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2023/03/06

 札幌交響楽団 第651回定期演奏会


2023年3月 5日13:00  札幌コンサートホール Kitara 大ホール


指揮/尾高 忠明

ヴァイオリン/金川 真弓

管弦楽/札幌交響楽団


エルガー:序曲「南国にて」

プロコフィエフ :ヴァイオリン協奏曲第1番

ラフマニノフ:交響的舞曲


 エルガーは、たくましさを感じさせるスケールの大きな演奏。作品は、北国にはない南国の様々な気候と風景を、多彩な色あいのオーケストレーションで見事に表現したもの。よくある南国への憧れは感じさせない。

 重厚な響きの中にも、繊細な様々な風景を想起させる描写も美しく、特に牧歌的な情景を表現したヴィオラのソロは秀逸。全体的にすっきりとした、いい表情の演奏だった。

 今日の席は1階12列下手寄りで、ヴァイオリン、管楽器はもちろんのこと、チェロ、ヴィオラ、コントラバスの中低音域楽器がクリアに、しかしバランス良くまとまって聴こえてきたのには驚いた。尾高の指揮で札響を聴くのは昨年の2月以来。やはりこのホールで聴く尾高・札響は、長年聴き慣れた、豊穣で充実した音がして、とてもいい。


 プロコフィエフを弾いた金川が素敵だった。第1番は、プロコフィエフが楽壇にデビューしたての20代半ばの作品で、まだ情緒的な香りを強く感じさせる作風だ。金川のソロは、この時期のプロコフィエフが持っていた、後の作風からは信じられない初々しい感性を、見事に表現した演奏。しなやかな、柔らかい表情で、音色も優しく、これほど音楽的に演奏されたこの作品を聴いたのは初めてだ。もちろん、プロコフィエフらしい諧謔的な表情もあったが、全体的に上品な作曲家像を見せてくれた。オーケストラはソロと一体になった美しい表情を聴かせ、申し分なかった。

 ソリストアンコールにプロコフィエフの無伴奏ヴァイオリンソナタより第2楽章。


 ラフマニノフは、当日配布プログラムによると、名手揃いのオーマンディ指揮のフィラデルフィア管弦楽団を想定して作曲したそう。なるほど、華やかな音がするはずだ。

 かなり書き込んだ作品で、やや薄味となってはいるがラフマニノフならではのロマンティシズムが感じられ、やはり保守的な色合いが濃い。

 まとめ上げるのが意外と難しそうな作品だが、演奏は、そういう特質を反映させ、全体の枠組みをしっかり構築して、情感豊かにまとめ上げた充実した内容だ。各セクションは安定し、かつゆとりがあり、特にアルト・サックスを含む管楽器グループの活躍ぶりは素晴らしい。弦楽器グループの厚みのある豊かな響きと見事に調和し、作品の持つ重量感を、尾高ならではの優れたバランス感覚によって、聴かせてくれた。


 先日聴いた京都市交響楽団も、今日の札響も共に優れたオーケストラであることを再認識。特に札響の響きは北海道ならではの、湿気の少ない、きれいな空気の中で生まれるものだ、とあらためて思った。

 記録を見ると、京響はびわ湖ホールがオープンしてからオペラの演奏機会が増えている。札響も、札幌文化芸術劇場がオープン後同様のことが言え、これはオーケストラのグレードアップにも繋がるだろう。

 今は首都圏以外のオーケストラの充実が目覚しい。個性的で特色ある響きの、我が街のオーケストラがより一層発展することを期待しよう。


 コンサートマスターは田島高宏。

2024/07/02

 札幌交響楽団第662回定期演奏会


2024年6月30日13:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮:尾高忠明(札響名誉音楽監督)

ヴァイオリン:金川真弓


チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲

ドヴォルジャーク/交響曲第9番「新世界より」


 このたび、6月29・30日に札幌コンサートホールKitaraで開催する『第662回定期演奏会』の指揮者 シャルル・デュトワ氏が、体調不良により出演を見合わせることになりました。

 そのため指揮者を尾高忠明(札響名誉音楽監督)に変更して開催することといたします。

 シャルル・デュトワ氏と札響の共演を楽しみされていましたお客様には、誠に申し訳ございませんが、何卒ご理解いただきますようお願いいたします。

 急な依頼をお引き受け下さった尾高氏に感謝いたしますとともに、デュトワ氏の一日も早い回復をお祈りいたします。(主催者発表)


 シャルル・デュトワが体調不良のため指揮者が尾高忠明に交代。

 ちなみにデュトワはPMF の芸術監督を2000-02年の3シーズン務め、02年にはマルタ・アルゲリッチが登場し、Kitaraで華やかな音楽シーンが繰り広げられたのは、記憶に鮮明に残っている。

 

   最近では新日本フィル第650回定期演奏会〈トリフォニーホールシリーズ〉 (2023年6月24日すみだトリフォニーホール大ホール)を聴くことができた。87歳とは思えないタフな演奏で、札響からどのような音楽を引き出すのか大いに楽しみだったが、次回の登場に期待しよう。 


   金川のチャイコフスキーが良かった。ホール中に朗々と響き渡る骨太の音色で、落ち着いた堂々とした語り口が印象的。前回(2023年3月5日第651回定期)、「プロコフィエフ /ヴァイオリン協奏曲第1番」を偶然にも尾高と共演したときと比べると、作品の雰囲気が違うため一概にはいえないにしても、演奏は一段とスケールが大きくなったように思える。

 ひとフレーズごとにしっかりと聴衆に語りかけてくる説得力のある演奏で、華麗な表現、静かな歌、オーケストラとの対話など申し分なく、巨匠の演奏を聴いているようで、実に見事。尾高はソリストと一体になって全体を引き締まった表現でまとめ上げ、この作品を堪能させてくれた。

 ソリスト・アンコールに「パガニーニの24の奇想曲」より第24番。音色がチャイコフスキーの骨太の音色から繊細な響きにガラリと変化したのには驚愕。各変奏の性格をきめ細やかに表現した素敵な演奏だった。このソリストの多彩な才能に魅了された前半だった。


 尾高・札響の「新世界交響曲」は、ここKitaraで何度も聴いてきたが、定期演奏会で聴くのは初めて。以前はもっと大柄な演奏だったように記憶しているが、今日は細部まで緻密に仕上げられた演奏だ。

 やはり定期での公演となると緊張感が全く違うようで、札響以外のオーケストラ含め、幾多も聴いてきた中でもこれだけ充実した響きのする「新世界より」は今までに聴いたことがない。

 札響に限って言えば、毎年のように何度も聴いたのは、尾高が常任指揮者だったもう20年近くも前の事で、オーケストラの表現力が当時とは比較にならないほど豊かになっているのもその原因の一つだろう。

 部分的にはもっと繊細で美しい表現であれば、と感じたところもあったにせよ、管楽器群の素晴らしいソロと全体的に豊穣な響きでまとめ上げられた演奏は、やはり格別だ。

 ただ、いつも聴き慣れた尾高の音楽で、もちろん安定感があって安心して聴くことができた卓越した演奏だったが、やはりデュトワだったらこの作品をどう表現するのか、聴いてみたかったのが正直な気持ちだ。ぜひ再登場を願う。

 コンサートマスターは会田莉凡。

2023/08/01

 PMF GALAコンサート 


2023年7月30日15:30  札幌コンサートホールKitara大ホール


【第1部】
ARK BRASS
(アーク・ブラス)
PMF
オーケストラ・メンバー
【第2部】
指揮/トーマス・ダウスゴー
ヴァイオリン/金川 真弓
管弦楽/PMFアメリカ、PMFオーケストラ


【第1部】
S.
シャイト:戦いの組曲
ヘンリー8世/E.ハワース編曲:組曲「棘のない薔薇」
ウォルトン/E.ハワース編曲:「スピットファイア」前奏曲とフーガ 


【第2部】
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
ブルックナー:交響曲 第9番 ニ短調(第4楽章補筆完成版)



ダウスゴー©Thomas Grøndahl  PMFHPより
 PMF札幌最終日の恒例ガラコンサート。
まず後半第2部から。今回はブルックナーの交響曲第9番の完成版が最大の注目点。その補筆完成版の第4楽章だけで30分近くもあり、交響曲全曲で約1時間半。管楽器が多用されているため、アカデミー生に加え、PMF教授陣も加わった総力戦の体制。
 指揮者のダウスゴーはデンマーク出身で、バーンスタインのセミナーや岩城宏之に師事するなど、PMFと日本にはゆかりの深い指揮者だが、聴いたのは今日が初めて。

 前半にメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。これは金川の豊かで幅広い表現力が素晴らしく、また何よりもダウスゴーのサポートぶりが実に見事。この作品で、ここまでオーケストラを繊細かつ美しく仕上げた演奏は本当に久しぶり。ソロとオーケストラが見事に一体化された名演で、歴代PMFのコンサートの中でも代表的名演の一つだと思う。


 ということで、大いに期待された後半のブルックナー。

 全体的にかなりスケール大きくまとめ上げた熱演。アカデミー生達の躊躇しない思い切った表現が素晴らしく、彼らの迫力に圧倒された1時間半だった。ここまでアカデミー生の積極的な表現力を引き出したダウスゴーの手腕は見事。一方で、第3楽章での弦楽器群が産み出した重厚なハーモニーは今回の演奏の中でも特筆すべき仕上がり。

 ただし、協奏曲で聴かせた細かい配慮と繊細さがこの作品ではあまり感じられず、大きくまとめ上げる方に力点が働いていたようで、全体の枠組みがやや荒くなったのが惜しい。一夏限りのオーケストラとはいえ、個々のアカデミー生の実力は以前よりもかなり高くなっているはず。もっと踏み込んだ音楽的解釈を要求しても良かったのではないだろうか。

 特に管楽器が全体的に弦楽器を圧倒してしまう音量で、聴いていて辛かった。同じ大きな音でも、弦楽器と調和したもっと歌い込んだ柔らかい響きを引き出してくれると、聴きやすかったのだが。弦楽器群がかなり厚みのあるいい響きで演奏しているにも関わらず、両者が競うように音量を絞り出す結果になってしまったのは惜しい。

 その他、例えば、第1楽章でのベートーヴェンの第9を想起させる特徴的なホルンのモティーフの扱いが粗雑で、これは明らかに指揮者の責任。ここだけではなく、全体的にもう少し細部を深く彫り下げた、輪郭の明確な演奏に仕上げることもできたように思う。

 補筆された終楽章はライブでは初めての体験だが、トータルで聴くと再構成された違和感はさほど感じない。ただ、PMFホームページで読める第4楽章の再構成を担当した一人であるジョン・A・フィリップスの解説にある、この作品に込められたブルックナー自身の様々な思想的背景等は、ダウスゴーの目指すところではなかったようだ。

 とはいえ、多国籍アカデミー生による国際色豊かな補筆完成版の第9番、遺作とは思えない熱いメッセージを伝えてくれた演奏で、これはPMFならでは。この音楽祭で北海道初演となった大曲を聴き、その魅力を知った音楽ファンは多い。アカデミー生の今後の活躍を大いに期待しよう。


 ガラ第1部はARK BRASSの演奏。管楽器だけの演奏だが、良く歌い込まれた美しい音色の整ったアンサンブルで、シャイトとヘンリー8世の作品がシンプルで機知に富んだ魅力があることを紹介してくれて面白かった。

 PMFオーケストラメンバーが加わってのウォルトンは音楽の精度がやや曖昧になったがこちらも好演。