2023/02/27

  25  リスト音楽院セミナー 

受講生コンサート 


2023  2  26 15:30  札幌コンサートホール Kitara小ホール 


1.西田 梨乃

            リスト:バッハの名による幻想曲とフーガ S.529 

2.黒田 桃子

            シューベルト=リスト:「冬の旅」 S.561 より 7 菩提樹

3.松本愛絵里

            プーランク:ナゼールの夜会 FP.84 より

    前奏曲、第1変奏 分別の極み、第2変奏 手の上の心臓、 

    第3変奏 磊落と慎重と、フィナーレ

4.山本 健太郎(伴奏/中島幸治、第15回セミナー最優秀受講生)

   ラフマニノフ:ピアノとチェロのためのソナタ ト短調 作品 19 より

   第1楽章

5.渡辺 彩乃

   ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ  27  ホ短調 作品 90

6.土田 裕利

   シューマン:ピアノ・ソナタ 3 ヘ短調 作品 14 より 1楽章

7.小野寺 拓真                                                                                                                  ワーグナー=リスト:歌劇「タンホイザー」より 序曲 S.442

8.古川 佳奈(第24回リスト音楽院セミナー最優秀受講生)

   シューマン:クライスレリアーナ 作品 16



 セミナー締めくくりの受講生コンサート。各コースの教授からの推薦で出演者を決定し、コンサートで最優秀受講生を選抜。翌年のブダペスト・スプリング・フェスティヴァル2024への出演資格が授与される。
 以下、特に記載のないのは大学在学中か、卒業した出演者。


 西田は高校生。音楽が生き生きと溌剌としていて、明確な自己主張があり、とても気持ちのいい演奏。今後の成長が楽しみだ。


 黒田のシューベルト=リストは、よく歌い込まれていて、原曲のイメージを大切にしながら、リストが加えた即興的装飾を美しく表現していた好演。


 松本のプーランクは、比較的このセミナーでは演奏される機会の少ない作品。会場の雰囲気が明るくなって、緊張感の多いこの演奏会に彩を添えるような、いい感覚の演奏だった。


 山本は、このコンサート唯一のチェロ。美しい音色、きれいな音程、品のいい歌い方は師のペレーニを彷彿とさせ、とても印象に残る演奏だ。ピアノの中島がバランスの良い落ち着いた音楽を奏で、チェロと息のあったアンサンブルで、好演。


 渡辺のベートーヴェンは細部まで音楽的に細やかに表現され、かつ全体的にとてもよくまとまっていた、高水準の演奏。


 土田は高校生。シューマンの作品のスケール感に負けずに真摯に立ち向かった、たくましさを感じさせる見事な演奏で、将来が楽しみ。


 小野寺も高校生だが,ワーグナー=リストの「タンホイザー」序曲を堂々と演奏。技術的にも音楽的にも高校生とは思えないスケール感があり、こちらも将来が大いに楽しみな逸材。


 古川は昨年の最優秀受講生。これほど音楽的に、見事に完成されたクライスレリアーナは滅多に聴けないのでは。特に弱音で繊細に歌われた旋律の美しさは素晴らしい。フォルテよりも魅力的なピアニッシモの方が訴えかける力が強いことを示してくれた。受講生はこの演奏を大いに参考にすべきだ。なお、古川はブダペスト・スプリング・フェスティヴァル2023で、4月25日にリサイタルを開催予定。

2023/02/26

 25回リスト音楽院セミナー

特別レクチャー&公開レッスン


2023年2月2510:30 札幌コンサートホールKitara小ホール


講師/バラージュ・レーティ(リスト音楽院教授)

通訳/谷本聡子(札幌大谷大学教授)


【特別レクチャー】

テーマ/バルトーク〜ミクロコスモス 


【公開レッスン/ピアノ】

受講生/萩原 るうか(札幌大谷大学 3年)

    リスト:超絶技巧練習曲 より第11番 変ニ長調


受講生/遠山 寧音 (北海道教育大学岩見沢校 4年)

    バルトーク:戸外にて



 ミクロコスモスは、言うまでもなく、バルトークが自分の息子のために書いた全巻のピアノ教材。各巻から何曲か特徴的な作品を取り上げ、意義と目的、その価値を、実演を交えて説明。

 手慣れた見事な演奏、的確な説明とわかりやすい通訳で、一般の音楽ファンにも楽しめる内容だった。


 今日のレクチャーからは、初歩から始まり次第に難易度が高くなること、各曲が子供にとって取り組み易い短い作品であること、いかに少ない音で多くを語るかという方針が徹底していること、初期の段階から両手は独立した動きをするようになっていること、様々な音楽のスタイルのエッセンスが盛り込まれており、例えばベートーヴェンの作品を鑑賞したときに、その様式が理解できるような、ヒントが盛り込まれていること、など。

 第6巻はコンサートピースとして活用でき、バルトークの趣味は昆虫採集で、あちこちハエが飛び回るシーンを描いたユーモラスな作品(第6巻No.142,from the Diary of a Fly」日本語訳「蝿の日記から」)があること、これは実演付きで、本当にハエが飛んでいるような見事な演奏だった。

 その他、メロディーと伴奏という単純形がなく、調性にとらわれない、自由で伸び伸びとした感覚の、子供が興味を持ちそうな作品が多い。

 民俗音楽をテーマにした作品も多く、誰か優れた日本の作曲家がこのような作品集を書けないものだろうか?


 公開レッスンは札幌大谷大学と北海道教育大学岩見沢校から各一人ずつ受講。人ともとてもよく弾けている。

 レッスンは、もちろんプロの教育者だけあって、的確で、模範演奏はとても音楽的。バルトークの、無機的になりがちなパッセージでも歌を感じさせる演奏で、セミナー期間中の教授陣のレッスンを聴いても、この音楽性、特に歌うことに焦点を当てた指導、指摘がかなり多いのが特徴だ。

 リストのレッスン曲説明で、リストとドビュッシーの関連性については興味深く、また2人がローマで面会した事実があることは知らなかった。(Alan Walker Liszt , The Final Years 1861-1886」によると1886

月に面会している。リスト最後の年で、これについては有名な逸話があるようだ。色々な文献で紹介されているようで、これは当方の不案内。なお、グローブ音楽事典の日本版では1885年となっている。)


 この公開レッスンは,当初Kitaraで開催、その後札幌大谷大学の協力を得て、同大学に会場を移したが、前回(コロナ禍でオンライン開催)から再びKitaraに会場を戻した。

 一般市民の来場も増えてきたようで、セミナーが専門家以外により浸透していくきっかけになることを期待している。

 25回リスト音楽院セミナー

歴代最優秀受講生による

ランチタイムコンサート


2023年2月2312:15  札幌コンサートホールKitara小ホール


ピアノ、お話/水野魁政(第23回リスト音楽院セミナー最優秀受講生)

お話/ガーボル・ファルカシュ


ショパン:24の前奏曲 作品28より 第1番〜第12

コダーイ:マロシュセーク舞曲


 セミナー最優秀受講生には毎年、主催者の札幌コンサートホールから翌年のブダペスト・スプリング・フェスティバルに出演する資格が授与される。

 コロナ禍で日程変更はあったものの、水野は202255日に同フェスティバルでのソロリサイタルに出演した。その出演報告も含めての、いわば帰朝演奏会。


 水野は1997年生まれで、偶然にもKitaraと同じ世代。リスト音楽院ソリスト・ディプロマコースに在学中。絶え間ない研鑽を積んでいるようで、ショパンもコダーイも技術的にも音楽的にも優れており、安定したプロフェッショナルの演奏で申し分ない。まだ多少書生風の雰囲気が感じられはするが、これからの未来が大いに楽しみな骨太の演奏だ。

 配布プログラムには、自身による曲目解説とブダペストでの留学生生活の写真が掲載されており、また折り込みでフェスティバルでのソロリサイタルの感想と写真付きのレポートが添付されており、これは主催者の好企画。開演前のひとときを楽しませてくれた。


 お話は師のファルカシュ教授と通訳の谷本聡子氏を交えての3人の対談。明朗な性格の持ち主のようで、緊張を感じさせない伸び伸びとしたトーク。師のお話も弟子を大切にしている様子が伺われ、楽しい内容だった。

 本人によると、セミナー受講までは北海道に来たことがなかったそうで、雪に悩ませられながらも、こういう機会を持て、とてもよかった、とのこと。


 祝日のお昼ということで、来場者が多く、セミナーに関心を持つ音楽ファンが増えてきたようだ。その期待に充分沿う好演。今後の活躍に期待しよう。


2023/02/24

 Kitaraワールドソリストシリーズ〉

25回リスト音楽院セミナー 講師による特別コンサート


ミクローシュ・ペレーニ&

イシュトヴァーン・ラントシュ


202322219:00 札幌コンサートホールKitara小ホール


チェロ/ミクローシュ・ペレーニ
ピアノ/イシュトヴァーン・ラントシュ


J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 4 変ホ長調 BWV1010 (チェロ)

ハイドン:ピアノ・ソナタ 39 ニ長調 Hob.ⅩⅣ24 (ピアノ)

ヴェイネル:ロマンス 作品14 (チェロ&ピアノ)

カサド:無伴奏チェロ組曲 (チェロ)

ショパン:夜想曲 2 変ホ長調 作品9-2 (チェロ&ピアノ)

     練習曲集 7 嬰ハ短調 作品25-7 (チェロ&ピアノ)

ドビュッシー:前奏曲集 2巻より

       第2 枯葉、第3 ヴィーノの門、

       第4 妖精たちはあでやかな舞姫、

       第6 風変わりなラヴィーヌ将軍、

       第7 月の光がそそぐテラス     

       (ピアノ)


 イシュトヴァン・ラントシュは今回でセミナーを引退する予定。1997年にKitara開館と同時にリスト音楽院セミナーが開催され、今年で25回目。初回は当時リスト音楽院学長だったラントシュ、次期学長に就任予定だったシャーンドル・ファルヴァイ、そしてミクローシュ・ペレーニの3人がセミナーの教授陣だった。

 セミナー期間中の教授陣による演奏会で、それぞれ名演を聴かせてくれたが、ペレーニとのデュオはいつもラントシュが務めてきた。それも札幌では今回が最後となる。

 

 今回はラントシュのピアノソロも加わった多彩なプログラム。

 コロナ禍の中断を経て、ペレーニのチェロは2年ぶり。端正で、誇張がなく、音楽のみを語る、という今までの姿勢と全く変わらない。柔らかい見事なボーイングから生まれる、自然で豊かな響きのする音色は相変わらず魅力的だ。

 バッハは緊張感と集中力が途切れることがない。アルマンドの後半あたりから楽器がよく響くようになり、大袈裟な表現が一切なく、均整感のある、深く歌い込まれたバッハは、彼だけからしか聴くことのできない、見事な演奏だった。


 次のヴェイネルは、バッハの緊張感から解放されたように、ラントシュの柔らかく流麗な伴奏に乗り、息の長いフレーズを生き生きと美しい音色で聞かせてくれた。また、カサドでは隙のない鋭さも感じさせ、バッハとは違う一面を示してくれた、求心的でいい演奏だった。


 ショパンのチェロ編曲は、と言ってもほとんど原曲のまま旋律を演奏しているだけだが、名手が演奏すると、編曲版であっても本当に素敵な作品であることが実感させられた。ペレーニの淡々として誇張がなく、深い音楽性を感じさる表現は素晴らしく、これはとても贅沢な瞬間だった。


 今回がKitaraのステージが最後になるラントシュは、まずハイドンのソナタで驚くほど美しい音色の演奏を聴かせてくれた。まろやかで、すっきり抜けてくる響きからは、彼の音に対する優れた感性が見事に表れていた。特に第2楽章のアダージョの美しさは忘れることのできない名演。

 ドビュッシーはハイドンと音色が一転して変化し、全体が大きく溶け合ったハーモニックな音が聴こえてきて、このコントラストが実に見事。ピアニスティックな面よりは、印象派の絵画を想起させるような、そして何かを思索するような演奏で、彼の音楽家としての奥行きの深さを感じさせる演奏だった。


 彼が札幌の音楽界に残した功績は大きい。セミナーでの教授活動は勿論のこと、Kitara開館前には、市内教会等で、オルガン普及のための熱心な演奏活動とレクチャーを行い、それらを通じて札幌の音楽文化の発展に大きな役割を果たした。教育活動では、1986年から3年間北海道教育大学で教鞭をとったほか、最近まで札幌大谷大学で客員教授を務めた。優れた人格者ゆえ、多くの人々から慕われ、その教えを受けた学生は数えきれない。

 札幌の音楽史を語る上で、彼の名前は今後も永遠に消えることがないだろう。


 ラントシュはドビュッシーをKitaraでの過去のリサイタルでも演奏している。前奏曲集第2巻の「枯葉」はKitara開館5周年記念CD(非売品、5周年記念誌に添付)に収録されている。名演だが、現在では残念ながら入手不可。

 また、ご本人は過去の映像なので嫌がるかもしれないが、1970年2月収録のハンガリーのテレビ放送用の番組だと思われる映像で、若き日のラントシュがドビュッシーの「花火」を演奏する姿を見ることができる。

https://youtu.be/tKj2vJfafFM

 また,この映像にはファルヴァイ、ラーンキ、コチシュが登場し、それぞれが1曲ずつ演奏している。全員世界に飛躍する直前の演奏だと思われ、この4人が当時ハンガリーで傑出したピアニストだったことが証明されている映像だ。


 もう一点追加すると、ラントシュと、前回でセミナーを引退したシャーンドル・ファルヴァイは、他の数人の演奏家とともにハンガリーのフンガロトンレーベルにハイドンのピアノソナタ全集を録音している。それぞれが5曲前後を受け持ってのレコーディングだったようで、現在はCDで復刻され聴くことができる。Youtube上でも鑑賞可能だ。意外と知られていないが、これは端正で、素晴らしいハイドン演奏なので是非一聴を。 

2023/02/21

 札幌音楽家協議会・ハイメス 国際交流コンサート

REZONANCIA 共鳴 

~ハンガリーからお迎えして~


20232201900 札幌市生涯学習総合センター ちえりあホール 


共催/札幌音楽家協議会 NPO法人北海道国際音楽交流協会

特別協力/札幌コンサートホール


ピアノ/ガーボル・ファルカシュ

チェロ/ゲルゲイ・デヴィッチ


モーツアルト :ピアノと管楽のための五重奏曲 K.452
  ピアノ/ガーボル・ファルカシュ
  オーボエ/岡本 千里
  クラリネット/大橋 真紀
  ファゴット/石黒 
  ホルン/上田 博美


メンデルスゾーン :ピアノ三重奏曲  1  ニ短調 Op.49
  チェロ/ゲルゲイ・デヴィッチ
  ヴァイオリン
   第1楽章・第楽章 /長谷川 加奈
   第3楽章・第楽章 /岩渕 晴子
  ピアノ
   第1楽章・第楽章 /平野 雅子
   第3楽章・第楽章 /柴田 千賀子


ブラームス :ピアノ五重奏曲 ヘ短調 Op.34
  ピアノ/ガーボル・ファルカシュ
  第1ヴァイオリン/長岡 聡季
  第2ヴァイオリン/山本 聖子
  ヴィオラ/円山 真麗子
  チェロ/髙橋 勇輝


 222日から開催されるリスト音楽院セミナー(札幌コンサートホール主催)で来札しているハンガリーの音楽家2名と、札幌在住の音楽家が共演するコンサート。

 ガーボル・ファルカシュはリスト音楽院のピアノ科主任教授で、演奏家としても華々しい活動を展開中だ。22日からのリスト音楽院セミナーで講師を務める予定で、セミナーには2020年から参加している。


 一方のチェロのゲルゲイ・デヴィッチは札幌コンサートホールとリスト音楽院との交流事業の一つとして、ハンガリーの若手音楽家を紹介するシリーズの一環で今回来日し、今月18日にKitaraでリサイタルを開催している。まだ20代半ばだ。


 リスト音楽院の教授のレッスンや現在学生の演奏を聴くことは、数多いハンガリー出身の名音楽家達が育った教育の背景、音楽解釈を知る手がかりともなり、とても興味深い。今回2人の演奏に共通しているのは、基本的な演奏テクニックが完成されていることはもちろんのこと、端正で誇張がなく、誠実な演奏で、かつ音楽語法、演奏技法が自然で、洗練性もあり、バランス感覚にとても優れていることだ。


 ファルカシュの演奏は、室内楽奏者として技術的にも音楽的にも高い完成度に到達している、と言えるだろう。

 モーツァルトはそれぞれの管楽器奏者とのバランスやフレーズの繋がりを考慮しながらの演奏で、全員の、息のあったアンサンブルは素晴らしい。全体的に、管楽器奏者の柔らかく、自然な息づかいの中で空間に広がっていく旋律と、そこから形成されるハーモニーが美しく、またそれぞれの管楽器のピッチもきれいで、ファルカシュと一体となった上質の音楽を聴くことができた。


 一方、後半のブラームスでは、ファルカシュはこの作品の繊細さとスケールの大きさとの二元性を見事に表現し、技術的にも音楽的にも隙が一切なく、間違いなく彼が世界トップクラスの演奏家の一人であることを証明してくれた演奏だった。

 弦楽セクションは、大健闘だったが、やはり臨時編成のカルテットでは手に負えない凄みのある作品なので、もっと時間をかけたリハーサルが必要だったのではないか。


 メンデルスゾーンを弾いたゲルゲイ・デヴィッチは柔らかいボーイングと美しい音色、端正で豊かな音楽性が魅力的だ。18日のソロリサイタルは聴けなかったが、今日のメンデルスゾーンから想像するに、誇張のない、音楽のみを語る師のミクローシュ・ペレーニを彷彿とさせる才能を持っているようだ。

 ピアニストとヴァイオリニストは第1・2楽章と第3・4楽章で替わる変則的な演奏だったが、ともに熱演。

 ただ、デヴィッチの目指す音楽性とは多少の乖離があったようで、これもリハーサルの時間がもうすこしあると良かったのかもしれない。


 ファルカシュのアンサンブルでは、ピアノの音量的なバランスがとても良く、うるさくない。絶対音量はメンデルスゾーンのピアニストより大きいはずだが、アンサンブルに溶け込んで見事なバランスで聞こえてくるのは,さすがだ。これは室内楽の基本的で重要な演奏法なので、これをテーマにレクチャーしてくれると面白いのかもしれない。


 今日共演した札幌の音楽家達はともに札幌音楽家協議会

https://satsuonkyou.jp/とNPO法人北海道国際音楽交流協会(ハイメスhttps://www.himes.jp/に所属する演奏家。札幌の音楽活動の中心となっている団体で、詳細はそれぞれのHPでご確認いただきたい。

 札幌コンサートホール主催のリスト音楽院セミナーは22日から26日まで。詳細は同ホールのHP https://www.kitara-sapporo.or.jp/を参照のこと。


2023/02/20

森の響フレンド札響名曲シリーズ

アキラさんの名曲コンサート

202321814:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮 /宮川 彬良

構成・プレトーク /新井 鷗子

管弦楽/札幌交響楽団


宮川彬良:風のオリヴァストロ

ブルグミュラー:貴婦人の乗馬、アラベスク

ショパン:別れの曲

ハノン:バリエーション・ハノン第1番

H.マンシーニ:ひまわり

ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ

モーツァルト:アイネ・クライネ・タンゴムジーク

ベートーヴェン:エリーゼのために

ジョプリン:ジ・エンターテイナー


バーンスタイン:「ウエストサイド・ストーリー」より

          アメリカ、マリア     

        シンフォニック・ダンス

ベートーヴェン=プラード:シンフォニック・マンボNo.5


 宮川彬良と札響は2006年からシリーズで、主にファミリー向けの気軽なコンサートを開催している。毎回盛況で、今日も満席。定期公演とは客層が違い、親子連れや夫婦での来場者が多く、場内はカジュアルな雰囲気でいっぱいだ。

 宮川はもちろん優れた作曲家、編曲者だが、同時に優れたエンターテイナーでもあり、ユーモアにあふれた、わかりやすい良質のお話が人気の原因の一つだろう。

 それゆえ、これを楽しみにしている観客も多いようで、場内はさながら贔屓の落語家が登場したかのような盛り上がりだ。

 

 オリジナルの作品はシンフォニック・ダンスだけで、あとは、宮川彬良の編曲。いずれも手慣れた、いい響きがする優れた編曲だ。

 特に前半では、宮川のピアノソロが加わり、これが編曲に素晴らしい彩りを添えており、実に見事。また、ピアノの音色がとてもきれいで、楽器の状態がとても良かったのは特筆すべき事柄だろう。


 今日のテーマは「音楽をもっと知りたい人のためのアキラ流アナリーゼ」。前半ではブルグミュラーの「貴婦人の乗馬」が見事な編曲。最後にトランペットの鶴田が、馬のいななきを表現するなど、演出効果も万全で、宮川の面目躍如というところか。

 その他では、「エリーゼのために」が編曲とはいえ、全曲演奏されていた。ベートーヴェンになると、さすがに編曲にも力が入るのか、重量感があり、聞き応えがあった。

 それ以外の作品では、美しい旋律だけを取り上げて終わるような、ダイジェスト版が多く、やや物足りないところもあったのが残念。名曲は美しい旋律だけではない、というところも紹介して欲しい。

 モーツァルトとマンシーニの作曲技法の共通性など、面白い話題満載だったが、どうせなら、もっと突っ込んだお話をしても良かったのでは。


 後半は宮川の「ウエストサイド・ストーリー」への熱い思いを語りながらの演奏。物語のメインテーマである、対立する二つの勢力を、作曲技法上から見事に解明した説明は、わかりやすかった。大きな楽譜をステージ上で用いて説明してくれたが、おそらく1階席前方の聴衆しか見えなかったのではないか。楽譜がなくても、宮川の説明と凡例のピアノ演奏で充分伝わったと思う。

 さらに、ここで宮川のお話は、ウエストサイド・ストーリーの内容と、今の世界情勢を匂わせながら、音楽の素晴らしさを語っていく、気配りのあるなかなか味わい深いお話で、これは普通の音楽家ではなかなか出来ないことだ。

 色々な宮川の想いを込めたシンフォニックダンスの演奏は、この日ならではの特別な響きがしていたのかもしれないが、ただ、前半も後半も伝えたいメッセージがたくさんあり過ぎて、やや時間オーバーだったようだ。もう少し曲目を減らして,焦点を絞ったお話をすれば、聴衆にとって、もっと知りたい情報が伝わったのではないか。


 コンサートマスター、会田莉凡が、要所要所をしっかり締めていたようで、アンサンブルの乱れもなく、いつもの札響サウンドが聴こえてきて、いい演奏だった。これは宮川のとの信頼関係が築かれていることもあるのだろうが、札響の地力が安定してきた証拠でもあろう。


 アンコール(マツケンサンバ)と、今日が誕生日だった宮川を祝うセレモニー含め、終演は16時20分を少し越えた頃。セレモニーがあったのでちょっと長くなったが、聴衆は皆満足して帰路についたようだ。

2023/02/14

 オルガンウィンターコンサート


2023年2月1115:30 札幌コンサートホールKitara大ホール


オルガン/松居直美


ブクステフーデ:プレルディウム ト短調 BuxWV149

                                暁の星のいと美しかな BuxWV223

シューマン:ペダル・ピアノのための練習曲集 作品56より

      第2番イ短調

      第4番変イ長調

J.S.バッハ:わが魂は主をあがめ

       マニフィカトによるフーガ オルガノ・プレノのための

                            BWV733 

      さまざまな手法による18のライプツィヒ・コラール集より

       いと高きところには神にのみ栄光あれ BWV662

      パッサカリア ハ短調 BWV582



 第23代専属オルガニスト、ヤニス・デュボワが健康上の理由で一時帰国中のため、代役に松居直美が、Kitara主催コンサートには初登場。日本のオルガニストの中では、もうベテランの域に入る重鎮だ。

 ビジターのオルガニストが、Kitaraの大オルガンを弾きこなすには相当の時間が必要だが、松居はさすがベテランのオルガニスト、楽器の特徴を把握するのは早いようで、ホール内にしっかり響くいい音を聴かせてくれた。


 バッハが楽しめた。音楽がよく流れていて、それが大きな一つの流れとなって全体的に大きな枠組みを作り上げていく、という演奏。

 こういう演奏は、ディテールを細かく表現してそれを積み重ねる演奏とは違って、割と大味な演奏になりがちだが、そこはさすがベテラン。全体を貫くオルガンの音色がとても聴きやすく、作品の宗教的なバックボーンをよく聴衆に伝えてくれたのではないか。

 レジストレーションの選択が良く、柔らかく、流麗で作品にふさわしい響きがしていたと思う。特に最初の2曲、BWV733662がとても聴きやすい、いい演奏だった。 

 パッサカリアは,ペダルがややもたつき気味であったにせよ、音楽が途切れることなく,次々と変奏される多彩な表情が現れ、バッハの壮年期の力強さを感じさせた演奏。


 シューマンは,これも色々なオルガニストが好んで取り上げる作品だが、しなやかで、シューマンらしいロマンティックな感性がよく反映されていた。


 冒頭のブクステフーデは,演奏者も緊張していたのか、やや硬めの演奏だったが、それでもベテランらしく楽器をよく響かせていたのは、さすが。


 最近のKitaraのオルガンは安定しているようだ。今日もとてもいい音がしていた。もちろんオルガニストの力量もあるが、管理状況がいいようだ。このままの状態が継続するよう期待している。


 雪まつりの時期に毎年開催しているこのウィンターコンサートだが、この日もほぼ満席。オルガンコンサートで、これほど多くの来場者がいるのは、全国的にもおそらくKitaraだけだろう。

 老若男女、様々な年齢層の来場者で賑わい、オルガンの音色を楽しんでいた。