアニストだったことが証明されている映像だ。


 もう一点追加すると、ラントシュと、前回でセミナーを引退したシャーンドル・ファルヴァイは、他の数人の演奏家とともにハンガリーのフンガロトンレーベルにハイドンのピアノソナタ全集を録音している。それぞれが5曲前後を受け持ってのレコーディングだったようで、現在はCDで復刻され聴くことができる。Youtube上でも鑑賞可能だ。意外と知られていないが、これは端正で、素晴らしいハイドン演奏なので是非一聴を。 

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