2022/05/07

 Kitaraあ・ら・かると

スプリング・ブラス~中学生スペシャル!

市内中学校吹奏楽部によるこの日だけのスペシャルコンサート


2022年5月4日15:30  札幌コンサートホールKitara大ホール


吹奏楽/札幌市立厚別南中学校、清田中学校、啓明中学校、向陵中学校   

【札幌市立厚別南中学校】
指揮/浜坂 裕樹
1.鈴木 雅史:マーチ「ブルー・スプリング」

 (2022年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲)
2.バルトーク/後藤 洋:ルーマニア民族舞曲
3.森山 直太朗/郷間 幹男:アルデバラン
4.東海林 修:ディスコ・キッド

【札幌市立清田中学校】
指揮/多米 恵理子
1.プレス/石見 音生:交響組曲「ハセナ」より 結婚の踊り
2.鈴木 英史:ジェネシス

 (2022年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲)

3.長万部 太郎/金山 徹:WAになっておどろう
4.馬飼野 康二/野崎 雅久:勇気100%

【札幌市立向陵中学校】
指揮/田中 義啓
1.鈴木 英史:ジェネシス

 (2022年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲)

2.内藤 友樹:メタモルフォーゼ~吹奏楽による交響的変容
3.秦 基博/西條 太貴編曲:ひまわりの約束
4.宮川 彬良:マツケンサンバII

【札幌市立啓明中学校】
指揮/鈴木 健夫
1.Ayase/郷間 幹男編曲:怪物
2.Ayase/郷間 幹男編曲:群青
3.奥本 伴在:サーカスハットマーチ

 (2022年度 全日本吹奏楽コンクール課題曲)

4.メンケン/高橋 宏樹編曲:アラジン・メドレー
   ~フレンド・ライク・ミー、ホール・ニュー・ワールド、

    アリ王子のお通り~



    札幌の中学校の合唱、吹奏楽のレベルは高く、全国レベルでの各種コンクールで入賞校が多いのは承知の通りだが、その実力をKitaraで市民に幅広く紹介するために実現した演奏会。

 初めて開催されたのは2009年で、形態は数校の学校が合同で演奏する吹奏楽及び合唱。教育委員会はじめ、多くの学校教育関係者の協力を得て、実施に至った。この年はKitaraのバースデイコンサートとして開催した。

 専属オルガニストとの共演があったり、オルガンと合同合唱・吹奏楽のためのオリジナル作品が生まれたりと、活動は順調に広がっていったが、コロナ禍という想定外の出来事が発生し、残念ながら中断してしまった。

 今回は、コロナ禍での制限があり、実現したのは学校別の吹奏楽公演のみだが、少しずつでも復活できたのはとてもよかった。各学校とも限られた練習時間の中、よく全体をまとめていたと思う。


 各校の演奏の中では、札幌市立厚別南中学校のバルトーク:ルーマニア民族舞曲、札幌市立清田中学校のプレス:交響組曲「ハセナ」より 結婚の踊り、札幌市立向陵中学校の内藤 友樹:メタモルフォーゼ~吹奏楽による交響的変容、札幌市立啓明中学校の奥本 伴在:サーカスハットマーチが印象に残った。


 各校とも司会進行役の生徒が学校の自己紹介と演奏曲目について説明してくれるので、わかりやすい。 

 まだ新学期を迎えたばかりの時期なので、音楽的に熟成していくのは各校ともこれからだろうが、中学生の溌剌とした生命力あふれる演奏は活力を与えてくれるので、出演者の関係者だけではなく、もっと幅広い観客層に聴いてほしい公演だ。

 コロナ禍が早く落ち着いて、すべて復活できることを祈る。


Kitaraあ・ら・かると

 <北海道教育大学・札幌大谷大学・Kitara連携事業>

若い芽の音楽会


北海道教育大学・札幌大谷大学の卒業生・在校生7組が出演


2022年5月4日13:00  札幌コンサートホールKitara小ホール


1. ヴァイオリン・ソロ

 マスネ:タイスの瞑想曲
 サン=サーンス/イザイ編曲:ワルツ形式の練習曲による奇想曲
  ヴァイオリン/徳田 和可
  ピアノ伴奏/大野 真希

2. 
クラリネットデュオ&ピアノ
 ベールマン:クラリネットとピアノのためのデュオコンチェルタント  

 作品33
  クラリネット/鈴木 聖来、原田 茉優 
  ピアノ/中村 美月

3. 
ピアノ三重奏
 シャルヴェンカ:ピアノ三重奏曲 作品121より 第3楽章
  ヴァイオリン/土屋 有希乃
  ヴィオラ/垣原 慰吹
  ピアノ/増川 里菜

4. 
サクソフォン・ソロ
 ウォーレイ:サクソフォン・ソナタ
  サクソフォン/渡邉 丈留
  ピアノ伴奏/二階堂 瑞穂

5. 2台ピアノ
 ミヨー:スカラムーシュ 作品165b
  ピアノ/安達 莉子、佐藤 美空

6. 
ピアノ・ソロ
 シューマン:幻想曲 作品17 ハ長調より 第1楽章
  ピアノ/大野 真希

7. 
フルート・ソロ
 プーランク:フルート・ソナタ FP164
  フルート/類家 千裕
  ピアノ伴奏/吉田 妃菜



昨年はコロナ禍の緊急事態宣言解除後初めての主催事業として開催。今回は通常通り、「あ・ら・かると」期間中の開催となった。2003年からの実施しており、「あ・ら・かると」に移動は2016年から。

 ヴァイオリンソロは響きが小ホールいっぱいに広がり、音色もきれいだ。マスネもサン=サーンス/イザイ編曲も、隅々まで美しい音色で歌い込まれていた、とても音楽的な演奏。後半でシューマンを演奏する大野がとてもいいセンスの伴奏で、両者一体となり、素晴らしい音楽を作り上げていた。

 クラリネット•デュオ&ピアノが演奏したベールマン(息子)はなかなかドラマティックでスケールの大きな作品。同時代の作曲家達に霊感を与えたであろう、ベールマンの演奏レベルの高さが伝わってきた見事な演奏。また、19世紀の半ばにはクラリネットは、楽器として高い水準に達していたことを認識できた秀逸な演奏。ピアノパートも雄弁で、それを見事に演奏した中村も素晴らしかった。

 演奏機会の少ないシャルヴァンカのピアノ三重奏(1915)は、保守的だが、流麗でほの暗さを持つ独特の作風で、音楽的にまとめ上げるのは難しそうな作品。各楽器のバランスがとても良く、整った端正なアンサンブルだ。作品の魅力をしっかり伝えてくれた、よく考えられた演奏だった。


 ウォーレイは、サクソンフォンのための作品では最も難曲の一つだろう。この作品を技術的にも音楽的にも、見事にかつ鮮やかに聴かせてくれた秀逸な演奏。前向きのテンポで停滞することもなく、全く疲れを知らない、この楽器を演奏するために生まれてきたような印象さえ与えてくれた。技術的に素晴らしいのはもちろん、良く歌い込まれた感性の豊かさもあり、聞き応えがあった。ピアノ伴奏も見事。


 ミヨーは溌剌とした生命力あふれる演奏。この作品の特徴がとてもよく表現されていて、2人のセンスの良さに感心。2台のピアノのバランスが良く、騒々しくならずに、軽やかで、すっきりとまとめられており、楽しめた演奏。


 シューマンは本日唯一の19世紀前半のロマン派作品。優れた感性の持ち主で、よく考えられた演奏。細部まで音楽的に仕上げられており、バランス感覚のとても良いピアニスト。よく歌われていて音色もきれいで、この作品に込められた様々なシューマンの想いを余すところなく伝えてくれた。


 プーランクはアンサンブルとしてとても高いレベルに到達していた演奏。フルートもピアノも細やかな表情、息の長いフレーズ、次々と移り変わる気まぐれな感情など、作品の多彩な様相を見事に伝えてくれた。


 来場者も多く、子供と若者の祝祭でもある「あ・ら・かると」にふさわしい演奏会。これから飛び立つ若人の演奏を聴けるチャンスと、前回もそうだったが、演奏機会の少ない作品に触れる貴重な機会でもある。多様化の時代にふさわしく、様々なジャンルに優れた演奏家が育ってきているのがとても楽しみだ。今回声楽家が不在だったのが残念。次年度以降に期待しよう。

 Kitaraあ・ら・かると

きがるにオーケストラ


2022年5月3日15:00  札幌コンサートホールKitara大ホール


指揮・お話/太田 弦
ピアノ/角野 隼斗
管弦楽/札幌交響楽団


スーザ:星条旗よ永遠なれ
アンダーソン:シンコペイテッド・クロック
         フィドル・ファドル
ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー ※ピアノ/角野 隼斗
バーンスタイン:「ウェスト・サイド・ストーリー」より 

         シンフォニック・ダンス
バーバー:弦楽のためのアダージョ 作品11
J.
ウィリアムズ:「スター・ウォーズ」より メイン・タイトル


 
 
 ソールドアウト公演。あ・ら・かると
にふさわしく、2人の優れた若手演奏家が主役の楽しいコンサートだった。

 1人目の若手は、指揮者で、札幌出身の太田弦。1992年生まれで、Kitara開館時は5歳、開館25周年の今年は指揮者として登場。

 太田の指揮でオーケストラを聴くのは個人的には今回が3回目。ここ数年で更に経験を重ねたようで、以前よりも、より充実した、かつ音楽的に美しい響きを生み出せるようになった。堅実で、師の高関健氏を彷彿とさせる指揮ぶりだ。

 前半のスーザやアンダーソンは、指揮者とオーケストラの間に様子の探り合いのようなところがあったが、ガーシュイン以降オーケストラの響きが見違えるように良くなった。

 バーンスタインは、味付けがやや薄い箇所もあったにせよ、響きを上手くコントロールした上質の演奏。弦楽器だけのバーバーはよく歌わせ、表情が豊か。最後の J .ウィリアムズは、引き締まったスケールの大きな演奏で場内を沸かした。

 全体的には札響の特質である、バランス感覚の良い、美しい音色と響きを見事に引き出していた指揮だ。オーケストラの個性をしっかり把握できる指揮者のようで、将来が楽しみだ。アンコールに同じスターウォーズからインペリアルマーチ。


 もう一人の若手、ガーシュウィンを弾いた1995年生まれの角野隼斗は期待通りの鮮やかな演奏。ショパンコンクールやYouTubeチャンネルでの目覚ましい活躍ぶりで、最近の若手では最も注目されている1人だ。

 実際の演奏を聴いてみると、自由闊達に自分の感じた感情を思い切り表現する気持ちの良さがあり、昔風のお行儀の良いクラシックの演奏家にはない、新鮮な感覚を持ったピアニストだ。

 カデンツァの箇所で、ピアニカでメロディーを吹くアイディアなどユニークで面白いが、これが正解なのだ、と思わせる説得力がある。

 随所で即興が加わるが、悪趣味にならない。心柱をしっかりと立てた上に、様々な要素を付加していくタイプなので、音楽の全体像が崩れずに品の良さをいつも保っている。ソリストアンコールにガーシュウィンのスワニー。

 一昔前だと、このタイプの演奏家は、どことなく素人っぽさがあって、いつの間にか姿を消してしまう例も少なからずあったが、しかし、角野は間違いなくプロフェッショナル。抜群のリズム感と無理のない演奏テクニックの持ち主で、音もきれい。繰り返し聴きたくなる魅力あるアーティストだ。将来を期待できる俊英だ。

 Kitaraあ・ら・かると

3歳からのコンサート




「Kitaraあ・ら・かると」が5月3日からの3連休中に開催されるようになったのは2012年から。今回は、コロナ禍による中止と改装閉館を経て、 2020年以来3年ぶりの開催。 

 

 

 



 
期間中は各種コンサートの他、地下探検隊や子供スタッフ、楽器づくり体験などが同時開催されている。

 期間中開催されたコンサートから、この欄では「3歳からのコンサート」の紹介を。

 45分でお話付きのこのコンサートは2012年当初から開催されており、家族連れに人気がある。毎年多くの来 場者で賑わう。今年も3回のコンサートがほぼソールドアウト。未就学児の多いコンサートとしては、皆きちんと鑑賞していたのでは。基本的にはコンサートの内容次第だ。


 

 I チェロ 

2022年5月3日10:30  札幌コンサートホールKitara小ホール


チェロ/加藤 文枝 ピアノ/小澤 佳永


エルガー:愛のあいさつ
サン=サーンス:「動物の謝肉祭」より 白鳥

フォーレ:蝶々

バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番よりプレリュード

ピアソラ:リベルタンゴ

ブラームス:子守唄 作品49-4

コネッソン:「アガルタの歌」より王の前でのダンス

ドビュッシー:月の光
グリーグ:チェロ・ソナタ イ短調 作品36より 第1楽章 


 カジュアルで、垢抜けた、お洒落な感性を持ったチェリスト。中でもバッハが、軽やかで、爽やかな演奏。かつての巨匠達のような威圧感が全くなく、新鮮で素敵。他の作品も、それぞれの特徴を上手く表現しながらも、枠にはまらない自由さがあって、子供が親しみを持って楽しめそうな演奏だ。お話は短く明瞭でちょうどいい長さ。最後のグリークは未就学児にはちょっと長かったかもしれないが、引き締まったいい演奏。全体のプログラミングは静動の対比の工夫もあり、またピアニストがソロ含めとても素晴らしい演奏で、チェロをしっかり支えていた。


II フルート✖️ギター

2022年5月4日10:30  札幌コンサートホールKitara小ホール


フルート&ピッコロ/泉 真由 ギター/松田 弦


鈴木大介:マカロン公爵

J.S.バッハ/グノー編曲:アヴェ・マリア

ディアンス:フォーコ(ギターソロ)
ピアソラ:「タンゴの歴史」より I. ボルデル 1900

モーツァルト:トルコ行進曲

       歌劇「魔笛」より夜の女王のアリア
ジブリメドレー 

プホール:「ブエノスアイレス組曲」よりIII. サンテルモ


 フルートの、芯があってまっすぐ伸びる、むらのない美しい音色がとても魅力的だ。さりげなく吹いているようだが、実はこのように演奏できる人はすくない。ホール内にすっきりと音が透るので、子供達にも内容が良く伝わる、とてもわかりやすい演奏だ。お話も上手。

 ギターの松田弦はフルーティストを立てながらも存在感抜群。2人のアンサンブルは多彩な表情があって楽しかった。ギターが一緒だと、やはりピアソラ、ポフォールといったリズミックな南方系作品が特に素敵で、子供達も心惹かれていたようだ。


III バリトン

2022年5月5日10:30  札幌コンサートホールKitara小ホール

バリトン/ヴィタリ・ユシュマノフ ピアノ/新堀 聡子


ビゼー:歌劇「カルメン」より 闘牛士の歌

ラフマニノフ:朝

チャイコフスキー:それは早春のことだった

ラフマニノフ:夜の神秘な静けさの中

白石光隆:プリヴェット・スパシーバ
山田 耕筰:鐘が鳴ります 

武満徹:小さな空

小椋佳:愛燦燦

トスティ:理想の人

    「慰め」より 夢を見て、私の愛する魂よ!

グノー:歌劇「ファウスト」より祖国を離れる前に


 ロシア出身で日本在住。声量が豊かで、ホールいっぱいに響く。最初の闘牛士の歌では、場内が水を打ったように静かになり、聴衆は皆集中して鑑賞。ロシアの歌が素晴らしかった。一方で日本の歌では歌詞が不明瞭な箇所もあったが、内容がすべて伝わらなくとも、この人の歌には心の琴線に触れるような優れた音楽性がある。歌だけで充分魅了させる力のある人だ。白石光隆の歌で、ロシア語での挨拶の練習を子供達と行う以外、聴衆に話しかける場面が少なかったのが残念。伴奏は、細やかな配慮があり繊細で、歌手をしっかりサポートしていて、良かった。

2022/04/29

 現代のチェロ音楽コンサートNo.30

〜20世紀の美しき小品を集めて


2022年4月27日19:00  ザ・ルーテルホール(札幌市中央区大通西6丁目)


チェロ/文屋治実

ピアノ/浅井智子

 


クーラ/南 聡 編:結婚行進曲(1908)
ヴィラ=ロボス:黒鳥の歌(1917)
ブロッホ:ニーグン(1923)
ショスタコーヴィッチ:ロマンス Op.97a-8 (1955)
チャップリン:Oh! That Cello (1916?)
ペルト:鏡の中の鏡(1978)
モンポウ:チェロとピアノのための橋(1976)            
南 聡:チェロとピアノのためのカヴァティーナ(1994)
黛 敏郎:独奏チェロのための「文楽」(1969)
平井 康三郎:「さくらさくら」によるパラフレーズ(1953)
成田 為三/毛利 蔵人 編:浜辺の歌(1916?/1997)


 

 チェリストの文屋が92年から開催しているシリーズで、今年でちょうど30回となる。当日配布された文屋自身のプログラムノートによると、20世紀以降に作曲された作品のみのコンサートで、今まで演奏してきた作品は18カ国で110曲程だそうだ。


 今回は、筆者にとっては後半の幾つかの有名な作品を除いて、初めて聴く作品ばかりだ。1曲ずつが誠実に、音楽的にとても丁寧に仕上げられていて、しかも強い説得力がある。文屋の、この企画に込めた情熱が強く感じられた、聞き応えのあるいい演奏会だった。

 また、本日のように未知の作品を聴く場合は、プログラムノートがバイブルだ。文屋の解説は、作品の特徴と時代背景を簡潔にわかりやすく、かつ読みやすくまとめた文章で、鑑賞にとても役に立った。

 

 長年、文屋とデュオを組んでいるピアノの浅井智子が素晴らしかった。この人はソロでも伴奏でも、もうかなりの経験がある名手だが、いつも新鮮で、隅々まで細かい気配りが行き届き、共演者と一心同体となった、暖かく上質の音楽を表現する。

 音はきれいで、かつ曖昧さがなく、雑音が全く無い、ものすごくよくコントロールされたテクニックだ。ソロで主役になったり、チェロと一緒に動いたり、和声の支えを行ったりなど、あらゆる場面に対応できるとても素敵なピアニストで、こういう演奏ができる人は本当に数少ないと思う。

 

 ここのホールは座席数216席で、響きが豊か。横に広く奥行きが浅い場内は、最後列でも演奏者を近くに感じることができる。

 文屋と浅井はこのホールの特性を実によく生かした演奏。2人の演奏は力みがなく、楽器が自然に無理なく響き、多彩な表情がよく伝わってくる。特に弱音での両者の繊細な表情はこのホールならでは。これ以上広いホールだと、特に文屋の意図は伝わってこないだろう。また、このホールにはフルコンサートピアノの音は大き過ぎるが、それを見事にコントロールし秀逸なアンサンブルを聴かせた浅井が見事。


 プログラムはほぼ作曲年代順。冒頭の3曲、クーラ、ヴィラ=ロボス、ブロッホは、重苦しい時代背景と民族的な葛藤のような複雑な感情がよく表現されていて、何か胸が痛くなるような暗さを感じさせた。

 続くショスタコーヴィッチとチャップリンは、明るさの中にも、時代に翻弄された2人の錯綜する精神の迷いのようなものが伝わってくる演奏。

 ペルトは、ピアノが終始3連符を繰り返す、催眠術のような不思議な感覚を持った、いつ終わるとも知れない作品で、これは面白かった。

 モンポウは、どこか気だるさと哀愁が、南の作品からはやや棘のあるユーモアが伝わってきた。

 黛は、気迫のこもった集中力のある演奏で、優れた世界的な作品である事を改めて認識させられた。

 平井の「さくらさくら」のパラフレーズと最後の毛利蔵人編の「浜辺の歌」は、特に後者がチェロならではの特性を活かした編曲で、楽しめた。やはりこの2つの歌曲は日本人にとってはなくてはならない名作だ。


 以上のそれぞれの作品の演奏についての印象は全てプログラムノートから啓発されてのもの。過去のも含め、ご本人のホームページで公開してもいいのでは。20世紀チェロ音楽の手引きとしても役立ちそうだ。

 プログラムノートによると体調も含め30回目は無理かと思っていたそう。しかし、今日の演奏からは力強い生命力と気迫が感じられた。次回以降の企画を大いに期待している。

2022/04/25

 札幌交響楽団 第644回定期演奏会

2022年4月24日13:00  札幌コンサートホール Kitara大ホール


指揮 : 広上 淳一(札響友情指揮者)

ピアノ :小山 実稚恵


武満 徹/群島S.

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番

R. シュトラウス/交響詩「英雄の生涯」


『第644回定期演奏会』に出演を予定していた、ハンガリーのピアニスト、デジュー・ラーンキは、未だ収束を見ないコロナ禍、および今般のハンガリーの隣国ウクライナにおける事態を受け、精神的身体的に万全の状態で演奏に臨めないとの判断から来日を中止することになりました。代わって、小山実稚恵(ピアノ)が出演いたします。曲目の変更はございません。誠に申し訳ございませんが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。 

このたび、ご多忙の中、急遽出演をお引き受けくださいました小山実稚恵氏に心より感謝申し上げます。

(主催者発表)


    2022年度Kitara第1回の定期公演は2人の就任記念演奏会。“友情客演指揮者“の”客演“が抜けて、この4月から「友情指揮者」となる広上淳一と、コンサートマスターに就任する会田莉凡。会田は先日のhitaru定期でデビュー済み。広上の肩書きは、あまり例のない珍しいポストだが、これから札響とはより深く良い関係を築いていく、ということなのだろう。


 武満徹の「群島S.」は札響初演。美しい群島〜瀬戸内海、ストックホルム、シアトル〜の多彩な姿を21人の奏者が表現する作品で、奏者は5つのグループ、ステージの下手・上手、中央、そして本来であれば客席側左右にクラリネットが配置されるのだが、今回は感染予防で、ステージ上の下手、上手の出入り口付近に移動しての演奏。

 広上の指揮はまとめるというよりは、個々の奏者の自由な感性に委ね、美しい群島を表現する、というものだ。首席クラスによる演奏のレベルは高かったが、一方で武満らしい研ぎ澄まされた繊細な響きはあまり感じられず、線のやや太めな武満ではあったが、これも指揮者の意図が反映されていたのだろう。


 ベートーヴェンを弾いた小山は、オーケストラとソリストが一体となって協奏して一つの音楽を築き上げる、という本来の協奏曲の姿を示してくれた見事な演奏。ここ数年での定期や名曲に登場した若手ピアニストとは格の違いを見せてくれた。

 細かい点を挙げればきりがないが、例えば第一楽章の展開部でニ短調でピアノソロが入ってきてト短調に転調していき、オーケストラと対話しながら展開していく箇所とか、ベートーヴェンの自作カデンツを弾き終えて、オーケストラと共にフィナーレに向かって行く推進力など、ここで聴くことができた両者の一体感は素晴らしいものだった。

 その他、第2楽章の豊かな抒情性、第3楽章の安定感と表現力など、おかしな言い方だが、これ以上ない音のはまり方だ。もちろん広上の指揮も小山と一体となって、鮮かな表情をオーケストラから引き出していた。

 Kitaraのスタインウェイだともう少し華やかさがあるはずだが、小山の音は渋め。しかし、この作品にふさわしい音を生み出していて、かつての園田高弘のような巨匠を感じさせる風格のある音だった。

 広上が引き出す音も渋く、それがより強い一体感を生み出していた。


「英雄の生涯」は定期では19年ぶり。ステージに百人以上が所狭しと登壇し、演奏する姿は壮観だ。広上は音量で圧倒することせずに、音楽的にいかにまとめ上げるかを主眼においての指揮だ。

 団員の自発的な表現を促し、必要以上にオーケストラをコントロールすることなく、全体をそつなくまとめていた。ソロは皆上手いし、仕上げもきれいだったが、正直言って、どことなく物足りなさがあったのも事実。せっかくの大編成なのだから、もっとその醍醐味を味わいさせてくれた方が聴衆としてはうれしかった。

 例えば冒頭のチェロ・バスのテーマなどもっと深く歌い込み、音がホール中に広がったほうが、これからの期待感が高まるように思えるし、全体的にバスのハーモニーの支え、土台がもう少しがっちりしていた方が安定感が出たのではないか。

 会田のヴァイオリン・ソロは田島とはまた違う味わいのある上質の演奏で、これからの活躍が楽しみだ。素晴らしい経歴の持ち主だが、田島が安定感のある落ち着いたコンマスぶりで札響をよく支えているので、負けず劣らず存在感のある素晴らしいコンマスとなって札響を率いて欲しい。

 オンラインプレトーク(田島・会田の対談)は、かつてのベルリンフィルの名コンマス、ミシェル・シュヴァルべの話題も出てきて楽しかった。今後も適度に舞台裏情報を伝えてくれることを期待しよう。