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2025/02/17

回想の名演奏


追悼 秋山和慶氏

〜1997年 札幌コンサートホールこけら落とし公演

1997年7月4日19:00 札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮/秋山和慶(ミュージックアドバイザー兼首席指揮者)

フルート/工藤重典

オルガン/小林英之

管弦楽/札幌交響楽団


R・シュトラウス:祝典序曲

モーツァルト:フルート協奏曲第1番

サン=サーンス:交響曲第3番『オルガン付き』


 秋山和慶氏が亡くなった。84才だった。氏は1988年4月から98年3月まで札幌交響楽団のミュージックアドバイザー兼首席指揮者を務めた。その就任期間中の97年7月札幌コンサートホールKitaraがオープン、そのこけら落とし公演の指揮者という重責を担ったのが秋山だった。


開館記念式典とこけら落としコンサート

 札幌コンサートホールがオープンしたのは1997年7月4日。同日14:00から開館記念式典が行われ、冒頭に秋山の指揮で、三善晃作曲の『札幌コンサートホール開館記念ファンファーレ〜23の金管のための』で開幕した。このホールで公式に最初に演奏された作品で、従って秋山は札幌コンサートホールで最初に指揮をした記念すべき指揮者だ。

 式典のあと、記念演奏があり、小林英之のオルガンソロと、鹿討譲二指揮で札幌市内中学校選抜68名による吹奏楽演奏、そして秋山の指揮で、札幌交響楽団と札幌合唱連盟によるベートーヴェン交響曲第9番の第4楽章が演奏されている。

 ちなみにこのときの「第9」のソリストはソプラノ針生美智子、アルト西明美、テノール五郎部俊明、バリトン木村俊光。


 そして同日夜には札幌交響楽団と秋山和慶の指揮で「こけら落としコンサート」。一般聴衆を迎えての初めてのコンサートだった。

 翌々日の6日(日曜日、15:00開演)にはオープン記念コンサートとして、同じく秋山の指揮と札響、小林英之のオルガンでレスピーギの「ローマ三部作」が演奏されている。

 この週はまさしく秋山週間で、今思うと寡黙な秋山の獅子奮迅の大活躍だった。


 札幌コンサートホールがオープンするまで、札幌交響楽団は1961年の創立以来札幌市民会館と北海道厚生年金会館を本拠地としていた。97年以降は札幌コンサートホールに本拠地を移し、新しい展開を迎える過渡期だった。

 こういう時期にあって、秋山の凄いところはこれらのコンサートを冷静に、物静かに淡々とこなし、しかも破綻なく、過不足なくオーケストラをまとめ上げていった手腕だ。その見事な指揮ぶりは今でも忘れられない。

 秋山無しではこのオープニングシリーズは考えられなかった、と言っても過言ではないだろう。


札幌コンサートホールと秋山和慶 

 これ以降の札幌コンサートホール主催事業での秋山と札響との共演は、2002年7月4日の「開館5周年記念コンサート」でやはりベートーヴェンの第九交響曲全曲を振っている。このときのソリストはPMF出身の歌手、合唱は97年同様札幌合唱連盟だった。

 2007年1月11日 には「Kitara のニューイヤー」を指揮。当時の専属オルガニスト、ギラン・ルロワ とサン=サーンス 交響曲 第3番 ハ短調「オルガン付き」 を演奏し、97年のこけら落としの再現となった。そのほか、ニューイヤー定番のシュトラウスの作品が演奏されている。


 秋山は2年後の2009年1月10日のKitaraのニューイヤーにも登場している。このときは、当初指揮者に予定していた若杉弘が体調不良につき降板、ピンチヒッターとして急遽秋山に指揮をお願いした。若杉ならではのユニークなプログラムだったが、変更することなくその全てを指揮し、秋山の実力、底力を示してくれたコンサートだった。札幌コンサートホールの主催事業登場はこれが最後だった。若杉弘氏はこの年の2009年7月に亡くなっている。


2009年Kitaraのニューイヤー プログラム

J.S.バッハ(ストコフスキー編)平均律クラヴィーア曲集 第1集より前奏曲ロ短調BWV869

モーツァルト 交響曲 第29番 イ長調 K201(186a)

マーラー 交響的楽章「花の章」

     交響曲 第4番より天上の生活—私たちは天上の歓喜を受ける

    「子供の魔法の角笛」より だれがこの歌を作ったのだろう

ヨゼフ・シュトラウス ワルツ「天体の音楽」op.235

近衛秀磨  越天楽(オーケストラ版)

モーツァルト 3つのドイツ舞曲 K605より 第2曲 ト長調、第3曲 ハ長調「そり遊び」

       モテット「踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ」K165(158a)より アレルヤ

シューベルト 軍隊行進曲 op.51 D733(オーケストラ版)

ヨゼフ・シュトラウス ポルカ「鍛冶屋」op.269

ヨハン・シュトラウス2世ワルツ「春の声」op.410


札幌交響楽団と秋山和慶

 ここで秋山と札幌交響楽団主催事業での共演歴を簡単に振り返ってみよう。初共演は1968年の第76回定期演奏会(9月19日、札幌市民会館)で、曲目はプロコフィエフ/交響曲第1番ニ長調op.25「古典」、ドヴォルジャーク/弦楽のためのセレナードホ長調op.22、ショスタコーヴィチ/交響曲第1番ヘ短調op.11、となかなか溌剌とした、しかし当時としてはかなり渋いプログラムで初共演している。

 以来札幌交響楽団の定期演奏会と名曲シリーズでの共演は60回を越える。札響の追悼文によると、秋山は札響のレパートリーの拡大に大きな功績があった、とあるが、確かに秋山の演奏会プログラムはユニークだった。


 以上の札響主催事業は札響のHPで公開されている60年史デジタルアーカイブで検索したもの。検索ではヒットしない札響主催コンサートでは、現在も継続している名曲シリーズの記念すべき第1回が1996年、札幌市民会館で開催され、確か秋山が振っている。

 このシリーズは当時の事務局が札幌コンサートホールがオープンするにあたり、札響としても来場者を増やすために新機軸のコンサートを企画したい、というコンセプトではじめたシリーズで、定期演奏会では聴けない名曲を紹介していく、というものだった。第1回は空席が多く、前途多難だったが、現在は定番メニューとして定着し、隔世の感がある。

 秋山時代最後の定期は1998年3月の記念すべき第400回定期演奏会。マーラーの大曲、交響曲第7番『夜の歌』だった。その後秋山は定期、名曲、年末の第九等にたびたび来札、2024年9月が最後の共演となった。(文中、敬称略)


札幌交響楽団HPでの公式発表は以下の通り。

元札響ミュージックアドバイザー兼首席指揮者の 秋山和慶氏が、2025年1月26日肺炎のため逝去されました(享年84)。 


今年1月1日にご自宅で転倒、治療に専念するため23日に音楽活動からの引退を表明され、秋山氏のご回復を心より願っていたところ、この度の一報を受け、悲しみに堪えません。


当団とは1968年の定期演奏会で初共演、86年12月から首席客演指揮者、88年4月から98年3月までミュージックアドバイザー兼首席指揮者を務めました。 この間、札響のレパートリーを広げ、東京公演を定例化、名曲シリーズをスタートさせるなど、楽団の発展にご尽力をいただきました。

札響との共演は、昨年9月の名曲コンサートが最後となりました。


2024/09/11

 森の響フレンド札響名曲シリーズ

〜鉄路は続くよ、どこまでも

続・オーケストラで出発進行!

2024年9月 7日14:00 札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮 /秋山 和慶

お話と朗読 /市川 紗椰

歌 / ベイビーブー

お話と構成 /岩野 裕一



J.シュトラウスII:ポルカ「特急」

バーンスタイン:地下鉄乗車と空想のコニー・アイランド

        (オン・ザ・タウンより)、

デンツァ:フニクリ・フニクラ

多梅稚:「鉄道唱歌」より

アメリカ民謡:線路は続くよどこまでも

都志見隆(詞:松井五郎):列車にのろうよ


E.シュトラウスⅠ:ポルカ「テープは切られた」

ドヴォルジャーク:弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」第4楽章(弦楽合奏版)

ブリテン(詞:W.H.オーデン):夜行郵便列車

R.シュトラウス:交響的幻想曲「イタリアから」第4楽章「ナポリ人の生活」




 
指揮者に鉄道マニアとして有名な秋山和慶を迎えての名曲コンサート。構成は岩野裕一。鉄道に関する作品ばかりを取り上げたエンターテインメント・コンサートで、珍しい作品もいくつか演奏され、面白い内容だった。

 秋山の指揮による札響を聴くのは久しぶりだ。1941年生まれだからもう80歳を越えている。1988年から98年まで札響の首席指揮者を務め、97年7月4日の札幌コンサートホールKitaraの柿落としコンサートを振っている。このホールで最初に登場した指揮者だ。もう27年も前のことだが、派手な表現は求めず静かに作品を見つめながら、その本質を探っていく、という指揮ぶりは鮮明に記憶している。今日の指揮ぶりも、年齢を重ねてはいるが、当時と変わらず貫禄充分だ。


 興味深かったのは、ブリテンが著名になる前に作曲した朗読付きの記録映画音楽、「夜行郵便列車」。当日配布プログラム解説によると、詞はW.H.オーデン、朗読付きの5分弱の作品で 1936年にイギリスの中央郵便局映画班の作成したドキュメンタリー短編映画。YouTubeでも見ることが出来る。

 ということで、短い作品だが、当時23歳だった若きブリテンがこのような仕事もしていたのだ、と認識を新たにした次第。詩の原語と対訳が配布されていて、これはありがたかった。年配の鉄道ファンには郷愁を誘う美しい詩だ。朗読はもちろん英語で市川紗椰。軽快なリズム感のある透き通った声で、発音も明瞭、なかなか素敵だった。


 ドヴォルジャークの「アメリカ」弦楽合奏版は初めて聴いたが、秋山の指揮は、小細工はせずに、冷静な音楽造り。巨大なアメリカの蒸気機関車、ビックボーイが走行する姿を想像させ、聞き応えがあった。

 R.シュトラウスは若き日の作品で、「フニクリ・フニクラ」の主題による幻想曲とでも言っていいほどだが、後世の名作のエッセンスがあちこちに含まれており、秋山の落ち着いた重厚な指揮ぶりが作品の価値をより高めていたようだ。

 

 歌の男性5人グループ、ベイビーブーが昔懐かしい男性コーラスグループを彷彿とさせる均整感ある歌唱で、鉄道関連の歌を披露して楽しませてくれた。PAを使用しての歌唱で、美声で音程、ハーモニーがきれい。表現力豊かないいグループだった。


 ホワイエには秋山ご自慢のお召し列車専用の蒸気機関車の模型が展示されているなど、マニアックな雰囲気が漂う演奏会。全体的に話が少し多く、もう少し指揮者秋山の演奏が聴きたかったが、マニアに限らず皆が楽しめるコンサートだった。
 コンサートマスターは田島高宏。

2025/02/17

 札幌交響楽団名曲シリーズ

~はるかなる銀河を

ジュピターとヤマト

2025年2月15日14:00 札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮/下野竜也(首席客演指揮者)

ヴァイオリン/三浦文彰

ピアノ/高木竜馬

ヴォカリーズ/隠岐彩夏


モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」

羽田健太郎:交響曲「宇宙戦艦ヤマト」 



 交響曲「宇宙戦艦ヤマト」がいい演奏だった。この作品はもちろんクラシックの様式に従って完成されているが、クラシック風の取り繕った雰囲気が全くなく、ポピュラー風の単調さもなく、両方の良いところを過不足なく持ち合わせているユニークな作品だ。全曲は50分近くもの大作だが全く飽きさせない。

 オーケストレーションがとても良く、実に気持ちよく音が響き、よく鳴る。弦楽器、管楽器の扱い方が単に上手い、というだけではなく、なかなかいいセンスで書かれていて、表現に不自然さが全く無い。

 それぞれの楽器の特徴を捉え、ソリスティックな面白さが過不足なく表現されており、第3楽章でさりげなくヴォカリーズを入れたり、終楽章でのヴァイオリン独奏、ピアノ独奏も協奏曲風で、かつそれぞれの楽器の聞かせどころもわきまえていて、華やかさがある。

 今日は、なんと言っても演奏者が皆見事で、特にオーケストラは申し分ない仕上がり。3人のソリスト達も皆素晴らしく、いい声、いい音色がしていた。全体として聞き応えのあるスケール感豊かな演奏で、羽田健太郎が抱いたイメージよりも格段に優れた作品に聞こえてきたのは事実だろう。

 宇宙戦艦ヤマト効果か、会場はほぼ満席。普段の定期、名曲には来場しないような客層も多かったようだが、やはり平均年齢は高く、聴衆拡大につながるかどうか、は難しいところだ。


 プログラム前半では、冒頭に、先頃急逝した指揮者の秋山和慶を追悼して、モーツァルトの「ディヴェルティメントK.136 から第2楽章」を演奏。

 かなり遅いテンポで、かつ練習不足のためかアンサンブルは充分ではなかったにせよ、つい先日(2024年9月7日)共演したばかりで、伝説的な存在となった秋山和慶への追悼の思いがこもっていた演奏だった。


 ジュピター交響曲は、これと言って何か特筆すべき個性的な表現もない、標準的な演奏。初めて聴く人にとっては偏見なくモーツァルトを受け入れることができる普遍的な演奏だったともいえる。

 弦と菅のバランス、アンサンブルの精度など、今日はいずれも今一歩のところもあったが、どちらかというと、よく歌う楽章よりはフーガ風で手の込んだ作曲技法の楽章がよく、特に終楽章が力感があり立体感が感じられた演奏だった。

 コンサートマスターは会田莉凡。

2024/11/11

 札幌交響楽団名曲シリーズ

森の響名曲コンサート~すべての道はローマに通ず:ローマ三部作

 2024年11月 9日 札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮 /川瀬 賢太郎

管弦楽/札幌交響楽団


レスピーギ 交響詩「ローマの噴水」

レスピーギ 交響詩「ローマの松」

レスピーギ 交響詩「ローマの祭り」



 ローマ三部作全曲がこのホールで初めて演奏されたのは、札幌コンサートホールKitaraの開館2日後の1997年7月6日のオープン記念コンサート(指揮は秋山和慶)。オルガンが入っていて、華やかでオープニングシリーズにふさわしい曲目としてセレクトされたと記憶している。もう27年も前のことだが、ホールの響きは安定し、札響も当時とは全く違う素晴らしいオーケストラとなった。

 川瀬は1984年生まれ。指揮者としてはまだ若手なので、華麗にオーケストラを鳴らし、若さに満ちあふれた元気いっぱいのコンサートになるのではと思ったが、さにあらず、実に落ち着いた音楽性豊かなローマ三部作で、この作品の素晴らしさをじっくりと堪能できた演奏会だったと言える。


 「ローマの噴水」は、噴水の様子を静謐で情緒的に表現。時折現れるフォルテシモは鮮やかに噴水が飛び跳ねるように聞こえ、まさしく標題そのものの情景が目に浮かんでくるような表現だ。派手ではなく豊かな情景描写に主眼を置いたこの方向性は全4曲通して全くブレることがない。多種多様な楽器が登場するが、バランスがよくピッチはきれいに統一されていて気持ちがいい。爽やかで息の長い音楽が展開されて、とても印象に残るいい演奏だった。


 「ローマの松」でも、必要以上にオーケストラをがなり立てる事がなく、強奏でも響きが割れず、聴きやすい。終曲の「アッピア街道の松」は歩みが慎重で、もっと前向きで派手に演奏してもいいのに、とちょっともどかしいところもあったが、どこのフレーズをとっても音楽的によく歌われていて、無機質な表情が全くなく、とても好感の持てる秀演だ。


 「ローマの祭り」では終曲の「公現祭」に向かって徐々に盛り上げていく。随所で聴かせるソロはみな音楽的で上手い。ただ上手いだけではなく、それぞれの場面の情景をよく表情豊かに表現しており、オーケストラ全体がこれだけ色彩感豊かに響いて来たのは久しぶりだ。


 全体を通してオーケストラが終始バランスよく響いていたのは特筆すべきこと。川瀬のよく考え抜かれた表現も見事だったが、オーケストラの各セクションの充実ぶりが実に素晴らしい。ハリウッド映画のごとく劇的に描写した作品(当日配布プログラム解説)かどうかはよくわからないが、この作品はやはりライブで聴かないとその音響的素晴らしさはわからない。

 オーケストラに登場する楽器がほぼ出揃う華やかな編成で、今日のようにとても表情豊かな演奏で聴くと、レスピーギの見事なオーケストレーションと変化に富んだ音楽の素晴らしさを改めて認識することができる。エキストラには懐かしい顔ぶれもいて、視覚的にも大いに楽しめた演奏。

 子ども向けの音楽鑑賞教室用プログラムとして最適な気もするが、ちょっと編成が大きすぎて実現は難しそう。


 アンコールに、マスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲。レスピーギの熱演の後でオーケストラの音色がややお疲れ気味だったのが惜しい。

 コンサートマスターは会田莉凡。



2025/10/20

 札幌交響楽団 第672回定期演奏会

 2025年10月19日13:00  札幌コンサートホールKitara大ホール



指揮 /トーマス・ダウスゴー

ヴァイオリン /竹澤 恭子

管弦楽/札幌交響楽団


ランゴー:弦楽四重奏曲第3番「ラビア(怒り)」(T.ダウスゴー編曲版)

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲

ニールセン:交響曲第4番「不滅」


 ダウスゴーは2023年7月のPMFで札幌登場、今回が2度目の来札。前回は必ずしも全てが好印象というわけではなかったが、今日は全体的にいい仕上がりの演奏会だった。

 ブラームスは2023年6月の名曲シリーズで、シュトイデがコンサートマスター兼ソロを弾いて以来。協奏曲としての仕上がりは指揮者がいる今日の方が断然素晴らしい。竹澤は札響定期の常連で、今回も完成度が高く、やはり何度も繰り返し聴いてみたくなる演奏家だ。


 まずダウスゴーがオーケストラからいい音を引き出し、見事にまとめ上げていた。客席から指揮ぶりを見ていると、どことなくぎこちなく見えてソリストとの合わせは大丈夫か、と一瞬不安になったが、これは全く心配なし。

 竹澤は各セクションとより明確なコンタクトを取るために、色々な方向を向いて演奏し、指揮者の如く積極的にオーケストラをリード。キャリアの豊富さを感じさせるいいアンサンブルを作り上げていた。前回のシュトイデのように素っ気なくやや事務的だった音楽進行と比べると、協奏曲の醍醐味を聴衆に示してくれた秀演と言えるだろう。

 ステージ上でソリストが動きすぎると、人によっては音量がガラリと変化し、興醒めになる例も多いのだが、少なくとも今日座った席で聴く限りではほとんど気にならなかった。

 もちろん繊細な表情や、作品にふさわしい風格、スケールの大きさも申し分なく、ソリストとしても見事だった。

 アンコールにバッハの無伴奏ヴァイオリンソナタから。これは美しく良く歌い込まれた素敵な演奏だった。


 ニールセンは、定期では1988年12月の秋山和慶氏以来だそう。著名な指揮者の録音が多い作品だが、実際には全曲をライブで聴く機会はほとんどない。

 今日の演奏はいいリズム感に支えられたすっきりとした爽快な演奏。弦、菅のバランスがとても良く、充実したしかも引き締まった響きで全体をまとめ上げていた。日頃聴き慣れている日本人指揮者からは感じられない歯切れの良さと逞しさが感じられ、とても気持ちの良い演奏だった。

 滞るところや理屈っぽいところがなく、常に明晰。ただ、出自が同じデンマークということもあってか、アクセントとか、民謡風のメロディーの歌い方など独特の世界観があるようで、それが上手く作用したようだ。失礼ながらニールセンがこんなに聞き応えのある作品とは思わなかった。


 他に冒頭にダウスゴーの編曲で、デンマーク出身のランゴーという作曲家の弦楽四重奏曲のオーケストラ版。第3楽章のコラールは、オルガン席前に弦楽カルテットが配置され、カルテットとステージ上のオーケストラが対話するように演奏されていた。プログラム解説によるとダウスゴー自身は普遍的魅力を感じているようだが、様々なモティーフが交錯し、普遍性よりも個人的思い入れが強すぎる作品のように思えた。これはまた改めて違う機会に聴いてみたい作品だ。

 コンサートマスターは会田莉凡。