2023/05/04

 Kitaraあ・ら・かると〉

きがるにオーケストラ


20235315:00  札幌コンサートホールKitara 大ホール


指揮・チェンバロ・お話/鈴木 優人
ソプラノ/中江 早希
オルガン/吉村 怜子
管弦楽/札幌交響楽団
共演/札幌日本大学高等学校吹奏楽部 金管セクション


ビゼー:歌劇「カルメン」より第1幕への前奏曲

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」より

          王女たちのロンド、カスチェイ王の凶暴な踊り

デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」
モーツァルト:歌劇「魔笛」K.620より 

     夜の女王のアリア「復讐の心は地獄のようにわが胸に燃え」

サン=サーンス:交響曲 3 ハ短調「オルガン付き」 作品78より

        第2楽章より
三善 晃:札幌コンサートホール開館記念ファンファーレ

    ~23の金管のための 

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲「四季」より第2番ト短調「夏」

アンダーソン:タイプライター

チェイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調より

         第3楽章、第4楽章



 鈴木優人はこの1月にもKitaraのニューイヤーコンサート(1月14日)に出演、札幌のファンにもすっかり顔馴染みになった。

 コロナ禍で、3年間延期になっていたプログラム。オムニパス風のプログラムだが、曲目の選択が面白く、バロックから現代まで多種多様の作品が次々登場して飽きない。

 きがるにオーケストラのタイトルにふさわしく、どの作品もアクティブで生き生きとしたノリのいい指揮ぶり。チェンバロも演奏し、お話しも楽しく、大活躍だ。子供達はもちろん、大人が聴いても楽しい演奏会だった。


 三善晃の開館記念ファンファーレは、文字通り1997年のKitara開館時に大ホールで初めて公式演奏された作品。このオリジナルの編成では,前回は2007年7月4日、開館10周年記念演奏会で再演(尾高忠明の指揮、札響とPMF オーケストラ・ブラスセクション)されているので、16年ぶりの演奏。

 今回は札響と札幌日本大学高等学校吹奏楽部 金管セクションが共演。演奏者がステージ上と、2階席左右に客席を囲むように配置され音響効果もあり、広がりのある響きで、中々の力演。やはり名品だ。

 三善晃の指示では、オルガン前にホルン3名が配置されるはずだが、今日は反対側2階客席正面に配置。個人的にはオルガン席に配置された方がホール全体に響きが届くとは思うが、これは指揮者の考え方だったのだろう。

 なお、三善晃は1972年に開催された札幌オリンピックのファンファーレを手がけたことがあり、その縁があっての作曲。


 今日のコンサートマスターは田島高宏。ヴィヴァルディのソロを演奏、これが素晴らしかった。演奏前に鈴木優人がスコアに記載されたソネットの内容を説明。イタリアの暑苦しく辛い夏の様子が繊細にかつ鮮やかに表現されており、これは出色の出来。


 サン=サーンスでは、吉村怜子のオルガンソロが引き締まった音色で存在感を感じさせ、この作品の醍醐味を存分に伝えてくれた。欲を言えば、オーケストラの色彩感がもう少しあれば、とも思われたが、全体的に好演。


 最後のチャイコフスキーは札響の実力を示してくれた力演。ただ、今日は12型編成だったので、弦楽器の響きが管楽器に押され気味だったのが惜しい。この作品に限らず、今日のようなプログラムであれば、14型で,厚みのある弦の響きを聴きたかったところ。


 その他に、ストラヴィンスキーと演出効果満点のアンダーソン、中江の貫禄充分の歌唱によるモーツアルトの夜の女王のアリア。


 アンコールにオッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄」序曲より。札幌日本大学高等学校吹奏楽部と中江がステージに登場し、ダンスを披露しながらの演奏。これはサービス満点の素敵なアンコールだった。


 鈴木優人がトークで話していたとおり、演奏する方は多種多様の作品が並び、気軽ではなかったようだ。とは言え、指揮者とオーケストラ、各ソリストの獅子奮迅の大活躍があって、連休期間中にふさわしいとてもいい演奏会だった。

2023/04/25

 札幌交響楽団 652 定期演奏会


202342313:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮/川瀬 賢太郎(札響正指揮者)
ピアノ/オリ・ムストネン
管弦楽/札幌交響楽団


ムソルグスキー(ショスタコーヴィチ編)

       歌劇「ホヴァンシチナ」前奏曲〝モスクワ川の夜明け〟

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲 3
ラフマニノフ:交響曲 2番 


  2023年新シーズン定期の開幕は川瀬の指揮。ラフマニノフが良かった。

 プログラムに掲載された川瀬の文章によると、この作品をもう10回以上指揮をしているとのこと。そのためか、音楽作りに迷いが一切なく、音楽が練れていて、聴いていて安定感がある。

 溌剌としたエネルギーが感じられ、ラフマニノフならではの息の長いフレーズは一気に歌い上げ、また、色々なモティーフが錯綜して迷路のようになっている箇所でも、明確に交通整理をして、わかりやすくまとめ上げていて、気持ちがいい。

 約1時間の大作で、演奏によってはやや饒舌さを感じさせることもある作品だが、今日は弛緩することが全くなく全体を見事にまとめ上げていた。

 何よりもオーケストラの響きが充実していて、申し分ない。今日は14型で、弦楽器群がいつもより中心寄りに密集した配置のためか、とても豊かな濃い響きだったのが印象的。管楽器のソロも秀逸。

 健康的で明るいロマンティシズムに満ちており、この作品を作曲した頃のラフマニノフの精神的充実感が見事に表現されていた名演だった。


 プロコフィエフを弾いたムストネンはかなりユニークなピアニスト。

楽譜を見ながら全体を遅めのテンポで演奏し、普通なら一息で弾くフレーズを断片的に切り刻んで、スタッカートやノンレガートなど多彩なアーティキュレーションを付けて表現。あたかも、この作品をアナリーゼし、聴衆にレクチャーをしながら演奏しているようだ。

 部分的には面白いが全体を通して聴いてみると、音楽が断片的になり過ぎて、一貫した流れがなく、散漫な印象しか受けない。作品から何か新たな発見を引き出してくれるわけでもなく、どのような意図でこのような演奏を聴かせてくれたのかよくわからない。あえて言えば、第楽章の引き摺るような遅いテンポから、ストラヴィンスキー的な田舎風バレエ音楽の雰囲気が感じられたくらいか。

 アンコールに自作の作品を演奏。指揮者としての活動も多いようだ。

 川瀬がこの解釈によく合わせて、破綻なくオーケストラをまとめ上げ、これは見事な職人風の仕事ぶり。


 冒頭のムソルグスキーは繊細で透き通った響きのいい演奏。以前聴いたリムスキー=コルサコフ版(202211月6日、名曲シリーズ)よりも音の透明度が高いようだが、作品そのものの魅力は以前の編曲の方がよく伝わってきたような気がする。

 

 コンサートマスターは田島高宏。

2023/04/12

 札幌交響楽団hitaruシリーズ定期演奏会第13


202341119:00  札幌文化芸術劇場hitaru


指揮/大植英次

ピアノ/アンドレイ・ガヴリーロフ


糀場富美子:広島レクイエム

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

ショスタコーヴィチ:交響曲第5番 


 糀場は札響初演。作品の初演は198586日に本日の指揮者、大植(広島出身)によって「広島平和コンサート」で行われている。弦楽オーケストラにより演奏される。

 冒頭、低弦で演奏されるテーマがパッサカリア風に、展開されて行く形式で書かれているので、構成感があり、かつ調性感もあるので理解しやすい。

 大植は、これら作品の特質をわかりやすく、深い情感を込めて指揮、かつ会田の見事なソロもあって、実に聞き応えのあるいい演奏だった。札響の弦楽器の美しさが際立っていた。

 原爆投下後の悲惨な情景と死者への追悼を込めた作品だが、ある程度冷静に描いているようだ。いつの時代にあっても戦争の悲惨さを訴えかけてくる普遍性を持った作品で、それを力強く伝えてくれた演奏でもあった。

 

 ラフマニノフは、ピアノが一つのパートとして加わった交響曲のような演奏。大植の指揮が、アクティヴで、先へ先へと進んで行く。オーケストラがよく響き、歌い、ロマンティックな表現にも事欠かず、ホルンの素敵なソロがあるなど、こんなに雄弁な表情のこの作品は初めて。

 ピアノはオーケストラの響きに埋没していて、ディテールがよく聴き取れなかったが、正確に弾けていないところもあり、大植がそれをカバーしていたのかもしれない。

 ガヴリーロフはもう40年近くも前だろうか、名ピアニスト、リヒテルと共にヘンデルの組曲を演奏した映像と録音があり、その印象が強く残っているが、今日のラフマニノフを聴く限りは、当時とは全く別のピアニストになってしまったようだ。


 ショスタコーヴィチは充実した、いい演奏だった。今日は、オーケストラがよく響いており、今までhitaruで聴いた札響のコンサートでもトップクラスではないだろうか。響きの良質さでは、尾高忠明のイギリス特集(「偉大なる英国の巨匠たち」、2022618)、豊かさでは今日の大植だろう。

 作品成立の背景にある様々な政治的な要素などは、今日の演奏からはあまり感じられず、むしろ評価の定まった古典的な名作として仕上げられた演奏だったのではないか。

 ショスタコーヴィチならではの緊張感のある表情やオーケストレーションが見事に再現されており、豊穣なオーケストラの響き、優れた弦楽器の響き、秀悦な管楽器群のソロなど、申し分ない。

 特に後半の、第楽章の静謐な響き、第4楽章での幅広いダイナミックな表現など、オーケストラを聴く醍醐味を充分味わえることができた演奏だった。

 hitaruは今年で開館5年目だが、今日の演奏を聴くと、札幌コンサートホールKitaraとは違った、魅力ある濃密な響きが聴けるようになってきたようで、札響を聴く楽しみ方が一つ増えたようだ。

 コンサートマスターは会田莉凡。


2023/03/19

 山田 和樹指揮   横浜シンフォニエッタ


202331719:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮/山田 和樹
ヴァイオリン/川久保 賜紀
管弦楽/横浜シンフォニエッタ


小田 実結子:Olive Crown(新作初演)
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ベートーヴェン:交響曲 7 イ長調 作品92



 横浜シンフォニエッタは常設ではないが、集中力のある、上質の高い水準のオーケストラだ。山田の手兵のオーケストラだけあって、自分のやりたい事を全部やり遂げたというコンサート。他のオーケストラでは見せない素顔の山田和樹を見たようで、(ビジターのオケでも同じだとすれば凄い)実に楽しいコンサートだった。
 演奏は、解釈には好みがあるので、評価は様々だろうが、全体的に生き生きとしており、ダイナミックで表情豊か。指揮者の意図が明確に伝わってくる、とてもわかりやすい演奏スタイルだった。


 小田の新作は山田の指揮姿を思い浮かべながら作曲した作品だそう。明確な調性のあるクラシックなスタイルの作品で、明るく屈託がなく、気軽に聴ける親しみやすい作風の作品。そのイメージ通りの、生き生きとした、冒頭に相応しい演奏だったのではないか。


 ブラームスは、川久保と一身一体となった、これぞ協奏曲、とも言いたくなる素晴らしい演奏だった。川久保は勿論のこと、山田もともかくよくオケを歌わせ、無機的なフレーズは全く無い、実に感性豊かな演奏だ。

 第1楽章は、語りかけるように細部まで繊細に表現した、柔らかい表情の演奏。ヴィルティオーゾ的なスケール感より音楽性を重視した解釈で、実に表情豊か。続く第2楽章も同様に、時間をたっぷりかけ、良く歌い込み丁寧に仕上げた演奏で、なかなかこのようなブラームスは聴けるものではない。普通の指揮者なら、さっと進んで先に行ってしまう所も、ソリストとともに時間をかけて仕上げていき、その統一感は見事だ。

 第楽章は対象的にソリスト共々力感あふれる演奏。川久保の冒頭のテーマの骨太で、たくましい演奏に応えて、オーケストラを力強く響かせ、フィナーレに相応しい演奏だった。

 第1、2楽章を丁寧に仕上げた分、全体的に長めになるかと思えた演奏時間だが、意外にもほぼ標準的な尺に納まっており、これは2人の全体のまとめ方のうまさのためでもあろう。

 ソリストアンコールにバッハの無伴奏パルティータニ短調よりサラバンド。語りかけてくるような繊細なバッハだった。


 ベートーヴェンはやはり山田の個性が発揮された好演。おそらく即興的に色々表現を変えたり,テンポを動かしたりしているのだろう、ところどころにオーケストラの乱れが散見したが、スフォルツァンドなどの強烈なアクセントや大胆なクレッシェンド、きめ細かいピアニッシモなど、やや大袈裟か、と思えるほど強弱の幅が大きい表現。

 10型編成ゆえの細かい小回りの効いた演奏で、古楽器オーケストラを想起させるような器用さも感じさせ、その歯切れの良い、力強く生き生きとした表現は聞き応えがあった。聴き手の気持ちを一瞬たりとも逃さないエネルギッシュな指揮で、視覚的にも楽しめた演奏だった。


 アンコールはベートーヴェンの第2番交響曲から第4楽章。陰影がはっきりしていて、均整感のある、切れ味鋭い即興風の演奏で、かつて聴いた小澤征爾の指揮ぶり(2015年松本)を思い出させる音楽作りだ。ちょっとやり過ぎか、とも思えたが、ただ第7番同様に、そこが嫌味にならずに、説得力ある演奏に聞こえてくるところが山田の素晴らしい所だ。

 最初と後半始めには指揮者のプレトークがあり、札幌に関係ある団員を紹介するなど、お話も親しみやすく、手慣れている。

 スター性もあり、これからどのような指揮者になっていくのか、とても楽しみな逸材。次回は札幌交響楽団と一緒に聴いてみたい。

2023/03/13

 Kitara&札幌音楽家協議会連携プロジェクト〉

札幌の奏響(ひびき)Ⅲ 


202331115:00 札幌コンサートホールKitara 小ホール


指揮/大嶋 恵人(バッハ)、阿部 博光(ベートーヴェン)
合唱/札幌音楽家協議会合唱団
管弦楽/札幌音楽家協議会室内オーケストラ

オルガン/吉村怜子


J.S.バッハ:幻想曲ハ長調BWV570(オルガン独奏)

       モテット「主をたたえよ、すべての異教徒よ」BWV230
       教会カンタータ「泣き、嘆き、憂い、おののき」BWV12
ベートーヴェン:交響曲 3 変ホ長調 「英雄」 作品55



 前回「札幌の奏響II」が平成31年3月で、コロナ禍を経て、今回は3年ぶりの開催。

 バッハのオルガンソロはKitara所有のポジティフオルガンで。優しい音色で、よく歌い込まれた演奏。冒頭、気持ちを落ち着かせるには最適だった。


 モテットは少人数の合唱(ソプラノ7名、アルト5名、テノール3名、バス5名)で、各パートの人数がやや不揃いにもかかわらず、いいバランスでまとまっており、躍動感のある表現で、聞き応えがあった。


 カンタータは弦楽器と管楽器が加わっての演奏。オーボエが安定した美しいソロを聴かせ、アルト、バス、テノールによる歌手のソロはそれぞれが楽想に相応しい落ち着きのある歌唱。 

 バッハのカンタータを聴くのは本当に久しぶりだが、声楽ソロ、合唱、器楽グループとも、柔らかく優しい表情で、バッハの素晴らしさを語るが如く伝えてくれた、とてもいい演奏だった。小編成ゆえに演奏はかなりの精度を要求されるが、それに充分応え、しかもホール内にとてもいいバランスで響いており、これは指揮の大嶋の功績。


 後半のベートーヴェンは、小編成(37名)で小ホールで聴くにはちょうどいい規模。対向配置で(先日の札響hitaru定期もそうだった。今流行り?)、ティンパニーが上手側。この配置が良かったのかもしれない。響き、バランスがとてもよく、聴きやすい良質のアンサンブルだった。

 演奏は小ホールのよく響く空間を上手に活用した、無理のない自然な抑揚の表情で、柔らかい響きの演奏。それぞれのパートがとてもよく聴こえ、しかもメンバー個人個人の積極的な表現が、ちょうどいいバランスでまとまり、全体のアンサンブルとして形成されていたのが印象的。これは大編成からは感じられない心地良さだ。

 管楽器グループのソロは生き生きとしており、かつ弦楽器グループは、賛助出演が多いパートがあったにせよ、全体的に安定感があって良かった。コンサートマスターの吉川美希子が全体を見事に統括しており、これは立派な仕事ぶり。

 指揮の阿部のヒューマンな音楽スタイルが発揮された演奏で、このメンバーであれば、各楽章の性格描写をもっと繊細でクリアな表現で演奏できるのでは、とも思ったが、常設ではないオーケストラをよくまとめ上げていたと思う。


 合唱、オーケストラとも安定しており、小ホールで、日中気軽に聴くには、最適の、質の高い演奏会だ。今後も是非継続することを期待する。なお、札幌音楽家協議会については同会HPを参照のこと。

 アンコールにバッハのアリア(G線上のアリア)。今日は12年前に東日本大震災が発生した日。プログラムは犠牲者への追悼の意を込めた選曲だった。

2023/03/12

 回想の名演奏

群馬交響楽団創立75周年記念演奏会

山田和樹指揮/群馬交響楽団東京演奏会2020


2020103019:00  東京オペラシティコンサートホール


指揮/山田和樹

ヴィオラ/今井信子

管弦楽/群馬交響楽団


ベルリオーズ:イタリアのハロルド

ガーシュイン:パリのアメリカ人

ラヴェル:ラ・ヴァルス


 今話題の指揮者、山田和樹を初めて聴いた演奏会。1979年生まれで,当時は40才になったばかり。まだ若手の世代に属するが、傑出した、素晴らしい指揮者であることを確信できた演奏会だった。

 映像で見ていた限り比較的地味な指揮者に思えたが、実際は動きも大きく、飛び上がったりするシーンもあり、若々しくエネルギッシュである。

 指揮は明確、オーケストラをよく統率しており、そこから生まれる響きは極めて充実している。明らかにオーケストラ本来の実力を余すところなく引き出す、指揮者として最も必要な能力を持っていることを証明している。

 たくましい生命力を感じさせ、音楽は一歩も停滞することがない。音楽の作り方も自然で嫌味が無い。現在の日本の指揮者の中でも、おそらく抜群の才能の持ち主だ。

 一方の群馬交響楽団も聴くのは初めて。山田の見事な指揮にもよるが、音も響きも美しく、安定した良質のオーケストラだ。


 最初は今井信子のヴィオラソロで、ベルリオーズ。この日、聴いた席は3階席下手側のバルコニー席(3L2列席)で、ステージの半分が見えない見切り席。身を乗り出して見ると、辛うじてコンサートマスターの弓の先までと、ソリストのボーイングの様子を確認することができる程度。だが、音響的には素晴らしく、聴こえてくる音は厚く、充実している。演奏は見事だった。

 ヴィオラソロはとてもきれい。音程はよく、音色も充実しており、申し分ない。オーケストラは安定しており、ヴィオラコンチェルトとも言えるこの作品の魅力をしっかり伝えてくれた。ここでの山田はオーソドックスに全体をまとめ上げ、なかなかいいセンスだ。


 より素晴らしかったのは後半。ガーシュインは、リズム感、メリハリある表現、自由自在の管楽器のソロ、オケの充実した響きなど、前半とはがらりと雰囲気が変わり、ホールいっぱいに豊かな響きが広がり、文句なしに楽しめた。


 最後はラヴェルの「ラ・ヴァルス」。一筆書きのような鮮やかな指揮で、最後まで一気に演奏した爽快な演奏。おそらく即興的にテンポをかなり変えていたような気もするが、オーケストラが見事に反応し、この作品の面白さ、管弦楽法の素晴らしさが見事に再現された名演だ。

 色彩感、躍動感、生命力があって、これは他の誰からも聴けない音楽だ。

 アンコールは無し。団員も満足した表情を見せていた。


 この当時は,コロナ禍の制限下で、市松模様での席設定。23階正面席はそれなりに埋まっていたが、それ以外は比較的空席が多かった。

 

 なお、3月17日に、札幌コンサートホールで、山田和樹指揮の横浜シンフォニエッタ演奏会がある。川久保環紀をソリストにブラームスのヴァイオリンコンチェルトとベートーヴェンの交響曲第7番を演奏予定。前回聴けなかった古典を中心にしたプログラムで、大いに楽しみだ。

2023/03/10

札幌交響楽団hitaruシリーズ定期演奏会第12 


20233 919:00  札幌文化芸術劇場 hitaru


指揮 /鈴木 雅明

管弦楽/札幌交響楽団


矢代秋雄:交響曲(1958)

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」


 バッハ演奏で著名な鈴木雅明だが、札響を指揮するのは2013年1月12日のKitaraのニューイヤーに続いて2回目。

 矢代秋雄が名演だった。札響初演で、吹奏楽版で演奏される機会もあったようだが、オリジナルの形式では、おそらく北海道初演だろう。

 矢代は1976年に46才で他界したため、作品の絶対数こそ少ないが、ピアノ協奏曲は何度も再演されており、また初心者向けのピアノ作品が少なからずあるため、音楽ファンならずとも一度は彼の作品を聴いたことがあるのではないか。


 「交響曲」は細部まで磨き上げられた演奏で、特に管楽器の繊細な表情と豊かな感情表現、管弦打のそれぞれのアンサンブルでの絶妙なバランスが素晴らしく、ほぼ完璧と思わせるほど。それら細部が積み重なって、作品全体の構造が明晰に描かれていく過程は素晴らしかった。

 オーケストラの奏者1人1人がいつも以上にお互いを実によく聴き合い、緊張感がありながらも、様々なモティーフを色彩豊かに表現していたのが印象的だった。細部まで、矢代の意図が美しく見事に表現されており、しかも札響の透明な音色で、ここまで豊かな感情表現になるとは、作曲者も思っても見なかったのではないか。

 第1楽章の、積み重なる微妙な色合いのハーモニー、第3楽章でのイングリッシュホルン、アルトフルートの秀悦なソロ、ヴィヴラホンの生み出す魅惑的な響きの美しさと管楽器群との調和など、全体的に透き通った音色で、とても魅力的な演奏を聴かせてくれた。

 それと同時に今日の演奏からは、作品に含まれる多様な要素、戦後すぐでのパリ留学の経験、同世代の黛敏郎の涅槃交響曲の影響、和楽器の模倣などと同時に、今の作曲家にはない、深い音楽性、精神性を感じ取ることができたのは、とてもいい経験だった。

 オーケストラの配置は対向配置で14型。コントラバスは下手側に。

オーケストラ・ピットがステージと同じ高さまで上げられて、前方にかなり広いスペースが出来ていて、そのためか、いつもより音響的に広がりがあり、特に矢代はいい響きがしていた。


 余談だが、バッハ繋がりで言えば、矢代と小林仁氏との対談形式で書かれた「バッハ平均律の研究(音楽之友社、昭和57年発行)」は矢代の作曲家としての鋭い視線からこの作品を語った名著だと思う。早すぎる死で、第巻のみで終わってしまったのがとても残念だが。

 

 チャイコフスキーは、バッハを指揮する鈴木からは想像出来ない熱演。矢代ほどの細部へのこだわりは無く、全体を大きな流れで捉えた、スケール感のある演奏だった。

 ただ、管楽器群が、果たしてこの場所で、このような音で吹いていいのだろうか、という迷いを感じさせる箇所や、即興風の表現か、と思わせるところもあって、指揮者の意図が矢代作品ほど徹底されていなかったようだ。

 コンサートマスターは会田莉凡。